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いい加減にしろ


私は今、ちょっと宇宙人から距離をおいている……。



なぜこんな状況に身を置いているのか、というのを少し説明しなくてはならない。

5日前のことである。私はいつものように業務外のことを任されていた。

どうも私は新たな客人が訪れるたびに面会をさせられているようであり、

少しの研修と長時間の接待を行わなければならないのである。

外務省かどっかにそういう人員がいてもおかしくない、というかいなきゃダメだろ!

と抗議の声を上げるも、全くの未発達の分野とも言えるこのエイリアンファーストコンタクト業で、

最も優れた人材が私のようであり(ちょっと自慢だ)、次点で吉田が出てくるぐらいの

人材不足に陥っているようである。当然星間国家にはノウハウがあるが、

このような重要な技術はあまり教えてはくれないし、経験と勘だけが物を言うタイプの業種である。

即ち、地球上で最も経験豊富なのが私と吉田、そして見知らぬイギリスの宇宙港の人だということらしい。

とはいえ、原始文明相手に強気の交渉や難癖をつける連中も少なくはないので、

そういう連中の危険な『ニオイ』を嗅ぎ分ける麻薬調査犬みたいなことをやらされているのだ。

杞憂に終わればいいが、確かに変な連中は来るので依頼を無碍にすることも出来ないのである。


4日前、技術指導を言い渡された。なお吉田は助けてはくれなかった。佐藤に言いつけてやるからな!

外務省官僚のエリート、しかも私よりも歳上な人たちに研修をしなくてはならない。

そんなこと言われても、だいたいフィーリングだし……。

なんでこんな奴に、なんて表情をされてもそれはこっちが聞きたい事なのだが。

こういったあまりに位階が違う人間と関わるのは気を遣うので疲れてしまう。

しかしながら、私の経験した話を聞かせると、何人かは目を輝かせていたので、

やっぱりそういった心意気の人たちのほうが私は大成すると思うよぉ!


3日前。全く手応えを感じなかった技術指導で心が疲れ果てても、仕事がある。

とはいえいつも通りならいつも通り見送りしつつ犯罪者をメロードに押し付けるだけなので、

そう忙しい業務ではなかったはずなのだが、その日はいつも通りではなかった。

なんでも、偽装技術が向上したようで、本当に人間と見分けがつかないような入国者が現れたのである。

こういったのは最新の機械であっても見分けるのが難しく、星間国家でも手を焼く存在なのだが、

経験豊富な管理局員に隙はない。文化、流行や歴史、気候などの知識を総動員し、

人間に化けた不法侵入宇宙人共を見事引っ捕らえてやったのである!

吉田と私とで合わせて15人も捕まえ、何れも同じ組織の者たちであった。日付ずらすとかさぁ……。

彼らは歴史に関してかなり偏った知識を持っていた。ビザンツ帝国は1400年代に滅びましたよ!


2日前にはもうクタクタであった。休憩室でのんびりする時間も増えた。

しかしながら、身近な宇宙人どもが最近構ってなかったせいなのかグイグイ来る。

「ねえねえ!最近疲れてるなら温泉行こうよ!今日!」

「それより俺とゴルフ行こうぜ、吉田もメロードも誘ってさ」

バルキンとエレクレイダーだ。お前ゴルフできんの!?

「そりゃあもちろん、この俺はゴルフだって出来るぜ、ルールを教えてもらえればな」

どうやらやったことはないらしい。そんな思い付きで初体験するスポーツではないと思う。

「温泉だよ温泉!疲れてるみたいだし」

「吉田が言っていたが、温泉にも入れてゴルフもできる場所があるらしいぜ」

「それって……天国ぢゃん……!」

なんだか妙な話になっている。きっとよほど疲れた顔をしていたのだろう。

「あそーだ、飲み行こうよ!ほら、最近後輩も出来たしさ!」

ようやく人員を増やしてくれたのか私にも日本人の後輩ができた。女の子。

なかなか覚えがいいのだが、寡黙な人物である。きっと酒の席には出てこないだろう。

と、思っていたのだが、バルキンが誘ってみると、来てくれるようである。

きっと気を遣ってくれているだろうし、私も出席することにした。

週の半ばなので時間も遅くはならないだろうし。

「先輩、聞きましたよ!先輩はかなり頭のネジが外れたやつだって!」

めちゃくちゃ絡んでくるぅ。いや別にいいんだけど、公私をかなり分けるタイプなのかな。

しかも頭のネジが外れてるって、誰情報だ。だいたいわかるけど。

「バルキンさんです!社交界ってどんな感じでした!?」

いや別に……そんな大袈裟なものではなかったのだが、まあ傍から見れば気にはなるだろう。

彼女に色々と話すと興味深そうに聞いてくれた。

こういう可愛い後輩が出来ると、まあ、ついつい夢中になって飲みすぎてしまうものである。


それで、昨日。二日酔いという程ではないが、体がだるい。

「や、休んだほうがいいんじゃないか」

吉田も心配してくれるのでよっぽどなのだろう。

「今日は休め、心配だ」

メロードもシュンとした様子で身を案じてくれる。

かわいいしうれしいなぁ〜、なんて考えてしまうのはおそらく頭が回っていないのだろう。

「ひどい顔ですやんか。顔洗いました?」

ラスちゃんはこの調子である。

そんな感じで仕事に来た日に限り、結構ヤバ目の出来事が降ってくる。

「少しいいかい、外交官がやってくるそうなので付き添いを」

局長であった。もう勘弁してほしいのだが、渋々ついていくことにした。

「僕は殺人エイリアン!お前たち殺す!」

コワ〜。何なんだこの人。

「君ならどうする?」

知らねえよ、どうもしねえよ、帰せよ、聞くなよ、いい加減にしろ。

と、言いたいところだ。が、おそらく何らかの勘違いをしている気がするので、

話を聞いてみるとやっぱりなんか変なドラマの影響を受けたようである。

「やはりそうだったか」

結局なんとなしに解決してしまったが、すごいしたり顔をしているのが腹立つ。局長は何もしてないだろ!

そこで、疲れがピークに達したのか椅子に座り込むと気を失ってしまう。


目を覚ますと、数週間の休暇を取ったことになっていた。

メロードと吉田が色々とやってくれたらしい。吉田はこうなる前に手を貸してほしいものだが。

「俺も色々と忙しくて……悪かったよ」

分かればよろしい。しかし休暇となればしばらく宇宙人の顔を見ずに済む。

「私の顔も?」

メロードがウルウルした目でこちらを見ている。今にもクンクン鳴き出しそうだ。

鼻をつまんでやると、目を閉じる。あざと可愛いやつだが、一応成人してるんですよね……?

そう考えると少し彼の将来が不安になったが、とにかく今日はもう帰ろう。

自宅に辿り着くと、着替えもせずにベッドに横たわり、そのまま意識を手放してしまった。


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