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臣民の務め:警備員の兄


かの警備員とは、多分、お互いに憎からず思っている、と思うのだが。

考えてみればなんというか、危ない橋、とでも言うべきか、そのような状況である。



その日も、特に異常もなく入国審査は続いていた。

毎日のように宇宙人の顔を見ていると、意外と違いが分かってくるものだ。

最近ではガウラ人の顔はほぼ判別できるようになっている。

「失礼ですが、この空港に私の弟が仕事に来ているようだが」

そうそう、ちょうどこの男性なんかはメロードに似ている。

「もし存じているならば教えていただきたい」

ふーん、と思いながら彼の名前を確認する。

『クラウカタ・エマウルド』

はて、どこかで見たような名字ではあったが、今一つピンと来なかった。

私にはわかりかねます、と言おうとした時、ラスが後ろで「あっ、これって……」と呟いた。

「先輩この名字ってあの警備員じゃないですか?」


その日の業務を終えると彼とメロードと私とでファミレスに行くこととなった。

私は別にいなくてもよかったんだが、メロードの方がどうしてもと言うので、特に彼の兄に用事があるわけでも無いが同席している。

いくつかの飲み物と料理を注文すると先んじてメロードが口を開いた。

「会えてうれしいけど、一体どうしたんだ急に」

「別に、お前に会いに来ただけだよ」

彼はメロードと比べると目が細く鋭く、さながらチベットスナギツネのような顔立ちである。

口数はそう多い方ではないようで、それだけ喋るとまた黙り込んだ。

「何か用事があるんじゃないのか」

「そうだな……用事が無いわけではない」

そう言って彼が持っていた鞄から台紙のようなものを取り出す。

「お見合いだよ、お前もそろそろ独り身は寂しかろう」

「え……」

台紙にはガウラ人の女性の写真が貼り付けられていた。うーむ、そう来たか。

「しかしなぁ、兄貴、急にそんな事を言われても……」

「何か不満か、申し分ないと思うがね。地球での生活が心配ならこちらに家を建てて暮らせばよかろう」

そうじゃないんだがぁ……とブツブツ言いつつ、こちらをチラと見る。

「ところで、その地球人は一体、どうしてここにいるのかね」

ビッと私の方を指さす。

「一人だとあれだから、私が無理を言って来てもらったんだよ」

「そうか。初めまして、地球人」

どうも初めまして、と日本語で挨拶をすると、彼は付けていた翻訳機を外した。

「実のところ、お前を連れ戻しに来た」

はぁ?とメロードは声を上げた。彼は気にせず続ける。

「このような治安の悪い、未開の惑星にお前を置いておくわけにはいかないと、私は思うのだがね」

なんとも腹立たしい言い草だ、未開なのは否定し難いのだが。

「何を言ってる、日本人は前宇宙文明だが未開じゃないよ」

メロードの反論もまた、なんとも言い難い微妙な感じではある。うーむ。

「治安も悪いし、インフラも整ってはいない。第一、農地があまりにも狭いのは不安だろう」

「そんなに悪いものでもない、日本はこの星ではいい方だし」

「我が国の基準であれば、ここは犯罪者の町と言ってもいいほどのものだよ。それに未知の病気に罹患しては困る」

言いにくい事を好き放題言ってくれるものだ、しかし宇宙の治安が良すぎるのか地球の治安が悪すぎるのか果たして問題だ(とはいえ実はこれにはカラクリがあり、そういう調査に参加する国は元々お行儀がいいのだ。この調査は銀河列強を含めた一握りしか参加していないのである。宇宙の一般市民はあまり関心が無いのか、この事実を知らないことが多い)。

私は変わり者のひねくれ者なのでこういう事を言われても何ともないのだが、メロードの方はいい気がしないようで、眉間に皺を寄せている。

「それに何だねその属国民は、一体なぜ同席している」私もそう思うが、属国になったつもりはないんだが!

「この人は私の…………友達だ、地球での!」可愛い事言っちゃってもう。

「その属国民がお前を気に入るのは……まあそれは当然気に入ってしかるべきだがね?なぜこのような蛮人を友達にしてるのかね」

多分彼は私には通じていないと思っているのだろう、翻訳機も外してるし。

気を遣ってるのだろうが私はガウラの言葉はわかるので無駄である。

こういうのは地球でもよくある話だが、実際に当事者となると結構堪えるものだ……。

メロードはプルプル震えて怒りを露わにしている。そして次の瞬間、テーブルに拳を叩きつけて叫んだ。

「私が誰と友人になろうが勝手だろうが!」

兄はそれに一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに元の表情に戻った。

「それは当然だよ。だがね、それが何かまかり間違って婚姻関係になってはいかん」

そう言うと更に続ける。

「ガウラ人はガウラ人と結婚するのが常だよ。そしてガウラ人の子供を作り、帝国を繁栄させるのが務めだ」

それが伝統、それが臣民の義務だろう、と付け加えた。


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