宇宙のキューピッド:吉田の話
「大事な話なんだ」と言うのは吉田である。今我々はファミレスに来ていた。
彼らしくもない、彼ほど深刻、重大、大事、責任など、堅い言葉が似合わぬ者もいまいて。
「それはちょっと言い過ぎだろう、とにかく大事な話なんだ」
金なら貸さないとだけ先に言ってしまうが、不満気だ。
「わかるだろ、深刻な話ってさ」
何の話だろうか。確定申告とかかな。
「違う!俺は一目惚れしたんだ……」
……申し訳ないがその気持ちには応えられない、悪い人物ではないんだが。
「あ~~~~もう!だから!」
と彼が苛立ちを露わにしているところでメロードが通りかかり、吉田を一瞥する。
はて、ここに来る事は彼には伝えていないはずだが。
「ね!面白い事があるって言ったでしょ?」「確かに言えてらぁ」
バルキン・パイにエレクレイダーまで来ている。一体何なのか。
「で、だ!俺が一目惚れしてるのはお前じゃない」
それは知ってたが、面と向かって言われると傷つくのだ。
「なんだと!」と食って掛かるメロード。
「まあまあ落ち着きなよ。あ、店員さん、大盛ポテトとざるそば一つずつ!」「あ、サラダ油ある?コップ一杯持って来て」
勝手に注文する馬とロボ。そういえば今日は有休を取ってきているのだが、これだけ抜けると誰が代わりにいるのだろうか。
「アヌンナキ人の新人、ビルガメスくんだよ!」あっけらかんと言ってくれるが、可哀想なビルガメスくんである。
話を戻そう。では誰に一目惚れしたというのか?
「お、俺ぇ!?よせよ、俺は近衛部隊のニューリーダーになる夢があるんだぜ?そも、男性型ロボットだし」
ちょっと満更でもなさそうなのが若干キモイ。メロードとか超嫌そうな顔をしている。ガウラ人は同性愛が大っ嫌いなのだ。
ついで言うならガウラは結婚年齢の下限が男女ともにが無かったり、異種族との性行為など(要するに獣姦!)を禁止する法律が無かったり、の割に『不倫』『浮気』などの概念、単語が近年まで存在しなかったり何とも言い難いお国柄である。
「そんなわけあるか!」「じゃあ私!?」「違うってば!」全く話が進まない。ので、読者諸君には先に言ってしまおう。
要は私の親友である例のトリマーに一目惚れしたというのだ。
……まぁ、まあまあ、別に悪い事じゃないとは思うが。いささか気が進まない。
「そんな事言うなよな、俺とお前の仲だろ」ただの仕事仲間だった記憶だが。
別に拒む理由もないので連絡先を教えてやるが、スマホを片手に固まっている。
「どうしよう、なんて電話すればいい?」そのような事は私の知る由もないのだが。
「遊びに行こうって!」「先日の礼を言うのは?」「まどろっこしい事はやめて言っちまえよ」
意外にも、この三人にとってはそうでもないようだ。
「だってあれでしょ、積極的に行かないと!」「その通りだぜ」
馬とロボの意見は押して押して押しまくる事であった。
「いや、それはダメだ。女性というのは奥ゆかしさにグッと来るものなのだ」
メロードの反論。それはガウラ人女性がだろうか。まあ彼には奥ゆかしさなどあんまりない気もするが。
「言葉にしないと伝わらないよ!」「そうそう。困るなぁ、有機人種ってのは。心とか絆とか言うつもりだろう?」
「だが急に押しても、引くだろう、引かないか?引くだろう?」私に同意を求めてくる。
そりゃあ、熱烈なアプローチが好きって人もいるだろうが、開口一番にそれだとちょっとマズいかもしれない。
そもそも電話する口実さえも元々無いのだから。まあ私が電話して約束取り付ければ済む話なのだが。
「じゃあやってよ!頼んだからね!」とバルキン・パイ。なんでだ。
「頼んだぞ……俺には勇気が足らんかった……!」
まぁ、別にいいけどもさ……。




