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オリンピック作戦:開戦の狼煙


例のオリンピックのボランティアについてだが、誰一人応募がないという話だ。

それは当然の帰結と言えるのだが、意外な事に宇宙人らはこれに興味を示している(でも多分何か企んでいる)。



はてさて、かのオリンピックではあるが、東京のオリンピックなので東京の人間だけで何とかして欲しいものである。

まず目下の問題は人手不足であり、政府は何とか無料で働かせたいと躍起になっているのだ(さっさと日当5万ぐらいで雇った方が安くつくのではないのか?)。

あらゆる企業に召集がかけられたりなんたりしているらしいが、我々の元にも一応話に来たらしい。

局長をして「日本って頭がおかしくないと政治家になれないのか?」と言わしめるものだったという。

入国者たちにも「日本国で実に馬鹿げた大会があるというのは本当ですか!?」と言われるので、日本人職員は大変恥ずかしく、悔しい思いをしている。

なぜ我々がこのような目に合わなくてはならないのか、はらわたも煮えくり返るというものである。


そのような折、とある三つの勢力がボランティアに名乗りを上げた。

まず一つ目が、『ミユ社』である。

例の石灰のスナネコ企業国家(すなわち、企業自体が国家の役割を果たしている)であり、今回のボランティアに興味を示している。

あれだけの金を立て替えておきながらまだまだ余裕綽々のご様子だ。


次なる刺客は『マウデン家』。企業ではなく、家である。

それこそ、ヨーロッパの貴族のような存在で、オウムガイかアンモナイトのような見た目だ。

目が大きくてちょっと怖い。


そして最後に『ガウラ帝国人材派遣センター』である。

明らかに国営なので、恐らくは国主導であろう、きっと今後ともガウラ帝国をよろしく(どちらの意味かはわからないが)という事なのだろうか。

ただ、前の2つが名乗りを上げた後に慌てて表明した様子である。


……しかしながら、いずれの企業に決まったとしても仕事として発注してしまってはボランティアでは無いのではなかろうか、いいのだろうか(ボランティアの原義に沿うなら、確かに彼らは自発的に受注しに来た)。

おそらくは三つの勢力とも思惑があるのだろうが、一体何のなのか。


後日、プレゼンがあるという。人材派遣センターから協力の要請があった。

なんでも、地球の文化に詳しくてかつガウラ語が堪能な人物が必要らしい。

そこで、私と吉田に白羽の矢が立つ事になる。

この際はっきりと自慢させてもらうが、現時点ではガウラ語の細かなニュアンスまでを正確に和訳できるのは私か吉田、ビルガメスくんぐらいしかいない(ビルガメスくんは何者なんだ!?)。

謝礼も出るし面白そうなのでもちろん快諾。吉田と二人で行くこととなった。


「いや、実際楽しみだな」と吉田。その通り、こういう機会は滅多にないから心が躍るというものだ。

気掛かりなのはメロードである、ジッと吉田を睨んでいたが、というか何の心配も要らないのは知ってるだろ!と思うのだが。

デモデモダッテちゃんになっていた彼を窘めるのに大いに時間がかかった。まあ30秒ぐらいだけど。

プレゼンが楽しみだ、という話をしながら待ち合わせ場所に近づくと、腕時計を気にしている小柄のガウラ人が一人。

きっと彼が人材派遣センターの人間だろう。こちらに気が付くと、トテテと駆け寄って来た。

「えーっと、あなた方ですよね、はい……」と小さいのが言う。本当に小さい、140cmも無いのではなかろうか。

メロードでも180から200に届きそうな身長なのだが、本当にかなりの小柄である。

我々が頼まれた入国管理局の者である旨を伝えると、彼は胸を撫でおろした様子だ。

「はぁ、良かった。時間を伝え忘れたのかと思いましたよ。わたくしの名はキノドクです、はい……」

キノドクとは気の毒な名前だ。

「実はこの大役、急遽決定したものでして、その、わたくしもどうしたらいいのやら、はい……」

本当に気の毒だ……。

彼は島嶼のガウラ人、ミショーカ民族というガウラ人でも特に小柄な民族だという。まさに島嶼矮化したのだろう。

地球のキツネで言うなら若干ホンドギツネっぽい雰囲気だ。

「わたくし、地球種族と会話するのは今が初めてでして、失礼はないでしょうか、はい……」

丁寧な喋り方だが、芝居掛かっても見える。まあこういう話し方の人物なのだろう。日本人にもこういうやつはいる。

「別に失礼はないけど、大丈夫なんです、プレゼン」

吉田が問いかける。それに対して、ああ、と手を自身の額に置き、膝から崩れ落ちる。また大袈裟な。

「あまりにも無策っ、何も無いのです案が、というか、なぜボランティアに誰も集まらないのですか? というかオリンピックって何です!」

本当に何も知らないようである。ガウラ人がこんな無茶な仕事を振るとは意外だ。

「いいえ、いつもならこんな事はしませんよ、しかし保護国を守るのが我々の使命です、はい……」

ああ、やっぱり保護国扱いなんだ、とはまあ今更な話なので特に驚きはしない。形式上は同盟国なので問題無し、多分ね。

守るというのが少々気になる。つまりは対抗馬の2勢力は、地球侵略の意図があるのだろうか。

「それはわかりません。しかしミユ社はおそらく、彼らの意に関わらず経済を破壊するでしょうし、マウデン家なんてどうなるか、そも何者なのか……」

つまりは、起こり得る深刻な事態から日本を守るべく、帝国も名乗りを挙げたという事だろう。

「そういうわけで、これは私からのお願いなのですが……出来ればあなた方にも案を練って欲しいのです、はい……」

これは困ったことになった、と吉田と顔を見合わせる。


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