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管理局最大の危機


全くの私事である。例のラーメン屋は高過ぎるのだ。何が味集中カウンターだ。

いや、高過ぎるというより、値上げばっかりでウンザリする。しかも量は少ないときた。

殿様商売もいいとこ、強欲ラーメンに名前を変えるべきであると私は主張する。まぁ、行くんだけども。

今回は実に汚い話なので、正直お話ししようかどうか迷ったのだが、まあ、どうぞ……。



そのラーメン屋の話が昨日のお話。そして面前には長蛇の列、ベラベラと長ったらしくどうでもよい事を喋る客。

あんまり言いたくはないが、お腹の具合が悪いのだ。主人公にあるまじき体たらくである。

早く行ってくれ!と祈り、なんとか立ち去るがまた次の客も今日に限ってお喋りで、途轍もなく腹が立つ。いや、腹は痛い。

さっさと書類に判子を押して返しても「まあ待ちなって、ここらでおススメの店とかある?」と。

知るか!と言いたいのをなんとか堪えて適当なチェーン店を教えてやった。

しかしまだまだ列は続く、大体3、40人ほどだろうか、今からでも帰ってくれないだろうか。

どうも今日はお喋りな人種が集団でやって来ているようだ、今日に限ってもう!

彼らガタージュ人は社交的な種族である、明るく、物怖じせず、礼儀正しく、お喋り好きである。

マズルがあって食肉目風の見た目をしているが皮膚は鱗で覆われていて、地球人から見ればなんだか珍妙な容貌だ。パッと見は可愛いのだが。

しかし今はそのお喋り好きが私にとっては仇となる。今すぐ仕事を放棄してトイレに駆け込みたい。

補佐業務をしてくれているバルキン・パイは肝心な時に半日休暇を取っていてまだ来ないのだ。クソッタレ!いや、このままでは私がクソッタレになってしまう。


なんとか耐えに耐え、お喋り人種の列が終わって、今度はメウベ人の集団の番だ。

すると裏から局長が現れた。「君、粗相のないように……」

はて、何の事か、と思えば、どうもメウベ人らの雰囲気はピリピリしている。

「メウベの将軍だよ、パレスチナの戦いの観戦武官としてやって来たらしい」

何故お偉いさんでもここを通らなきゃならないのか、もっとVIP待遇でもいいだろうに。

そういうところばっかり良くも悪くも平等なんだからもう!というか吉田の方に行け!なんでいっつもこっちに来るんだお偉いさん方は!

「そういう事だから」局長は足早に立ち去る。クソッ!と口には出さず心の中で呟いた。いや、クソは出そうなのだが。

こんな冗談を考えるのもそろそろ限界なのだ。さて、面前に来たメウベの将軍が口を開いた。

「俺の名は“鋼のアッカード”。観戦武官としてここに派遣されてきた」

ああ、どうも、と平静を装うが、おそらく顔は歪んでいるだろう。

彼もどうやらお喋りが好きなようでベラベラと喋っているみたいだが全く頭に入ってこない。

書類の確認を急いで済ませてとっとと返す。が、それがどうにも不服のようだ。

「まあ待ちたまえ……あまり人を苛立たせない方がいいな……」

ああ、こいつも例のトラブル大名と同じタイプか、と思うといつぞやメロードが言ってたことを思い出す。

ガウラ帝国の友好国であるメウベ騎士団は天の川銀河でも古い大国で初期宇宙時代(地球で言う紀元前4000年頃)から存在する。

攻撃的ではないが強大な軍事大国であり、ガウラ帝国と同盟国が束になってようやく互角か、という軍事力らしい。

単独では天の川銀河最強の国家である。地球の歴史上の国家で例えるなら、彼らは銀河のモンゴル帝国かオスマン帝国であろう。

あんまり怒らせて関係が悪化するのは良くないので、精一杯の笑顔を作る。

「すぐわかるんだ、作り笑顔は……」

まさか、このくらいで外交関係が悪化するとは考え難いが、そうとも言い切れないと今まで散々学んだのだ。

だが状況が悪すぎる。そろそろ収まってくれてもいい頃だろうに、一向に腹痛が引く気配はない。

「おいおいおいおい、地球人ってのは、失礼な部族だな。何故苦い顔をする……?」

お腹が痛いからである。表情筋が引くついているのを感じる、ああ、終わった……!

「いや、ちょっと待て、もしかして具合が悪いのか?」

私はブンブンと首を縦に振り頷いた。

「わかった、御不浄、御不浄だな、御不浄は重要だ。我が国の神話にもその話が存在する」

彼は口を開き、その神話とやらを喋り始めた。いや行かせてくれよ御不浄に。

「おっと失礼、早く行ってきなさい」と彼は言ったのでお言葉に甘えてトイレに猛ダッシュした。


生き返ったようだ、さっきまでは生きた心地がしなかったから。

「いやはや、申し訳ない。かのような事情があるとは知らずに余計な事を言ってしまった。だが御不浄には先に行っておくべきだったぞ」

急に痛くなったとはいえまさしくその通りで、面目無いと私は謝罪した。すると彼は、先程言いかけた神話について話し始める。

曰く、昔英雄が存在し、彼は武勇に優れて容姿端麗で知恵もあったが、粗相をしてしまってからは一気に求心力を失ったという。

なんとも笑い話なのか何なのか、先日のマードレがトイレの事ばかり話していたのも何となくわかった気がした。

メウベ人にとってトイレは重要なのだ。マードレのトイレへの情熱はこういう文化的な下地から来ているものなのだろう。

ここまでトイレに情熱を注ぐ民族は……一つだけ知っているような気がする。

汚い話だったが、とかく管理局史上最大の危機は去ったので良しとしよう、良しとして頂きたい。


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