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宇宙港文芸部


文芸というものは当然、言語と文字を持つ文明ならどこでも発展してきた。

いや文字を持たざる文明でも民謡や口承の昔話などは存在する。

そして彼らの思想や風習、好みを色濃く反映するのである。


ふと気になった。彼らはどのような文章を書くのだろうか。

「へー、いいですやん」

私はいつもつるんでる、いつメンにとある提案を持ちかけた。

ちょっとした短編小説を書いてきてほしい、と。

ラスちゃんは割と乗り気であったようだ。

「スワーノセ・ラス大先生の次回作にご期待ください!」

次回作。多分何か間違って覚えている。

メロードやエレクレイダー、バルキンも快諾してくれた。

呼んでもないのにミユ・カガンも現れた。

「ハア……ハア……そ、そういうことなら、僕も呼んでくれないと……!」

慌てて来たようで息絶え絶えである。誰が呼んだんだ。

「あたしあたし!人が多いほうが面白いじゃん!」

バルキンがそう言う。まあそれは確かに言えている。サンプルは多いほうがいいし。

「はっ、この俺エレクレイダー様にかかれば傑作の一つや二つ、余裕だぜ」

「出来るだけやってはみるが」

ロボが書く小説っていうのも気にはなるなァ。

幸いなのかなんなのか、小説を書いて友人に見せるという行為に恥ずかしさはあまり感じていないようであった。


「あかん、めっちゃ恥ずかしいです……!!」

そうでもないようであった。ラスちゃんは尻込みをしている。

次の休日、私の家に集まって発表会を行っているのだが、トップバッターがこのざまであった。

まあそうだよね!恥ずかしいし勇気がいるよね!

どこかの誰かは未だに投稿ボタンを押すのにもちょっと気合を入れねばならないという。

「みんな見せるんだから大丈夫だよ!」

「大丈夫やないですよ!」

「そうなりゃ、この俺が一番に見せてもいいぜ!」

こういう時頼もしいのがロボである。あとでガソリン飲ませてあげるね。

「短編って言われてたが、詩にしてみた。別に構わんだろ?」

というわけで、エレクレイダー作、『白銀の夜』。


月影の明かり灯すれば 銀の輝き閃きて

金属の月輝けば さながら永夜の夢のよう

稲光にも負けぬ輝き 帝の外套の如く

白銀の肌を持つ者来たれりて

名をエレクレイダーと言った


「どうだぁ?この俺様の美しさを詩にしてみたぜ」

いきなり反応に困るやつが来たな……。

「すっごーい!超かっこいいじゃん!」

バルキンには大受けのようであったが、他は怪訝な表情で静まり返っている。

やっぱり、ガソリンは無しにしようね。と思っていたらメロードとラスちゃんが口を開いた。

「私はいいと思う」

「せやね。かなりいい線行ってるんやないですか」

マジで!?ガウラ人的にはいいのこれ!?ま、まあ、エレクレイダーもガウラ文化のロボだからか。

「やっぱり君もそう思うかい?」

カガン的にはダメそうな感じだ。この辺りの感覚はミユ文化の方が近いようである。

バルキンは何でも喜びそうだからあまり宛にはならないかも。

「じゃあ次あたしあたし!いいよね!?」

「ええですよ、どんどん行きましょか!」

バルキン作、『蹄鉄の轍』、一部抜粋。


長い長い暗い暗いトンネルを歩いているような心地であった。

「どうして、私は処女じゃないの……っ!?」

ああ、不幸とは不意にやってくるものだ。

純潔だった私はもういない、汚され、踏み躙られた。

初めて愛に目覚めても、それが真実の愛であったとしても、傷跡は消えはしない。

足掻けば足掻くほど、雪道の足跡、蹄鉄の轍のように、土で汚れて黒ずんでゆく。

彼はきっと幻滅はしないし、より強く私を愛してくれる。

それはそれはとてもとても辛く辛くて私はきっと耐えられない。

悔やんで悔やんで悔み果てても過去を変えることはできない。


えっ……く、暗い!

