オリンピック作戦:為すべき役割
如何に善意であっても、情けは人の為ならず、だろう。
結局のところ、割と無策な状態でプレゼンに出席する事となる。
3人で頭を抱えていた。
「どうしましょうか」
「本当になぁ」
キノドクさんも吉田も意気消沈というところだ。
「我々はそういう、薬物は持ってないのです、はい……」
いやそうではないのだ。
「無くはないと思うのですが、配るほど量産されているかどうか……」
そうではないのだキノドクさん。
「はぁ、そもそも委員会がちゃんとやってればこんな事にゃならんかったのになぁ」
全く不甲斐ないという物だ。まあ不甲斐ないのは知っていたがここまでとは思わなんだ。
「それは私もそう思っていたところです……皇帝もこの植民地の不甲斐なさには嘆かれているでしょうね……」
いや植民地ではない。こいつ隠さないな!?
「そうなんだ、自分たちで何とかしなきゃいけないんだ、本当は」
吉田が尤もらしい事を言う。今回はその意見に同調しようじゃないか。
政治家の連中は身内の管理も出来ないのか、という話だ(まあまともな政治家なんてメフメト2世とかサラディンとかぐらいだが)。
しかし今更彼らに文句を言ってもどうしようがあるだろうか、いやない。
「まさに、その点なのではないでしょうか」
キノドクさんが言うには、委員会も本当なら自分で何とかしたいのではないだろうか、とのことだ。日本人を買い被り過ぎである。
「そうに違いありませんです、これでいきましょう、はい!」
まあ、キノドクさんがいいのならそれでもいいのだが、吉田はそうではなかったようだ。
「しかしなぁ、五輪で金儲けしようって連中がそんな綺麗事でなんとかなるか?」
そもそも、もしこの案を採用したとして元に戻るだけであり、また無意味なプレゼンに金を使っただけになる。
「臣民の前で誓わせるのです、『我々はオリンピック運営において正当な報酬を支払う』と」
「そんなの絶対に無理だろ」
「彼らが常軌を逸した恥知らずでなければ、です」
いや、常軌を逸した恥知らずなんだってばさ。
結局私と吉田はあまり役に立たなかったし、事実上無策のままプレゼンに挑むこととなった。
さて当日。なんと驚いた、公開プレゼンである。
公開ではなかったはずなのだが、とキノドクさんに聞いてみると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ま、従属国の連中を意のままに操るなどちょろいものです、はい」
だから従属国じゃないって……。
「じゃあそれでガウラ案に決定させればいいだろ」
「……あっ」
これだもん。キノドクさん的には、民衆の前で恥をかくような真似はしないだろう、って事で公開プレゼンに仕立て上げたのだ。
そうして、プレゼンが始まった。
ミユ社のプレゼンは委員会どころか民衆にも受けが良かったが、やはり支払いを気にしている者たちもいた。
マウデン家案はやはり委員会の受けが良かったが、聴衆にはかなりの悪印象を植え付けたようだ。
さて、我らがキノドクさんの出番だ。私と吉田が一生懸命書いた台本を手に、壇上に上がる。
「まず初めに、私はキノドク、ガウラ帝国人材派遣センターの者です。我々の案をお話ししましょう。我々の案では委員会からの委託料は受け取りません、タダです。その他の諸経費なども一切請求いたしません。なぜなら、私はここにプレゼンをしに来たわけではないからです。私は忠告に来たのです、宇宙の同盟国であるあなた方日本人に。彼らオリンピック委員会は自らの使命を今、諦めようとしています。惑星外人の甘言に今まさに乗ろうとしている、とんでもないことです。この広い銀河のどこに、神聖なる式典のスタッフを外国人ならいざ知らず、異星人に任せようという人種がいるでしょうか。これまでも、これから先もないでしょう。しかし、委員会は今、歴史に名を残さんとしている。長きにわたる日本とオリンピックの歴史に泥を塗ろうとしているのです。私はそれを止めに来た、良き同盟国として。誰かにやらせれば楽でしょう、金への欲望に負ければ快いでしょう、しかしながら気高き知的生命体であるのならば、自らの為すべき使命を果たすべきなのです。偉大にして神聖なる事業は自らの役割に誠実に向き合う事によってのみ成し遂げられるのですから」
その後にも、力強い言葉を並べ立て演説を行った。
会場は拍手喝采であった、特に聴衆には大いに受け入れられたようだ。
委員会の方はというと、拍手はしていたが微妙な顔だ。まあそうだろうな。
内心どう思っていようが、聴衆の前でこれを聞かされてたのだから、これを裏切るって事は出来ないはずだ、常軌を逸した恥知らずでなければ。
つまるところ、大いに不安である。
そうして、私がそんな事があったことも忘れかけていた頃、TVニュースでこの件についてが報道された。
『オリンピックボランティア、マウデン家案に決定』とのことだ。
どひゃ~、そうきちゃったかぁ~。まあ、そのうち撤回されるだろ多分……。




