ガウラの軍旗祭:模範試合
ふとしたことから、メロードは銃剣術の模範試合に出ることになった。
と言っても、模範試合なので勝ち負けがどうこうと言うものではないのだが。
「さあさあ皆さん、銃剣術の模範試合です。どうぞご覧になって下さい」
拡声器で呼び込みを行っている。わいのわいのと人が集まって来た。
そも銃剣術が宇宙にもあるのは興味深い。やはり二足歩行の人種だと武器の形も似たようなものになるのだろう。
特にガウラ軍では銃剣が重要視されている。警備兵が持つ銃も木製のボルトアクションライフルのように見える。
抜き身の銃剣を付けたままなのが危なっかしいが、割と帝国影響下ではありふれた光景らしい。
銃剣好きが高じて一部の部隊では日本軍の三八式歩兵銃の採用しているらしいとか、いつだったかメロードに聞いた。やっぱり皇軍同士気が合うのだろうか?
無論、機構が単純で砂塵に強い、地球人相手なら性能十分、銃身が長く白兵戦に強い、という点も考慮されてだが(えっ、白兵戦?)。89式じゃダメなのだろうか。
似たようなもので、ブローニングM2、MG42、スオミKP/-31、モンドラゴンM1908などが要請を受けて渋々少数だけ製造されているそうな。
アンティーク趣味なのか、現代の小銃のデザインが嫌いなのか、いずれにしても迷惑な話だろう。そりゃ、お金は貰えるだろうが。
話が逸れてしまった、とにかく銃剣術の模範試合だ。
「一口に銃剣術と言っても、ガウラ式であるのですから日本の銃剣術と違い、繰り突きや銃床での打撃は禁止されていません」
教官らしきガウラ人が前に立って言うが、そもそも大半の日本人は日本の銃剣術も知らない為、微妙な反応であった。
更に木銃の規定が緩く自身の使いやすい物であれば長さは自由なのだという。
木銃の先に細い金属の棒が付いていて、先端が丸くなっている。これが銃剣の部分を表しているのだろう。
センサーが鎧についているらしく、有効打を与えたと判断された場合に音が鳴る仕組みのようだ。
軽傷と重傷、致命傷の三種類の有効打が存在し、まあそれぞれ柔道で言うところの有効、技あり、一本と考えればいいだろう。
なんだか日本の武道とフェンシングが混ざったみたいな感じ、とでも言おうか。
「そもそも銃剣の出現は地球の西暦で言うところの800年代半ばでありまして、地球で言う火縄銃にナイフを付けたのが始まりとされています」
そしてこの教官の話が長いのだ。横の部下らしき人物らはローマ帝国の鎧にも似たような角ばった全身甲冑を着てこのクソ暑い中ただ黙って突っ立って聞いている。
この長ったらしい講釈は「いいから早く始めろ!」といつぞやのグリフォン人種の観客が怒鳴りつけるまで続いた。
「このように、地球における戦いでも銃剣は活用されちょるのです」画面にはイスラエル軍と戦闘を行うガウラ陸軍が映し出されている。
およそ時速60kmの速さで銃剣突撃するガウラ軍部隊には流石のイスラエル軍も恐れおののいていた(恐れおののかない地球人がいるだろうか)、ガウラ人は恐ろしく足が速いのだ。
「さてさて、お待ちかねの模範試合です」そう言うと横に立っていた、青い帯を巻いたのと黄色の帯を巻いた、二人がガチャガチャと音を鳴らし前に出てきた。どちらかがメロードだろうか。
距離を開けて向かい合って立つ。「構え、銃!」教官が声を上げると二人はほぼ同時に木銃を構えた。
「この二人は出来るだけ栄えるような試合ぶりをお見せしますので、皆様お楽しみください。それでは、始め!」
教官が開始の号令を掛けると、二人はゆっくりと近付き始めた。
先んじて、黄色の方が刺突を繰り出す。青が木銃を振り上げてそれを払いのけ、前蹴りを当てた。
おぉー!と観客の喚声が上がる。教官がベラベラと解説をしているようだが多分誰も聞いてはいない。
黄色は少しバランスを崩したがすぐに態勢を立て直し、木銃を構える。
しかし青は攻勢に出る、素早く飛び上がると木銃を相手の頭上に振り下ろした。
黄は避ける間もなく、それを防御する。木と木がぶつかり合う甲高い音が会場に響いた。
いつの間にか観客も増えており、辺りが熱気に包まれていた。まだまだ試合は始まったばかりだ。
二人は一進一退の攻防を続けていた、片方が攻撃を繰り出せばもう片方はそれを躱すかじっと耐え、隙を見て攻勢に転ずる。
素人目からもこれは達人同士の戦いのように見える。最初は喋りながら見ていたガウラ兵たちもいつの間にか見入っているので、この予測は当たっているだろう。
一方教官はブツブツ言っている。「あれほど本気でやるなと言うたんに、これじゃ模範試合にならんじゃないか……」微妙な顔もしていた。
このどちらがメロードかは全身甲冑を身に着けているのでわからない、しかしとにかく応援せねばと私は思い、彼の名を叫ぶ!
すると、青の帯を付けた方がバッとこちらを振り返って、その隙に銃床殴打を顔面に食らってしまった……しまった、と思った。
案の定、青い方がメロードであった。
帰りの車で謝ると「もういいから」と言う。しかしこちらの気が済まないというか。
「お詫びはもう貰ったじゃないか、屋台の品を、いくつか奢ってもらったし」
本当に気にしてはいないのだろうが、なんとも溜め息の出る話だ。
「……そ、そこまで言うなら、晩ご飯もご馳走になろうか」
何故か、蚊の鳴くような声でそう言うので私はもちろんOKした。
どうせなら何か作ろうと私の家に上げ、(その日の冷蔵庫の中の食材で)ご馳走を振る舞った(当然大したものではない)。
ガウラ人の好みに合うかどうかはある種、賭けとも思えたが、見る限りそこそこ気に入ってくれたようだ。
特に魚肉ソーセージは彼の口によく合ったようでがっついていた……魚肉ソーセージって……。
味噌汁は結構イケる口だったが、白米には微妙な顔をしていて、漬物は全然ダメである(塩っ辛いものね)。
「ご飯まで食べると帰るのがめんどくさくなってきたなぁ」とまたしてもか細い声で言う。
そこで私は……いや、その、わかっていたんだ私には、この先どうなるのかなんて。
だから一々書く必要などないだろう、わかると思うけど割と舞い上がっちゃってたんだ、私も彼も。
とにかく薄っすらとぼやかして言うならば、彼は獣だったという話だ。
ただ獣と言うにはあまりにも可愛らしい獣ではあったが。
いやこの可愛らしいというのは彼の獣の話ではない、彼の獣は……やめようかこんな話。




