補遺:あまり思い出したくはないが
後日談的なのは期待しないでって言ったが、すまん、一個出来ちゃった
「第3強襲師団、師団長として貴官たちに命ずる。共に背中を守り合い、常に伴侶を救い、いずれか、或いは両方が故郷へと帰ること」
ガウラ帝国は軍事国家である。男女ともに戦地へと赴き、そこで結婚することがある。
なので、司祭とかの役割を上官がやるのだが……血生臭いよ!
一応これでも日本風にアレンジしてくれているようだ。私たちたっての希望なので頑張ってくれたようだが……。
私はウエディングドレスを、メロードは軍の正装を着ている。
「はっ!我々は共に背中を守り、常に伴侶を救い、いずれかが故郷に戻ることを誓います!」
「よろしい。これはガウラ皇帝、そして日本国天皇陛下の名の下に下される勅命であることを忘れるな」
「はっ!」
荘厳な雰囲気だが、なんか荘厳違いな気がする……。
「それでは、指輪を交換し、誓いの口付けを」
「了解しました」
私たちはお互いに指輪を左手の薬指に嵌める……テキパキし過ぎて、本当に軍隊みたいだ。
そうして、人前では初めての、口付けを行った。写真を撮る音が聞こえてくる。
「ここに勅命は下された。この誓いを破ることは、皇帝、及び天皇陛下の顔に泥を塗る事を意味する!」
お、重いよ~~!破るつもりは毛頭ないけども!
「皇帝万歳!天皇陛下万歳!」
その号令の後、万歳三唱が教会に響いた……。
事前になんとか上手いこと調整してこれだ。前はもっと血生臭さかった。
お次は披露宴。帝国にはこの文化は無いので完全に日本式。客席を見ると圧巻だ。宇宙人たちがズラズラと列席している。
宇宙港関係者や佐藤みたく宇宙人慣れしていない友人たちが気まずそうにしている。
さあ開宴だ。司会者が開宴の挨拶をしているところ、嗚咽の声が聞こえる。
正体は吉田であった。あいつ……同僚二人のために泣けるいい男だ……けどうるせぇーー!!
結局佐藤に連れ出されていった。もう酔ってるんじゃないだろうな。
そうして両家の紹介も終わり、挨拶も済ませると会食だ。乾杯!
多彩な宇宙の料理を用意出来たのは局長のおかげである。……味については置いておこう。
そうして定番のケーキ入刀。前から思ってたんだけど、これ何なの?
「い、いくぞ、綺麗に切れなかったら嫌だからな」
メロードがめちゃくちゃ緊張しているので笑ってしまう。そんな気合い入れてやらなくても。
しかも結局切り口はぐちゃぐちゃになってしまった。彼はかなりしょんぼりしていた。可愛い奴め。
ケーキを食べさせ合うのだが、お互い自分の感覚で切ってしまい、私はガウラ人の一口大サイズで食べることになった。大き過ぎるのである。
「ご、ごめーん……」
口の周りがクリームまみれになる。逆に私は小さすぎたのでお互い様だろう……お互い様じゃねーっ!
そうして、自由に席を立つ人もちらほら現れ始めた。
「伊織!宇宙人なんて聞いてないよ!」
「可愛い狐じゃん!」
今更ながら、伊織は私の名である。
そしてこの人たちは小学校からの親友だ。ちょくちょく連絡はしていたが……。
「しかも、お客さんたちも宇宙人だよ!?狐はもちろん、馬に、猫に、青い人に、あれはトカゲ!アンモナイト!イギリス人!」
多様性があっていいじゃないか。話してみればいい人たちばかりだ。イギリス人は別にいてもいいだろ!?
「流石にちょっとハードル高いわぁ」
「まあ、でも、伊織は物怖じしないからね」
「"失礼、お嬢さん方。お義姉さま、俺のこと覚えてます?バザードです"」
「"先輩!呼んでくれたんですね!"」
ガウラ語と英語で同時に話しかけてくるな!今翻訳機つけてないんだから!
親友たちはそれぞれの言葉で応対する私を尊敬の眼差しで見ている。あんたらも宇宙港職員になったら半年でこうなるよ。
そうこうしているうちにお色直しだ。控室なら誰も来ないだろう。
十数分後、メロードと二人で戻ってきた時、会場はとんでもないことになっていた。
まず酔っ払ったイェッタービゥム……いつぞやの捨て犬を拾っていた、マウデン家の家臣……オウムガイ人種の人の触手にオリビアが絡まれていた。
「ナンデコーナルノー!?」
後で聞いた話だがカーマルマミン酪酸とアルコールの相乗効果で急激に悪酔いしたらしい。
しかし、やめて欲しい、私たちの披露宴でエッチな展開はやめてくれぇーっ!
「やばいぞどうしよう」「頭がとろけて力が出ない……」
メロードの友人の軍人たちは、普段飲まない地球の強いお酒でクタクタになっていた。
誰か対処してくれーっ!と思うが、会場スタッフは日本人であり手が出せない。
■■■■やヒューダーは!?
