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地球の最前線


遠い星の出来事ではあるが、宇宙港へのテロが相次いでいるという。

なんだかとてもきな臭い話だが、他人事とも思えないものだ。



銃声が鳴り響く。

「意外に上手いな!」そう私に言うのは吉田である。

ここは宇宙港内に(何故か)新設された射撃訓練場だ。

昨今のテロ事件を受けて、帝国郵船が用意してくれたのだという。

こんなもの用意する金があるならもっといい機械を入れてもらった方がいいのだが、それだとお役御免になってしまうので言わない。

しかしながら免許も無しに銃なんてぶっ放していいのだろうか。

「……いいんじゃない?実質帝国領みたいなものだし」

吉田曰く韓国やハワイでは観光客向けに射撃場で実銃の射撃が出来るというから、じゃあ問題ないのだろう……多分。

主権国家という視点で見れば暗澹たる状況ではあるだろうが。

さて、この銃は護身用として渡された。当然持ち帰ってはいけない、職場に置いておくものだ。

警備員だけでは職員を守れないかもしれない、ので最終手段として個人に銃を持たせるというのである。

……そりゃ、警備員だけではダメな時があるかもしれないが、もっと手荷物検査とかを強化してくれれば防げるのではないだろうか。

案の定、エレクレイダーら警備員たちはこの計画を良く思っていないようである。

「警備は俺たちの仕事だ、邪魔されちゃ困るぜ」

ごもっとも。

「第一、素人が咄嗟に銃を取り出して撃つ、なんてことが出来るわけねーだろ、しかも警備員を無力化するようなヤツをだぜ?」

全くもっておっしゃる通りである。

これに対し、警備課のフィーダ課長はこう語る。

「既存の警備に加え、職員の自衛力を高めれば、宇宙港の警備は万全の態勢と言えるだろう!」

理屈で言えばそうかもしれないが……。「それに射撃は楽しいし……」そっちが本音か。

彼の部下である課長補佐のソキ、宇宙人対策係長のアクアシは呆れ顔である。

「予算が余っちまってるとはいえ、公私混同甚だしいのでは」「左様の通りです」

課長は浮かれた様子で毎日足繫く訓練場に通っている。


さて、職員らの射撃訓練ブームも去り、訓練場の利用者が警備員らと課長だけになった頃。

メロードもバルキンも他の警備員も眠ってしまい、エレクレイダーはバグって使い物にならない。

「主電源を切ってください。主電源を切ってください。主電源を切ってください」

彼のバグった時の音声が宇宙港に鳴り響く。

地球人のみがこの謎の攻撃に耐性があった、というか地球人対策をしていなかったようだ。

恐るべき事に、これはテロだ。私もかなり混乱している。

「マズイぞ、どうするよ、どうしよう……!」

吉田も慌てふためいているが、こんな時の為の銃の訓練であって、しかし、その……。

「撃てるのか?」

そっちこそ。だがはっきり言って撃つ勇気は無いが、死にたくもない。

多数の乗客たちも眠っている。頼れるのは銃と吉田……銃のみだ。

「俺も頼ってくれ」

そんなコントをしている場合じゃない。

「お前が言い出したんだろっ」

これぞまさしくテンパっているって状態だろう。お互いに。

我々は今カウンターに隠れて、対暴徒用のシャッターを降ろしている。

何故か覗き穴がついている、ガウラ製なので反撃する前提なのかも知れない。

軍や、頼れそうな人に連絡はしたので待っていれば帝国軍がやってきて何とかしてくれるだろうが……。

「……急いだほうが、いいのかも」

吉田が覗き穴を見ながらそう言った。私も覗いてみると、メロードや警備員らが出血している。

それを見た瞬間、脳が沸騰するような感覚を覚える。

「おい、馬鹿なことは考えるなよ」

銃が効くかどうかなんて考える暇もない、ヤツをどうにかして、彼らの血を止める。

「やめておけよ……」

こういう時、吉田はノッてくれるタイプだと思ったが、違ったのだろうか。

「俺だって悔しいよ……」

……。

「はぁ……どっちかが死んだら、ちゃんと遺族に謝るんだからな」


シャッターを開け、銃を構える。緑色の肌、触手と大きな一つ目を持った宇宙人に照準を合わせた。

制止の声は果たして通じているのだろうか、こちらに目をやるとゆっくりと近づいてくる。

そいつが、近づくに連れ、覚悟が薄れ、後悔の念がジワジワと渦巻く。

そもそもの間違いは普通の職員に人を殺す覚悟をさせる事である。

無言で近づき、触手が私の握る銃を掴む。渾身の力を込めて、照準を合わせ続ける。

こんなテロリスト相手でさえも、引き金が引けないほど、私は宇宙人の存在を受け入れているのだろうか。

「うおおおお!ごらああああ!!」

もはやこれまでか、というところで吉田のタックルが炸裂する。

テロリストは地面に倒れた、意外と体幹が弱かったようだ。

「言っておくが、俺も殺す覚悟はねーぜ!!」

そう叫びながらも銃床で頭っぽい部分を殴りまくる。が、しかし。

触手が肌から飛び出し、私と吉田の首を掴んだ。

「ぐっ……だから、こうなるって……!」

窒息の苦しみが襲う、やめておけばよかった、と、ちょっとは抵抗できてよかった、の半々だ。

ここで死ぬのは悔しいがメロードとそれと、吉田も一緒ならきっと退屈はしないだろうか。

意識が途切れそうになった時、視界の端に青い人影が飛び込んできた。

「そいつは私の友人だ」

それが緑のテロリストに触れると、触手の力が抜けて、どんどん萎びていき、ついには首から離れた。

「ああっ、はぁぁーーー!助かった!!」

吉田の方も解放されたようだ。

「間に合ってよかったね」

青い人影はいつぞやの時を喰らう少女であった、■■■■って名前だった記憶がある。なんて呼べばいいのか。

「超能力の妨害をしていたようだけど、残念、私らのは超能力とは違うんだな」

物体の時間を自在にできる種族、タイムイーターの御業である。一体どういう原理なのか、聞いてもわかんないんだろうな。

「おや、そこいらで血を流しているぞ。傷は塞げないんだ!どうしよう!パニックになりそう!!」

それを聞き、慌てて救急箱を取りに走った……。


結局、護身用の銃によるテロ対策は問題が多過ぎる、という事になった。

課長のフィーダの趣味によるところも大きかったようで、局長にこっぴどく叱られていた。ていうか更迭された。

こんな星には来ないだろうと考えていたようだ。自分が来れなくなったみたいだが。

警備員らも強く言ってくれて、特にエレクレイダーはかなり頭に来ていたようだ。

「仕事仲間を危険に晒すだなんて二度とごめんだぜ」

「余程低予算で作られてるんだな、この宇宙港……」

彼らも大いに呆れ果てていた。自分たちの身の危険にも関わることである。

防衛設備の見直しも行われ、超能力妨害装置への対策ももちろん盛り込まれるという。

して、テロリストはやはり新興国家の手先であったようだ。無論関与は否定しているが。

地球の玄関口というのは地球の最前線になりうるということを大いに痛感した日であった。


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