この広い宇宙の下で:不機嫌な新人
あらゆる備品や船舶を新調したため、驚くほど客が増加した。くっそぅ……。
しかしながら人員も増加したので(空き時間は大幅に減ったが)仕事量自体は大きく変わらなかったのが幸いである。
以前より宇宙港の拡張は計画されており、滑走路や格納庫、入国ゲートも増加し、宇宙港って割にはこじんまりしたこの施設もそこそこの空港ってぐらいにはデカくなった。
そして極めつけに期待の新人どものお出ましである。事前に研修を受けていたようだ。
ちなみにバルキンは別のゲートの担当となった。
「今までありがとう……別のゲートに行っても、元気でねぇ!」と目をウルウルさせていたが、歩いて数分もかからないだろ!?同じ建物の中だし!
新たに私の下に着いたのは銀色の毛皮をしたガウラ人女性、スワーノセ・ラスであった。
他のメンバーも対して掘り下げてないのにまあ新キャラなんか出しやがって、と思うが、まあ現実は物語とは違うので、次々とやって来るという事もあるのだろう。知らんけど。
「よろしくお願いします」と不機嫌そうに恭しく挨拶をする。見た感じは随分と生真面目のように見える。
「あ、失礼ですが先輩。あなた勝手に人の尻尾触るって聞きました。勝手に触るのは失礼だし、実際スケベだと思いますが?」
くっ、言ってくれるじゃねえかよォ……。しかし何も言い返せない!
「同性愛は帝国では不適格です、異性であってもスゲー変態です」
『不適格』とはつまり、共産党にとっての非共産主義者のようなものである。要するに駆除対象だ。
この辺りの理由は帝国の歴史書に詳しい。が、それはまた別の機会にでも。
とにかく、宇宙港はすっかり拡張され少し様変わりしたという事だ。
窓の外を見るに、いつもよりも数倍人数が多い。やだなぁ、と溜め息を吐きながら来場を待つ。
数倍の人数という事は数倍の時間がかかるわけで、んで、ゲートも増えたわけだからえーっと……まあなるようにはなるだろう。
「いちいちそんな事考えているんですか、地球人って」といちいち食って掛かってくるガウラ人、ラスである。
まあ私も随分な変わり者の自覚はあるので、多数の地球人はこんな事考えながら仕事はしないだろう。
うだうだと言い争い、というほどでもないが、色々と言い合っていると、メロードが目配せをする。きっと客が来たのだろう。
「こんにちは、旅ってのはいいねぇ!」と現れたのはいつぞや見た事のあるミミズク型人種だ。
パパパッと慣れた手つきで書類を差し出す、「はいこれお菓子、食べてね!」となんか変なのも差し出す。
「美味しいかどうかはまあ人による。僕はマズかった」んなもん寄越すな!どっかの健啖家にでもくれてやれ。
そのミミズク人種、アミ人の男性は旅の思い出や地球の観光地などをベラベラと喋り始める。
私がうんうんと聞いていると、後ろからラスが割り込んできた。
「ちょっと、後ろのお客に迷惑ですから、早く行ってください」
これは驚いた。ダラダラと喋っているのを咎められたのは今回が初めてなのである。いやそれも随分とおかしな話だが。
「何を怒っているんだい、何か悪い事でもあったのかい?」
「悪い?悪いってのは何もかもが悪い状況です!」
なんだか様子が変である、思えば最初から不機嫌であったが……。
「私は!私は、臣民大学での成績だってバツグンによかったのに、なんでこんな辺境の原始惑星で原始人と仕事しなくっちゃいけないんですか!恥ずかしくて家にも帰れやしない!」
随分な言い草である。まあ実際原始惑星で原始人なのだが、こういった話は地球でもよくある事だ。
「馬鹿言っちゃいけない、辺境の惑星だって大都会の惑星だって一緒さ」
「一緒なわけないじゃないですか!こんな野蛮で下等な人種がいる劣悪な星、来たくて来たんじゃないですよ!」
これはまた随分な言い草である。まあ実際野蛮だし下等だし……ってちょっと卑屈過ぎたかしら。
「一緒さ一緒。だってさ君、どんな星でもどこの星でも、見上げた空は同じ一つの宇宙だよ。見え方は違うかもしれないけどね!」
おお、言われてみればそうだ、名言だなこれは!と思ったが。
「屁理屈です!」と一蹴されてしまった。
「そうは思わないけどなぁ。もう僕は300年も生きてんだから信用してちょうだいよ」
「早く、行ってください!」ビシッと出口を指さす。
「なんだか虫の居所が悪いみたいだからここは退散しておくよ。でも覚えといてね、宇宙は一つ!」
男はひょうきんなステップを踏みながら去って行った。
彼女はと言うと、依然不機嫌な顔をしていたが、何か彼女なりに思うところがあるのか、その日はもう口を挟んでは来なかった。