表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/171

受容と根絶


さて、最近では不思議な、でも良いことに、障害者への差別が少なくなっているそうだ。

これらはネットの呟きなどでポツポツと見受けられている、彼らの体感だそうなのだが、

確実にこれが理由というのはわからないようで、多分これも宇宙からの福音だろう、ということらしい。

まず一つ、宇宙人という新たな社会階層の追加があるだろう。

彼らは(比喩表現としての)カーストの外にいる得体のしれない化物だ。

そんな連中と比べれば、こっちのほうがまだ親しみが湧くというものだと、

そういうことらしいがなんともまあ酷い話な気もする。

同じ理由で性的少数者、地球の外国人、マイノリティへの圧力も低下している。

結局のところ、標的が宇宙人に向かって逸れたということでもある。


それからもう一つは、ガウラ人たちの奇妙な行動である。

彼らは障害者、特に身体障害者や視覚障害者を街で見かけると敬礼を行う。

おそらく何らかの勘違いをしているようである。

「何やら難しい顔してんな、姉ちゃん。いや兄ちゃん?」

誰もいないのに声だけがする、と思って辺りを見渡すも、声の主は見つからない。

「ここだよ」

突然腕がニョイっと出てきたので小さい悲鳴を上げてしまう。

「背が高過ぎで見えなかったろ?」

そのガウラ人は腕だけで受付台の上によじ登ってきた。

なんとも言えないジョークに苦笑いする。

「……おかしい、爆笑中の爆笑ジョークだったのに」

笑っていいものだったのか……。

「ふふん、考えている事を当ててやろうか、地面についた足でカウンターの上に乗るな、だな?」

不正解。正解はまた変わったやつが丁度よいタイミングで来たものだ、である。

「そうかぁ、じゃあこの脚がどうして無くなったか聞きたくないか?」

別に。そういうのを聞くのは地球ではマナー違反である。

「帝国でもそうだよ。だから誰かに聞かせたいんだ!お願い言わせて!」

しょうがないので語らせる。

彼は連絡将校だったようで、空爆で脚を失ったそうだ。

「ただの空爆じゃない!レーザーだ!ジュッて音がしたら脚がとろけてた!発酵乳製品のように!」

だが彼が故郷に戻ってからの生活は不便ではなかったそうだ。

なにせ傷痍軍人はめちゃくちゃ多く、社会インフラもそれにあわせて作られているのである。

この点は米国に似ているかもしれない。

また、治療に関してはあまり重視されていないようで、

義足、義手などをつけなくても生活できるように社会設計がなされている。

傷痍軍人は身体的だけでなく精神的にも傷を負うものも多いため、

その点でも障害者には結構寛容な社会である。なおアスペルガー症候群患者で構成された軍の部隊が存在するらしいので、

やっぱり軍事国家な部分が見え隠れしているのであった、良いような悪いような。

「でも怪我か先天性かはわからないから、とりあえず敬礼しておく。しないよりはして間違えたほうが気分的にマシだし」

つまるところ、ガウラ人たちは街の身体障害者たちを傷痍軍人かと勘違いしていたのである。

ただ、別に悪口を言ってるわけでもなし、ガウラ人らがそうやって丁重に扱うので、

日本人らもそれにつられてだんだんと、ついつい、一緒になって丁重に扱うようになってきたのではないだろうか。

だとしたら、面白い勘違いであるし、集団心理の良い面が出たのかもしれない。


それと関連して、もう一つのエピソードがある。

異星人の私から見ても、見るからに知的障害者、

といったふうの子を連れた宇宙人が訪れた。

「この国では、知的障害者は違法でしょうか……?」

おそらく母親であろう、恐る恐る聞いてきた。

私は、彼女に違法でない旨を伝えた。

するとホッとした様子で、目に涙を浮かべていた。

「よかった……実は、私の国では障害者の出産は違法なんです」

出生時前の検査技術が発達し、生まれる前に障害の有無の判断、

そしてある程度の治療までできるようになったのだそう。

しかし、彼女は夫を交通事故で失い、彼が唯一残したお腹の子供は障害を持っていることが判明。

重度の知的障害はまだ治療法が確立しておらず、堕胎するしかない状況になる。

だが彼女は出産を強行すると数年の準備を経て故郷を捨て、

宇宙船内でたまたま地球の噂を耳にしてここにやってきたのだという。

「これで息子と2人で暮らせます。少なくとも逮捕はされない。こんなでも、彼の忘れ形見だから……」

2人は入国していった。彼らはおそらく日本でも苦しい立場に置かれるかもしれないが、

それでも、何も未来がない祖国よりはマシだと語っていた。

親のエゴなのかもしれないが、それでも凄まじいと言うべき覚悟だと感じた。

彼女らの未来の幸運と幸福を祈ろう。


いずれの例も障害者福祉の未来を示している。

社会そのものを変えるか、それとも元から断ってしまうのか。

その際、人権は侵害されないか?コストは?どれほどの時間が必要か、

問題の数は未知数だし、人類がいずれの選択肢を取ったとしても、

多くの矛盾や葛藤が生まれて来るはずである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