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この広い宇宙の下で:一つの宇宙


ラスは相変わらず不機嫌であった。

それでも、以前よりかは多少マシにはなったが、職場の雰囲気は悪いままである。



しかしそれは私が我慢すればいいだけの事であるのだが、その精神的負担は他者には見えてしまうようだ。

休日にバルキン・パイと遊びに行っても「元気ないねぇ、大丈夫?」と心配されるといった具合である。

「やっぱり、あの新人なのね。文句ならあたしが言ってやろうか!」

気持ちはありがたいが、と私が彼女について思っていることを話した。

つまりは、彼女はホームシックとでも言うべき状態なのだろう、と。

「なるほどー。でも他人に当たるのは違うよね」

それは全くその通りである。

「星は違えど宇宙は同じなのにね、同じ一つの宇宙の下にいるんだから」

彼女も、いつぞやのミミズクと同じ意見を持っているようだ。

「でもさぁ、ホームシックって言うならさ、その『お父様は自分の事』だなんて言わないんじゃない?」

むー、確かにそれもそうかもしれない。では別に原因があるのだろうか。

「似たような理由とは思うけどね、例えば……後継者問題で血を見た、とか!」

無くは無いのだろうが、それなら帰りたがる理由もない。

「絶対そうだよ!血みどろ後宮サスペンスが起きてるんだよきっと!」

まさか、そんなオスマン帝国のハレムか、はたまた江戸の大奥でもあるまいし……。

「というわけで今日はオスマン帝国美術展に行くんだから!折角のおやすみなんだから、元気出して!」

どういうわけだ、別にいいけど……。

「元気出るよ!オスマン帝国美術は!」

オスマン帝国の美術は、イスラム美術とは違うのだろうか?

「全然違うよ!オスマンの美術は全世界の文化の影響を受け、同時に与えた素晴らしいものだよ!」

全世界、は言い過ぎにしろ旧世界全ての影響があったのはその通りかもしれない。

「旧世界こそが全世界だよ!新世界に国は存在しないし」

……宇宙人時々こういうよくわからないこと言うから怖いの私。政治的なアレだろうか?


さて後日。最近はガウラ人が多い、というのは先にも説明したような気もする。

新年という事もあり新年行事に参加するのかその日もガウラ人が多かった。

眼福眼福、と思いながら仕事を進めていると、銀色の毛皮をした壮年らしいガウラ人が現れた。

「お初にお目にかかりますねんけど」と結構な訛り(関西弁で表現しているが)のその男性は姓をスワーノセといった!

こんにちは、地球へようこそ。と軽く挨拶を済ませる。ラスは後ろで資料を管理している為気が付いていないようだ。

「うちの娘がここに来てますやんか、おたくご存じ?まあ知らんでもええけどな。なんか不服そうな顔してん」

ペラペラと喋り出す。ものごっつ聞き取りづらいねんこれが(翻訳機使ってるからわかるけどね)。

「なんでかうちの跡取りになるつもりやったらしく、そんなんすぐなれるかドアホ!って言うたらいじけてもうて」

なるほど、年相応らしいと言えばらしい。

「お前そもそもな、長男おんねんから跡取りは無理やって言うたら、『そんなんわかっとる!』とか言うて」

すると彼は上着をググッと上げて腹を見せた。

「見てん、これ、見てん、それで刺されたんや。お前ホント刺すか!?つって」

ホンマでっか!?血を見るどころか見せる側であった、コワイ!

