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宇宙船を買いに行こう


ウィンターシーズン到来!

極寒の地で生まれた知的生命体であるガウラ人は、この日本の冬が実に心地よいらしく、入国者数は日々増えている。

特に東北以北の地域、とりわけ北海道が人気らしく地球行きのチケットが恐ろしいほど値上がりし、ちょっと問題になっているのだ。


さてそうなると、オンボロ宇宙船も買い換えなければならないのだ。

何せ、たったの120人しか乗れない宇宙船、しかも2隻しかないので順番待ちが終わる頃には次の冬になっている。

帝国も補助金を出すというので、遠慮なく買おうじゃないか。

そして更に、そのお買い物について行ってもいい事になった。ワクワクが止まらねぇぜ。

もちろん吉田も行く。「ワクワクが止まらねぇぜ!」同じことを言うでない。

狐とロボは行かないそうだ。まあ目新しいものでもないだろうし。

無論、この買い物には局長が出向くのだが、地球人の意見も聞きたいのだそう。

「やはり、地球らしいものを模した宇宙船がいいのかな、例えば……ギロチンとか」

地球らしいというかなんというか、そのようななんだかお上品なお処刑道具が宇宙空間を漂っていては不気味である。


さて、私も地球を離れる時が来たのだ……さらば地球よまた会う日まで。

「数日で帰って来るよ」と局長。現実に引き戻してくれるな。

私は宇宙船に乗った人々を無数に迎え入れる事はあっても、宇宙船に乗ること自体は初めての事である。

吉田も同じようで、少し、いやかなりめちゃくちゃテンションが上がっている。

「すげぇーなぁー時代は進んだな!なぁ!おい!」「吉田くん静かに」局長に窘められてしまった。

さてどんな感じだろう、と待っているのだが、一向に動きが無い。

局長が腕につけた情報端末を覗き込んでいたが、ふとした時顔を上げると「もう宇宙だよ」と言った。

驚いた私と吉田は慌てて窓のカーテンを開ける、するとなんと、巨大な我が故郷が見えるではないか!

「何の音もしなかったのに、もう着いたのか!?」と吉田は驚愕する。

「まあ、こいつはどこぞの富豪の個人用宇宙船を買い取って改修したものだから、静音性は抜群だよ」

なるほどなるほど、席数が少ないのも納得であるし、オンボロとはいえ驚くほど快適であった。

というか離陸したのにも気が付かなかった!そこも見たかったのに!

それから、軌道ステーションで星系航行の可能な船に乗り換える。

目指すはガウラ帝国最大の商業都市『エレ・プラド』であるッ!ちなみに名前の意味は『星の(主に青果品などを取り扱う)市場』だ。

……いやまぁ成り立ちは青果品だったのだろう、知らないけど。

さて、十数時間ほど宇宙船内で寝たりご飯食べたり寝たりしていると局長が「そろそろだね」と伝えてきた。

窓の外を見ると、真っ白い惑星が面前に近づいてくるではないか!