「そう?別にそこまで暗い話じゃないと思うけど」

内容はこうだ。

ある少女は過去に見知らぬ男性に体を許してしまった。

それから数年後、自分が心の底から本当に好きになれた男性と出会えた。

しかしながら過去の出来事が彼女を苦しめ追い詰める。

最後、ついに彼にそのことを打ち明けたが、彼はこう言った。

『だから君を愛しているんだよ』

「なんというか、気味が悪い」

メロードの言う通りである。

「えー、でもこれ、コメディだよ?」

これコメディ!?どこが笑えるんだよ!?今日一番ゾワッとしちゃった。

どうでもいいことを気にしている男女の滑稽さを見る喜劇なのだというが。

「どうでもよくないで!」

「うーん、コメディではないよね」

「コメディだとしても笑えねえな」

他の文化の人々には不評であった。

「えー、定番のやつなのに」

逆にルベリー文化圏での悲劇というのはどういうものなのか。

「他の国の文化を受容してしまったとか」

だとすると現在進行形で悲劇真っ最中であるということになるけどそれはいいのかな……。

「いやいや、あたしは悲劇とは思ってないよ!あたしは変わり者だからね!」

ルベリー共和国行きたくねえなぁ。もう行ったことあるけどね……。

「それじゃ、次は僕かな。僕も物哀しい話を書いたんだけど」

そう言ってカガンはかなり分厚い原稿用紙を取り出した。気合入ってんな!

お次はミユ・カガンの作品、『悲劇についての備考録』、これもまた一部抜粋。


過去がどうあれ明るく振る舞えばいい。彼はそう思った。

彼は13.55cm定規を3号規格の上質画用紙に、右から6.4cmの位置に当て、

用紙裁断用カッターで秒速2.2cmの速度で切った。

これは通常、メモ紙やシレネンス用などに使われる際に行われる。

こういった文化は各部署によって細かい違いがある。

例えば、住宅基礎課では左から11.2cmと規定されている。

シレネンスの際に使われる器具が比較的新しいものであった際の名残である。

現在ではどのようなサイズの上質画用紙であっても適応できるが、

かつては部署ごとに予算が分けられており、器具や規格がバラバラだったのだ。


終始こんな感じである。目が滑る滑る。シレネンスって何。

「な、なんなんすかこれ、なんなんすかこれ」

ラスちゃんが戦慄している。私だってしている。

「数字や備考がいっぱいあった方が読者は喜ぶからね」

物語に関係しているの最初の一文だけなんですけど?

抜粋した箇所が悪いのではないか、と思うかもしれないが、

本当にどこを切り取ってもこんな感じである。そりゃ分厚くもなる。

話としての内容は、幸せに暮らしていた男性が強姦の憂き目に遭い、

そのせいで一家の関係がギクシャクしており、しかしなんとなくの惰性で離散とまでは行かず、

ズルズルと悲劇を引き摺ったまま生活を送るが、更なる不幸が押し寄せる、というものである。

あまりに救いがない!

「出た出た出ましたね、地球の創作もそうやねんけど、とりあえず強姦とか社会問題とか暗い話入れとけば高尚って思ってるやつやん!センスが無いのを露悪趣味とか曇らせって呼ぶのやめたほうがいいですよ!」

ラスちゃん口悪い!やめて!数多の創作者を敵に回しちゃうしこの作品にもガッツリ刺さるよそれは!

「そ、そこまで言わなくても……」

珍しくカガンがガチ凹みをしている。かわいそうかわいいのでナデナデしてあげる。

「うーん、とにかく読み難いよね」

「だな」

「うむ」

それは全く同意である。というか、話の内容よりそっちの方が問題だ。

「それなら君こそ、どんな傑作を書いたんだい!?」

私の腹に顔を埋めながらカガンが凄む。くすぐったい。服の中に入ろうとするな。

「見せたりますよ、本物の創作ってもんを!」

最初あんなに恥ずかしがってたのに、ノート数冊を取り出し、開いて見せた。みんな私が短編って言ったの覚えてる?

ラスちゃん作、『数多の名を持つ王子』、一部抜粋。


王子は自分の心に戸惑った。二人の人物に心惹かれるなどということは通常ありえない。

だが、最愛の婚約者と同じように、あの農家の娘を愛してしまっていることに気がついた。

「私はどちらを選べばいい?いや、そんな不義理な考えはよそう」

王子は畑仕事で疲れているのだと考えて、川に浸かってゆっくりすることにした。

「王子も、水浴びですか?」

川には例の農家の娘がいた。

「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません」

彼女の毛皮には水が滴り、その尾は艶やかに水滴が光を反射し、テラテラと煌めいている。

この娘もまた、王子に心惹かれていた。だが婚約者がいるのはわかっていた。

彼女はこの心の内を一生胸に秘めたままにしようと、覚悟と決意をしていた。

「王子……」

だが目の前に想い人が現れるとその覚悟が揺らぎそうになるのである。


ちょっとエッチなやつだこれ!

