資本主義病の特効薬
宇宙文明は優れているが、何も最初から優れていたわけではないだろう。
つまり、我々のこれからの道筋を彼らは既に通っているかもしれないという事だ。
二月の頭のイベントと言えば節分だ。
かの帝国郵船の支部局長は季節行事、伝統行事をいちいちやりたがるのだから職員たちは振り回されている。
節分のイベントを空港職員で盛大に執り行ったときは大変な賑わいだったが、その間客たちは皆置いてけぼりでポカーンと口を開け唖然としていた。
そして豆まきの後、年齢の数だけ豆を食べる時も長寿の人種は豆を食べきれず、機械生命体や人造人間なんかは二、三粒しかもらえずしょぼくれていたりと、私としては大いに楽しませてもらった。
さてその翌日、いつものように恵方巻の大量廃棄のニュースが流れる。
私がふと思ったのが、宇宙文明は如何にしてこの問題を解決したのだろうか、という点だ。
気になったので資料を色々と探ってはみたものの、そういう細かい部分までの資料は翻訳されていないようで、結局辞書を引くことになる。
だが思うような情報は得られなかった。
そこで私は、社会学に詳しい職員を呼び出す、彼は快く会ってくれた。
「入国審査の傍らで研究者にでもなるつもりかね、とてもいい事だ。素晴らしい」
開口一番に彼はこう言った。ガウラ人らしく狐のような容貌であったが、メロードと違い毛色は灰がかっていて、所謂ギンギツネのようだ。
私は挨拶をすると、早速毛並みを撫でさせてくれ、と(ついつい)頼む。
すると彼はこう言った。
「君ねぇ、そういうのは日本の言葉でセクハラと言うのだよ?」
そして、まぁ構わないがね、と尻尾を差し出す。
遠慮なく尻尾の感触を存分に味わった後、本題に入る。
「難しい問題だよ、こればかりはね」彼は眉をひそめて呻った。
曰く、大量生産というのは呪いのようなものらしく、一度踏み込めばそこから脱却するのは途方もない努力が必要なのだという。
「社会を構成する全ての人が、同じ方向を向いて行動を起こす事だ」
つまりは独裁国家、全体主義国家程この過剰生産状態から抜け出しやすい、という事だろうか。
「その通り。我々にも資本主義の時代があったが、あの時は地獄だったという話だ」
大量に生産された物品が店頭に並び、そして大量に売れ残り廃棄されていった、再利用にどんどんエネルギーが消費され、日に日に困窮していったのだという。
彼らの慣用句には『同じ爪切りを揃える』というものがあり、これはこの時代に作られた言葉で、意味は『数ばかり多くて実用性がない、無駄だ』ということを表す。
大量生産、資本主義化が進むにあたり物品の低品質化や見てくればかりに凝って本質に目を向けられていない製品などが数多く出回る時代があったのだ。
そしてこの経済革命によって現れた資本家たちは、金にならない物、人、地域には一切目を向けようとしなかったのだ。
それにより経済格差も凄まじいものとなり、ある時は飢饉さえも起こったのだという。大量に食品を生産しているにも関わらずだ。
「資本家は富ばかりを求めて汚い金稼ぎを繰り返した、さらに議会は何の役にも立たなかったとさ。だがそれを打開するある人物がいた」
そこでその惨状を見かねた彼らの皇帝が鶴の一声を上げたのだという。
「皇帝は議会と内閣を解散させた、主権を国民から君主に戻したんだ。未来永劫の善政を約束してね」
つまりは荒療治だ、解決は出来なかったよ、と彼は立った耳に人差し指をピンと当てる。
皇帝はその権力で財閥に次々とメスを入れ、悪辣な企業団体を解体していった、そしてそれは市民に大いに歓迎されたという。
「まあ不思議に思うかもしれないけどね、私たちの皇帝は本当に民の事を想ってくれる、素晴らしい方だよ」
君たちの天皇陛下と同じくらいにね、と付け加える。
話を聞けば聞くほど、私は民主主義と資本主義に疑問を感じざるを得なくなる。
無論、この二つを両立して経済格差や大量廃棄の問題を解決した国家も存在する。
しかし地球人種にはそれは出来るだろうかというと、それはまだまだ未来の話だ。
ともなれば、彼らと同じ道を行くべきだろうか。
「さぁ、それはわからないよ。問題が解決するのが先か、社会が崩壊するのが先か、それとも私たちの気が変わるのが先か、ね」
そう言って薄ら寒い笑みを浮かべるので、頬っぺたを引っ張ってやった。