「まあこれは別にええねんけど、そのまま喧嘩したまま地球に行ってしもうたんや……」

別にいいのかよ。まあガウラ人って丈夫だもんね……この前車に轢かれたの見たけどピンピンしてたし……。

「それでそのー、仲直りしたいって思うてるねんけど……聞こえとるやろ、ラスぅー!」

彼がそう言うので、私はラスの方に目をやった。書類の整理をしていたが、顔を上げた。

そしてデスクに置いてある缶ジュースを手に取ると少しだけ口に含み、缶を元あった場所に戻すと再び作業に戻った。

「聞こえてへんのかい!!」


しょうがないので、休憩時間に自販機前のベンチで彼らを引き合わせた。

「パパ!なんで来たん!」

ラスは非常に驚いたようで、彼女も訛りが出てしまっている。

「あ……な、なんで来たんですか、お父様!」

私がいるのを思い出したようで慌てて言い直した。彼はその態度にキッと目を鋭くさせる。

「お前そんなん、つまらんで。皇帝の威光の届かん人やからって見下しとるんとちゃうか」

ホントすんません、と私に頭を下げてきた。なんというか、やっぱり宇宙でもみんな同じものだなぁ、と感慨深いようなそうでもないような。

「だって、臣民大学じゃ……」

「お前そんなん、教授が言うてたか?人を見下したような態度は取ってもええて」

「い、いいえ……」

「悪辣な空気に流されるな言うたやろ?臣民大学っちゅうのはそういうドアホが多いのは事実や。見下してええんは相手の性格だけ、境遇や外見、種族やないで!」

仲直りしに来たのに説教が始まってしまった……しかしこう、喉に小骨が引っかかるような釈然としない説教である。

「そ、それより!お父様はなぜこの星に!?」

ようやく話が本筋に入った。

「そんなん、仲直りするために来たに決まっとるやろ!アホか!埃被ったみたいな毛の色して!」

さっき外見がとか言ってなかったっけっていうかお前も同じ毛の色だろ!?

「仲直りする事なんてありません!」

「そんな事ないやろ、ないよね?」と私を見る、見るな。

「先輩は関係ありません。仕事に戻りましょう」と今度は彼女が私を見る。

「待ってーな!この星に送ったのは訳があるんや!」

「どんな訳ですか、一生入国の管理でもしてろと?」

傷つくなぁ。

「実は……この地球人がおるねんから言いづらかったんやけど……この人物分かり良さそうな顔してるし……」

彼らから見るとそんな顔をしているのか?今度メロードに聞いてみよう。

「実はな、ある計画があったんや。うちら高級領主だけが召集されてな。この星って威光が届かんところあるやろ?」

「ありますね……」あるの、どういう基準なの、威光って何なの。

「地球人さんにもわかりやすく言うと、王侯貴族のいない地域の事やねんけど」

解説どうも。つまりはフランスとか南北アメリカとかになるのだろうか。

「まあガウラ人の考え方やねんけど、王や貴族には威光という神通力のようなものがあって、それが無いと国は見るも卑しいものになるという考え方やねん」

本来ならば私が解説すべき点なのだが……心が読まれているのか……!?

「言い忘れてたけど、自分、超能力使えるんやけども」

読まれているそうです。じゃあそれで娘の心読め。

「そんなん怖いやん、もし嫌われとったら立ち直れんやん?」

途中でベラベラと私たちが喋り出したのでラスが怒る。

「もう!結局何なんですか!」

「そうやねん……それで、その威光無き地を天皇家やエリザベス家とかの地球人も含めた王侯貴族で分割統治しよか~って計画なんやけども」

サラっと重要そうな計画を喋りおったこのおっさん、コワイ!中東平定もきっとこの一環だろう。

「その計画としてね、お前に地球の文化を学ばせようと送ったんやねん。もっとええ職場もあったけど、心配やし、宇宙港ならいつでも呼び戻せるし……」

「つまり……私がこの地球のどこかの領主になるということ、でしょうか」

「まあそう思ってもらってええけどね」

地球人的にはかなりアレな話を聞き終えた彼女は、声を震わせていた。

「よかったぁ……うちな、パパに嫌われたと、思たんや……」

「すまんかったなぁ、ラス……」

二人はひしと抱き合った、目には涙を浮かべている。いい話みたいな空気を出すな。

「だってうち、こんな遠くで、宇宙は広くて、周りは知らない宇宙人ばっかりだし……」

「いつも言うとるやないの、見上げた宇宙は一つで、誰もがこの一つの宇宙を見ているって。だから寂しく思わんでええんやでって」

ラスが彼の胸に顔を埋める。喧嘩別れしたのが余程応えたと見える。

親父の方はこちらに目をやった。

「すまんね、地球人さん、親子喧嘩に付き合わせてもーて」

ペコリと頭を下げた、地球式の綺麗なお辞儀だ。出会った時から思っていたが、訛りこそすれど立ち振る舞いは紳士らしいと言える。

まあこの字面では全くそうは考えられないだろうが……。

「先輩なら許してくれますよ、この人は……私が周りに当たっていても親身になってくれた、とってもいい先輩ですからっ!」

ラスは顔を上げると、これまで見た事もない弾けるような笑顔で言った。くそっ、もうなんか許された気になってやがる!

が、実際気にはしていない、面白い事も聞けたし。なんかいい話みたいになっちゃってるけど地球侵略計画の話なんだよなこれ。

でもこれまでの事から考えると日本は依然として日本のままだろうとは予想できるのでいいの……だろうか?

むむむ~と考えていると、親父の方がこそっと耳打ちをしてきた。

「まぁほとんど進んでないけどね、この計画」

進んでないんかい!いや、進んでてたまるか!


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