「それでですね!この農家の娘はですね!実は実の妹なんやねんですよ!それでですね!!」

熱の入った解説をしてくれるラスちゃん。良くない感じのハッスルをしている。

内容はこうだ。とある国の王子が自身の領地を周る。

すると次々に心惹かれる女性が現れ、王子の心は戸惑い続ける。

しかし彼には婚約者がいて、やはり彼女の事を愛していた。

結局王子はそれぞれの女性と逢うために多くの偽名を使うことにした。

という感じである……うーん、単なるクズ男じゃないか、と思うが、

ガウラ文化では一生に一人しか愛さない。

王子が彼女らを手放すとみんな生涯未婚になってしまうので、という落とし所なのだろう。いや、でも、うーん。

「意外と、悪くなかったね」

カガンには響いたようであった。

「グッと来たよ……さすがだね、ラスくん」

「そ、そう?さっきはあんなこと言って、ごめんね……」

仲直りできたようでよかった。

「ありきたりでベタだけど、やっぱ王道がいいよね!」

やはりと言うべきか、バルキンには好感触だったようだ。

「しかしふしだらな男だと思う」

メロードには不評のようであった。

「それじゃ、次はお前だな」

エレクレイダーの指名により、メロードはノートを差し出す。

題名は『初恋の二人』。例によって一部抜粋。


一目惚れ、というものがあるが、まさにそれであった。

学生時代では誰にも惹かれなかった、どんな女性も色褪せて見えた。

だが今目の前に立つのは、文化も体格も毛並みも違う。

「お名前を聞いても?」

「私は⸺」

彼女の名前を何度も声に出して繰り返す。とても心地が良かった。

私が名前を口にする度、彼女は恥ずかしそうな仕草をする。

故郷を遠く離れて、ついに初めて、恋に落ちた。


め、めちゃくちゃ、純な話が出てきちゃった!

「はぁー、やっぱりこういうのはいいですねぇ」

ラスちゃんがため息をつく。ガウラ人的には王道の話なのだろう。

恋を知らなかった男が故郷を遠く離れた土地に行き、

そこに住む文化も人種も違う女性と恋に落ち、結ばれるという話だ。

地球文化からしても王道の話で、キュンと来る描写がたまらない。

「ま、まあまあいいじゃないか。ちょっとクサいけどね」

カガンも結構良いと思ったようである。

「うえー、こういうのなんて言うんだろ、青臭い感じがしてあんまり好きじゃないかな」

逆にバルキンはそうでもないようである。好きそうなのに!

「だってさぁ、ねえ?」

ねえって言われても。

「これ、お前じゃねーか?」

ふと、エレクレイダーが口に出した。

「ち、違う」

「違くはないだろ、故郷を遠く離れて?警備隊に就職?で、その施設に出入りする女性と恋に落ちるって、お前なぁ……」

ロボは呆れた様子であった。メロードは、図星を突かれたかのように、さっと手で顔を覆った。

私はよくネットの漫画とかである、『ちょっと待って』とか『まじ無理』とか『尊い』とかははっきり言って大嫌いなのだが、

やばいちょっと待ってまじ無理無理尊い尊い自分の恋をお話にしちゃったの可愛い可愛い可愛いもちろん顔には出さない。

メロードは顔を手で隠しているし、ロボとラスとバルキンはニコニコしている。カガンはキレている。なんで?

時々チラと指の間から私の方を見るメロード。目が合うと慌てて指で隠すメロード。

クソッ、変な雰囲気になってしまった。すると、カガンが突然立ち上がる。

「このあざとい犬め!来週!来週また書いてくるからね僕!」

そう言って腕時計型端末を操作し、ワープしていってしまった。

どうも最近気がついたが彼女はメロードに何やら敵愾心のようなものがあるようだ。

「んも〜、そういう話なら先に言ってよね!それなら青臭いとか言わなかったのに」

「ほな、最後は先輩ですね」

……え?私は、別に何も用意してない……。

「そりゃあかんでしょう!自分が言い出したことですやんか!」

そ、そうだけどさ。しょうがない、私がいずれ文章で一稼ぎしようとちょくちょく書き溜めていた、

彼らについて脚色を入れたり入れなかったしたものを少しだけ見せてやるとしよう。

題をつけるとするならば、『地球の玄関口』。


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― 新着の感想 ―
[一言] メロード「主人公ちゃんとの日々を詩にしたら匿名希望にしたのにすぐバレた」
[一言] え?最終回?
[一言] おおっ! うまく着地した!
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