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局長の気焔万丈

思えば局長というのは、この宇宙港を束ね、ある程度進駐軍にも口を通せる立場の人間だ。

この日本の、No.2とまではいかないにせよ相当高い地位にあるのは確かである。それなりの苦労もあるだろう。



勤務時間も終わり、さあ帰ろうという時に局長が話しかけてきた。

「管理官、この後暇かね。酒でも飲まないかね」

実に珍しい事である。用事があったって行くだろう、かの人物にこうやって飲み事に誘われては。

「行きつけって程でもないが、いい店がある」

その後タクシーに揺られて飲み屋街、の更に路地裏に入り込んだ。

なんだか危なそうな感じだが、どうも宇宙人らばかり見かける。

「巣食ってた連中は粗方駆逐されたらしい、日本人はどうも我々の事が気になるみたいでね」

なんという事だろう、薄汚いゴロツキらの集会所だった路地裏は、奇異の目から隠れたい宇宙人らの寄り合い所みたいなところになっていた。

ついでに屋台とかも出来てた……これは違法では?

「ちゃんと許可取ってる……らしいが……」と自信なさげな返答である。多分違法である。

とはいえ相手が路地裏に潜む宇宙人だと警察も手出ししにくいのだろう、害も無いだろうし放っておいていいと判断したのかもしれない。

そうしてなんだか妙な煮物を作っている……宇宙おでんと名付けよう、宇宙おでんの屋台の椅子に座った。

「お、日本人とは珍しい」とガウラ人大将が言う。ここは日本だぞ!

「たまには部下に奢ってやらないと。日本式だ」

「確かにここは日本だからね局長」

別にそんな悪習まで真似なくても……と言いたいところだが今度に限っては珍しい話が聞けそうなので万々歳だ。


さて、酒も入って来て、局長の方もなんだか様子が変わって来た。

「君は、どうなの、クラウカタ警備員とは」

どうもこうもって感じだし、うーん……。

「というか、どうだねガウラ人の男の味は」

いや、そういう、肉食って感じではないのだが……。

「地球人はほら、淫乱って聞いたから……何か間違ったこと言ったかね……」

誰から聞いたのだろうか。多分アイツだろうけど。

「バルキン管理官から聞いたんだけど、やっぱり違うよね」アイツでした。

まあガウラ人は人生において殆どの場合一人の異性しか愛さないと言うので相対的には間違いではないのだろうが。

「驚いたよ、『フリン』とか『ウワキ』とか、古ガウラ語辞典を持ち出してようやく翻訳できたんだから」

400年前ぐらいから消えた言葉らしく、日本語での単語が現代の外来ガウラ語として地球に住むガウラ人コミュニティに定着している。

「……む、となると、今こうして二人でいるのも『フリン』になってしまうのだろうか」

人によってはなるだろう。当然そんな気はサラサラないので私としては問題ない。

「こういう事も含めて……ガウラ人にとって日本の治安は悪すぎる……無論日本以外なんて言うまでもない……」

ハァー、と深いため息を吐いた。

「この国には天皇陛下がいる。しかし、日本人は天皇陛下の臣民として相応しいだろうか……?いや待て、天皇陛下がいるから日本なのか、日本に天皇陛下がいるのか……」

なんだか、鶏か卵かみたいなことを言い出した。彼らの考え方を端的に表した言葉ではある。

王は臣下に、臣下は王に相応しい存在であるのが理想である、という考え方だ。

「大部分が相応しくはない、私は教化の必要性を強く感じているのだよ!」

なんか恐ろしい事を言い出したぞ!いつになくやる気満々である、珍しい。

「まあ、かと言って、それが自由な創作物の発生を阻害してしまうならしょうがないのだが……うーむ……」

私は特に相槌などは打っていないのだが一人で勝手に気焔を上げている。

「まずは教育機関、それから報道だ、いや報道などというものは日本には存在しない!まだあるぞ、まだ手ぬるい!」

局長の統治計画の発表会が始まってしまった。しかしまあ、こういう場だから別に気にするほどでもないだろう。

演説を話半分に聞きながら宇宙おでんの汁が染みた大根を頬張る。うーん、見た目の割にワイルドな味だ。

「さあ君はどう思う!こんな事、到底許されることではない!」

急に振られても何の事だかわからない!私は適当に、そうですね、と答えた。

「そうだろうそうだろう。いや……違う、改善の余地はあると思うが」

何なのもう。

「ああ……面倒だ、課題が山積みだ……」

これまた急に意気消沈して、テーブルに突っ伏してそのまま寝息を立て始めてしまった。

困った。「あーあ、局長、またかい……」大将もきっといつも困っているのだろう。

「最近はいつもこうだよ。なんだかデカい仕事でもしているのかね」

確かに、最近は忙しそうである。普段はロビーで呑気しているのに。

大将の言う通り、何か大きなことが動いているのだろうか。

そうなると、彼の気焔にも納得がいく。元々こんな事に熱心な人物ではなかったはずだからだ。

幾ら彼でも断れなかったり、避けられない仕事があったのだろう。

……それはそれとして、この酔っぱらいをどうしてくれようか。


二人して困っているとそこへ、ガウラ人の客が入って来た。

「こ、こんばんは大将、やってる? あッ、あなたは、偶然!」

なんとメロードであった。なんか妙な感じだが、彼もここによく来るのだろうか?

「ま、まあ……」なんか変である。嘘を吐いているのだろうか。

「……すまない、実は局長と二人で来てると聞いて」

としょぼんと語り出したが、大将が遮る。

「知り合い?じゃあよかった、局長が寝ちゃったから連れて帰ってあげてくれ」

「え、あ、はあ……」

本当にちょうどいいタイミングで来てくれたのは実にありがたい。私一人では抱えきれないだろうから。

帰り道、メロードに色々と聞かれた。

「何を話してたんだ?」

別に、局長が演説を始めたのを聞いていただけだったのだが。

「よかった……ほら、地球人は淫乱って聞いたから……」

誰から聞いたのだろうか。多分アイツだろうけど。

「バルキンから聞いたんだけど」アイツでした。あのクソ馬!


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