「君は服装を考えた方がいい、恥ずかしくないのかな」
「これが正装でしてね、人の国の服飾にケチをつける方が余程恥ずかしいと思いますが」
な、なんか喧嘩してる!?酒に酔ったのがよくないのか、あの二人の相性が特別悪いのか。
ならバルキンは!?
「ねぇ、終わったらイイコトしない?」
「妻がいるのですが」
「別にいいじゃん」
私のお兄ちゃん口説いてんじゃねえクソ馬!!!お義姉ちゃんがキレかけているのがわかる。
「いいじゃん!UFOキャッチャーやろうよ!!」
UFOキャッチャーかよ。
こうなりゃ、エレクレイダー!!戦闘員はもう君しか残ってない!
「ロボだ!かっこいい!」
「だろ?俺様はエレクレイダー、宇宙一カッコいいロボだ」
姪っ子や来客の子供たちを相手してくれているのはありがたいけど周りえらいことになってるの見て!
吉田!佐藤!正直期待はしてないが!
「うぅ……あの二人は、本当にいいやつだから……嬉しくてぇ……!」
「うんうん、そうだね。私も嬉しいよ」
駄目だこりゃ。
「これなかなかええな」
「そだね」
ラスちゃんやビルガメスくんももう、諦めの表情で食事をしている。
親友たちや両家の家族も、唖然としていた。
「やっぱり、私がやらなきゃかな」
そうだね、頼んだよメロード。やっぱり彼しかいない。
結局彼によりオリビアは救助された。お色直しをしたばかりの服は汚れ、会場の中心辺りのテーブルは全部めちゃくちゃになったが。
色々と、余興なんかがあった予定だが、全部中止となってしまった。
そのせいなのか、カガンがこっそりと会場へと入ってきていた。多分余興で登場するつもりだったのだろう。可哀想。
片付けなどで時間が遅れ、私たちの両親への手紙の朗読もなくなってしまった。これは小っ恥ずかしかったから助かる。
そうして、私たちから両親へと花束を贈る。メロードの父、アラディードさんは涙をボロボロこぼしていた。
「頼むな、メロードをな……!」
これからはお義父さんと呼ぶことになる。なんだか彼につられて私も涙が…
「なんで呼んでくれなかったんだ!」
とそこへ会場に乱入者が現れた!ガウラ人たちが一斉に立ち上がり敬礼をする。
あの出で立ちは間違いなく殿下である。だって、王族は呼ぼうにもねぇ……。
「おれは友達じゃなかったっていうのか、寂しいなぁ、悲しいなぁ」
呼ぼうとは思ったけどあまりにも畏れ多くて。
「ふふん、まあ主役は遅れてくるものだ。今は何をしている?」
主役は私たちだけどね……。花束贈呈も終わったし、これからは代表の謝辞だろうか。
「ちょうどよい、おれが言ってやろう」
そう言って殿下は咳払いをして話を始めた。
「本日は歴史的な日だ。ガウラ帝国の男子と日本国の女子が契りを結ぶ。これは両国の友好の象徴となろう。彼らには、何も共通点はない。人種も、思想も、信仰も、言語も、産まれた星も育った国も何もかもが違う。その二人がこの先共に歩む事を決断した。これは希望だ、我々はお互いの悪いところに目を瞑り合えるということだ。この二人の行く末は宇宙の行く末と言えるだろう。どうか見守っていこうじゃないか、彼らの未来を、そして私たちの未来を!親族に代わり、ガウラ帝国第三皇子がこれをお礼の挨拶とさせていただく。今日は皆に集まっていただき感謝する!」
なんでえ、結構熱いこと言ってくれるじゃないの。メロード、というかガウラ人はみんな感極まって泣いている。
そうして披露宴は閉宴と相成ったのである。
見送りを終えた頃には精神的にクタクタになっていた。
やっと、終わった……酷い一日だったような気がする……。
「忘れられない式になったな」
悪い意味でね……私達が結ばれて最初の思い出がこれか……。
しかしまあ、これも私達らしいんじゃないか。
「ふっ、ふふふ、そうだな。私達はこうでなくては」
……彼には、結婚後伝えようと思っていたことがある。
「えっ!!子供!!」
そうだ。いつぞやの岩石星人が遺伝子改良技術を持っていた。そこに頼んでみようと考えている。
まあ、嫌と言うなら、別に……。
「嫌じゃない!絶対作ろう!いっぱい作ろう!」
いやいっぱいは……まあ、多くても三人……。
「そうと決まれば、私は上司に給料増加の打診をしなくてはな」
その結果より危険な任務になるということは避けてほしいものだ。
「なあ、伊織」
珍しく彼に名を呼ばれる。
「これから二人で幸せになろう!」
歯が浮くようなセリフをよくもまあ、恥ずかしげもなく、言うものだ。
私から言わせてみれば、もう幸せだから、肩肘張る必要はない。
彼の腕を取り、手を握る。そうして二人で顔を見合わせて、ニコリと笑った。




