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臣民の務め:参考人招致


思えば帝国は軍事国家であり、その性質は伝統文化にもよく表れている。

軍隊には頭数が、そして威光と厳格さが必要なのだ。



「まあ考えておいてほしい、このお見合いの話をね」

差し出されたお見合い写真には(多分)美人のガウラ人女性が写っている。

「良い娘だよ、なんて言ったって私の弟に相応しい女性を探したのだからね?苦労したものだよ」

彼はこの女性がどれほど人の出来た人物であるかを語った。勤勉で優しく、ハッキリとモノを言う、というまあ少なくとも私よりは好人物だろう。

そして頼んでいたペペロンチーノが運ばれてくると、押し黙っているこちらを気にせず食べ始めた。

「実に美味いね、これは。ちと塩辛いが」

「あ、ああ、そうだろ……」

メロードは完全に意気消沈して、尻尾もたらんとテーブルの下に垂れている。

私も、内心モヤモヤが渦巻いている。私をここまでモヤモヤさせるというのは相当なものだ。

結局彼は自分の分を平らげると「それではまた後日」とさっさと出て行ってしまった。金は置いていけ。

そして残された我々の面前には冷えたハンバーグとうどんが残されていた。

「私は……私も、もうちょっと考えてみるよ。浮かれていた、のかもしれない……」

浮かれていたなんて言われては堪るものか、という言葉を飲み込んで、トボトボと店を立ち去るメロードを見送った。

結局会計は全部私が持った。泣きっ面にハチとはこの事である。


私とて外国人は好きじゃないし、日本人は日本人と結婚する方がいい、と思っていた。

ドラマや少女漫画みたく『二人で壁を~』とはいかない、現実問題として様々な懸案事項が重くのしかかる。

伝統、文化は、その国の人間にとって重要なものだからである。それを一部、時には殆ど全てを捨てさせなくてはならない。

当然自分が捨てなくてはならないという事もあるし、お互いに譲歩して、なんていうのは本人同士ならともかく『家』も絡んでくると途端に難しくなる。

というのをラスに相談したところ、なぜか妙に目を輝かせている。

「いィーじゃないですか、二人で壁を乗り越える!文化の壁、種族の壁、俄然燃えて来ますね!激エモっスねぇ~ッ!」

な、なんかキャラが変わってるよラスちゃん!?

「私に言わせれば如何にも庶民らしい浅ましい考えですよ」

ボロクソに言ってしまっているが、少し溜飲が下がった。

「しかしこの分だと家族も心配ですね、家族付き合いもしなくっちゃあいけませんから」

いつか聞いたことだが、ガウラ人は子沢山なのだというではないか(一回の出産で平均3人ぐらい生むので少子化知らずである)。

家族も多く、家同士の関りも多い、つまりはしがらみも多いのだろう。

「別に一人ぐらい他所にやったってどうってことないでしょーがねえ」

……まあともかく、上の方が頭が柔らかく下々の者どもの方が固い帝国においてはそう珍しくもない出来事らしい。

「常に人手不足ではあるんですがね、入植地の開拓もありますし、軍隊はいつでも必要ですし」

それだけ出生率があっても足りないのだから帝国はあまりにも広大である、銀河帝国万歳だ。

「あの警備員がどう思っているか、そして先輩がどう思っているかでしょうね」


「そいつが言う事は尤もな事だと思うぜ、何か困る事でもあるかい」

と言うのはエレクレイダーである。彼にも一応相談してみた、一応ガウラ人だし。

「一応って……俺は真っ当なガウラ人だぜ!?」だがロボである。「確かにな」

彼は左手をなんか変なドライバーみたいな工具に変形させて、それで自身の右腕の整備をしながら言う。

「しかし、誰だって自由には生きられないものだぜ、特にこういう古い国はな」

曰く、かつて起きた民主政治と資本主義の暴走と崩壊によって臣民に政治的無関心、デイヴィッド・リースマンによる分類でいうところの『伝統型無関心』を引き起こしたのだという。

「つまりはこういう事さ、『帝国と皇帝の為に臣民が出来る最良の事は、人頭を増やし献上する事』って考え方だ」

即ちそれは、国家に身を捧げる事こそが良い事であって、外国に出て行くなど言語道断である、という事だろうか。

「まあそうだな、そういう事になる。上流階級とか海外領や属国に出向した人の間なんかじゃそうでもないが、大体はそんな感じだぜ」

それではやはりメロードの家族は、こういう考えを持っているのだろう。

「まあ些細な事だろ。本人同士の問題だからな」


彼ら二人に相談して良かった……かどうかはまだわからないが、大いに参考になった。

やはり本人同士で話し合うのがベストかもしれない。


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