これが帝国の第二惑星『エローステーネ』であり帝国の物流の中心地である。

「うおおお!すげえええ!!」と吉田と二人でつい絶叫してしまった。

「二人とも静かに」


一面真っ白い銀世界に、低めのビルや格納庫が並び立っている。

何とも形容しがたく、我々の想像する都会とはまた別物である。

なんというべきか、東京というよりはローマや京都、イスタンブールのようだ。

思いのほか未来っぽいものは無く、特筆すべき点は自動車が全て無限軌道だったり、広告が一切無かったりする点ぐらいだろう。

「高いビルなんて色々と危ないからね。広告だって資本主義的だし」

尤ものようなそうでもないような事を言う局長……しかしなかなか私たちにとっては物珍しい奇妙な光景である。

「ただ、このクソ寒いのを何とかして欲しいけどな!」とガタガタ震える吉田。

今の気温は地球基準で見ると-20℃、南極かここは、クソ寒い。

「それじゃあ一先ず腹ごしらえでもしようじゃないか」と局長がキャリーケースを引きずって歩き出す。

そして恐らくこの国の公共交通機関であろう、兵員輸送車っぽい多分バスみたいなのに乗り込んだ。

私たちもついて行く。腹ごしらえとは是非とも楽しみだ。それに屋内なら寒くはないだろう。


そんな考えは甘かったのだ。-20℃が-10℃になっても寒いものは寒いのだ、防寒着は脱げなかった。

しかし多少はマシになったというものである。

この店はカウンター席しかないようで、よくドラマとかで見るような居酒屋っぽい内装であった。

席に着くと、局長が店主を呼び出す。「おーい、帰ったぞ」

するとドタドタと奥から局長によく似たガウラ人が出てきた。

「兄者、随分久しぶりだな」「少し用事が出来てね」

彼らは兄弟のようである。私たちも軽く挨拶を済ませると、局長はキャリーケースを開いた。

「見ろ、これは最高の調味料だよ」ケースの中にはズラリと『マーマイト』と書かれた瓶が並んでいた。えっ。

「これが噂の……マーマイト!この間のナットーとやらは人気だったけどすぐ取り扱い禁止になっちゃったからな」

ああ、あったなぁそういう事も……まあ味覚は違うだろうから、こっちではマーマイトが美味なのだろう。八丁味噌のような味らしいが。

それで上機嫌になった店主は私たちオススメをご馳走してくれるそうだ。

「絶品だよ、うんうん」と局長が言う、が、マーマイトを美味いって言ってる連中だし……。

多分食べれないものは出てこないと思うけど……と待つこと十数分。

肉の香ばしい匂いが漂ってきた。これは期待できそうだ!

「どうぞ召し上がれ」と出された皿には、ソースのかかった分厚いハンバーグにレンコンのような野菜と芋らしき野菜、そして蕎麦生地で焼いたパンが盛り付けられていた。

うーん、美味しそうだ。「俺はもう腹ペコだぜ、いただきます!」と吉田が肉にかぶりつく。

「おっと、違う違う、生地に野菜と一緒に挟んで食べるんだよ」なるほど、バーガーのようなものかな。

言われた通りに生地に挟んで頬張る、すると実に美味い!

「これは~~!肉汁とソースが互いの味を引き立て合って、しかもこのレンコンと芋みたいな野菜もシャキシャキしてて、この味はぁ~~~!うんまぁ~~~~いッ!!」

「吉田くん静かに」


さてさて、そろそろ本来の業務に当たらねばなるまい。

巨大な格納庫に入ると、まるで航空博物館のように宇宙船がズラリと並べられていた。

おもちゃの車みたいな感覚で宇宙船を並べるんじゃない!とでも言いたくなるような凄まじい光景である。

二人して圧倒されてはしゃいでいると「お待ちしておりました!」と技術者らしき人が局長に駆け寄る。

「外観はいかがいたしましょうか、やっぱり地球らしいものがいいですよね!ギロチンとか!」

地球のイメージはギロチンなのか!?それはフランスだけだ!

「まあ、この二人の地球人に聞いてくれよ」と局長が私たちを示す。

「はいはい、それでは地球人さん、どういった外観がよろしいでしょうか。ギロチンの他には『航空母艦エンタープライズ』や『駆逐艦雪風』、『戦艦ウォースパイト』『巡洋艦プリンツ・オイゲン』などございますが」

やけに偏った選択肢である。今から買うの旅客船だよね?

「いやでも特徴的なのって言えば軍艦ですし?」絶対こいつの趣味だ。

「ていうか別に普通のでもいいんだけど」と吉田が言うと露骨に嫌そうな顔をした。

「え~~~~……わかりましたよ、もう……」何なのか。

「それでは、500人乗りの軌道昇降船を60隻、2000人乗りの星系航行船を12隻、ですね。毎度あり」

……ん?やけに数が多い。

「ああ、そういえば言ってなかったけど大幅に拡張するからね。空港も」

まさに初耳である……え、えー!仕事が増えるのやだー!


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