表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/171

スイート・マイ・ツイート


SNSというものはよく考え出されたものだ。

多くの人間は純粋な交流の為に使っているが、承認欲求、あるいは自己顕示欲を満たすのにこれほど都合のいいものは無い。



とある日本の通信会社が、長期滞在する宇宙人向けの格安スマートフォンサービスを開始したところ、瞬く間に広まった。

特に物流や貿易関係者は家族連れで地球に住んでいる人々も少なくはない。

先日もメロードが自慢げに見せてきたが、所有者が宇宙人という点以外は珍しくとも何ともない普通のスマートフォンだ。

もちろん、インターネットにも接続できる。広大な電脳世界にもついに宇宙時代がやって来たのだろう。

となるとSNSだ。メロードは早速連絡先を交換してくれとせがんでくるのだが、私は見るために登録したようなものだから、何も無いよと注釈して教える。

SNS事情は地球も宇宙も概ね変わらず、すぐ飽きる者から四六時中見ている者まで様々だ。

ビルガメスくんはよくわからんが、バルキンなんかは適度な付き合い方が出来ている様子である。

とはいえ何かよくわからないものやらスケベなものまで流れてくるので正直ミュートしたいのだ……。

ラスというのは隙あらば見ているし、宇宙港にはちょっとしたSNSブームが来ている。

ついていけてないのはエレクレイダーぐらいだ。

「俺、それの使い方わかんないしさ、反応しないんだよ触っても」うーん、むべなるかな。

とにもかくにも最近の私の趣味といえば、専らそういった宇宙人たちのSNSを観察する事である。


帰宅して一番にやる事と言えば、ネットニュースやSNSを覗く事なのは私だけではないだろう。

相も変わらず、野党のニュースばかりだ。どうも帝国を好き放題にさせているのが気に入らないらしい。

戦争になるって?今や私たちに敵う地球上の国家はイギリスを除いて存在しないのに。

(忘れかけていただろうが)メギロメジアとの戦争は(我々地球人は何もしていないのに)勝利に終わったのだが、帝国の計らいかガラクタ押し付けられたのか賠償艦を宇宙艦隊が組めるほど貰ったのはあまり知られていないのだ。

日本政府的にはあまり知られたくないのか地球の言語での記事は存在しない。私はガウラ語の記事で知った。野党もそこを突けばいいのにね。

そうして、やりもしないSNSを覗いてみると、今日も宇宙人たちが盛り上がっていた。

流石に宇宙の文字は使えないので、英語と日本語を代わりに使ってやり取りをしている。

アルファベットやカタカナひらがなを使って無理矢理自国言語を表現している連中も中にはいる、まるで暗号のようだ。

こうして見ると色々と変な投稿があって面白いのだ。

『また尻尾を踏まれた!』とか『毛並み整えるならあそこのペットショップがおススメ』とかちょっとズレているとも思える投稿ばかりである。

まあそれが彼らの日常なのだろうが、それを垣間見れるというのは実に面白い事で、まとめサイトやら掲示板に専用の場所が出来たりもしている。

時間を無限に潰せるような気もする。


そうしてダラダラと眺めていると、気になる投稿があった。

カラカル型人種の少女の、その、アレな自撮り画像が流れてきたのだ。んなもん共有するなバルキン!

どうやらかなりの反応を貰っている、まあ当然と言えば当然である。

なんとも気掛かりな気もするが、本人がよけれな自由にやればいい、のだろうか。うーん。

数日程眺めていると、どんどんエスカレートしているようでバルキンもどんどん共有してくる。バルキンよさんか!

彼女のあられもない姿は既に数万、数十万人の目に届いてしまった。

もはやネット上から消すことは出来ないだろうに、彼女は能天気な事を呟いている。

が、遂にはアカウント凍結となってしまった。


後日、宇宙港に顔を隠した怪しげな宇宙人が訪れた。

どうも地球を出たいらしいが、顔を見せないのでこれは怪しいと拘束されたのである。

そしてそういうトラブルの時はもう私が呼び出されるのが決まりなのだ、こいつに任せておけばなんとかなると思われているらしい。

開港以来こういう事に数多く首を突っ込んできたことが仇となった。

局長も「いいんじゃない、解決した分だけ給料上乗せしよう」とか言うのだ、くそっ、日本人に感化されてブラック企業になったとでも言うのかッ!

まあ給料が増えるので当然出向く。指示された部屋に入ると、警備員とカラカル型人種がいた。

「お待ちしておりました、なんとかしちゃってくださいよ」と青い毛皮のガウラ人警備員。出国ゲートの担当である。

「じゃあ仕事に戻りますので。彼女色々言ってるんですけど、私にはさっぱりで」

そそくさーと部屋を立ち去った。こいつが凶暴な犯罪者ならどうするつもりだこの野郎……。

で、私がこの人物に話しかける……前に顔を覆っている布を剥すと、見た事がある顔だった。

「あ……知ってるんですね、まあ知ってるでしょうね……」

そうなのだ、彼女は自分の写真をアップロードしていた少女なのだ。

「もう地球にはいられません……こんな、こんなはずじゃ……」

なんでも最初はほんの出来心だったのが面白いように反応が増えて、やめられなくなったのだという。

「それだけなら、よかったんです、でもある時から、写真が私ってバレて……住んでいる所も特定されて……」

うーん、そりゃあ、地球上の狭いコミュニティじゃバレもするだろう、なんとも気の毒とも言える話だ。そうとしか言いようも無いが。

「こんな、SNSなんていうのは、私の国には無くって……みんな褒めてくれるから、私、調子に乗っちゃって……」

なるほどなぁ。そういう訳なら、と私は出国の担当者に簡単に説明をした。

それなら、と今回は特例として顔を隠したまま出国させることとなった。

にしても、自己顕示欲というものの恐ろしさたるや、私も気を付けなくてはならないだろう。

特に、普段から自己肯定感の低いほどこういうものはドツボに嵌まってしまうと言うから、落ち込んでいる時などは要注意だ。

適切な距離を保っていれば楽しい趣味なのだろうが、何事も程々が大事だという事だろう。バルキンも程々にして欲しい。

持ち場に戻ると、ラスが自分の写真を撮っていた。

「私ってばほら、控えめに言っても美人じゃないですか、SNSに上げたらやっぱり反応いいでしょうね」

お前おいちょっとお前やめろバカ、よさんか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