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針の筵の馬の国


ルベリー共和国。

かつて王族を擁したが、移民に暗殺され、大の外国人嫌いになった国。

同僚、バルキン・パイの故郷である。



「ダメったらダメーっ!!」

そ、そんなに……ちょっと行ってみたいって言っただけなのに。

「絶対におすすめしないよ!後悔しても知らないからね」

バルキンがそこまで言うのだからよほどのものだろう。

「外国人が行ったら何されるかわかったものじゃないよ」

ラスちゃんも神妙な面持ちで頷く。

「そうですよ、帝国でも渡航は非推奨とされてますねん」

本当にひどいのだろう、渡航情報が常に赤い感じだろうか。

なんでも、大使館なんかも租界のようにまとまっていて壁で覆われているらしい。

よっぽどである。ますます興味深いような。

「ホント、どーーしてもって言うならさ、一つだけ約束して」


そういう訳で穴という穴全てを調べられているわけだ。

「密輸品などはないようですね」

とんでもない人権侵害だ!と言いたいところだが、

人権というものの説明から始めなければならない。

外交問題にもなりそうだが、今の地球にそれほどの影響力はない。

「ルベリーの警察はいつも君を見張っているぞ」

さっさと服を着て、入国する。

宇宙港は割りと閑散としており、何人かいる外国人、いや外星人?が

暗い表情だったり項垂れていたりしている。

「悪いことは言わないから、すぐにその出国ゲートから出ていった方がいい」

ゲソっとした表情の宇宙人が言う。

身なりから見て外交官のようだが、仕事で来ていてこれなら

とんでもない仕打ちが待ち受けていそうで、早くも後悔しそうになる。

宇宙港を出て、列車でマリディア県イガート町へと向かう。

ここを出る列車には乗客は殆どいなかった。大体が途中で乗車する。

よほど宇宙港を使う用事がないと見える。

途中乗車の客も私を見つけると露骨に嫌そうな顔をしていた。

嫌悪の目に耐えて、なんとかイガート町についた。

町とはいうが、発展度は宇宙都市らしく東京を遥かに上回る。

掃除は行き届いていて綺麗である、本当にゴミ一つない。

摩天楼が立ち並び、どこまで続いているか先も見えないほどで、

大勢の人々でごった返している。しかしどこか古風な雰囲気だ。

タクシー(らしき公共交通機関)もバス(同上)も中々停まってはくれないので、

目的地までは徒歩で向かわねばならない。

そうなると、通行人に囃し立てられる、往来で暴力を振るったりは流石になかったが。

「二つ足に売るものなんて置いてないけどね!」

「チッ、外国人がよ……」

「その足でどうやって立ってんだ?ああ、もちろん聞くまでもないか」

道を歩けば後ろ足で砂を掛けられるといった始末である。

覚悟はかなりしていたのだが割と心が折れそうだ。

東京を遥かに凌ぐ大都会でこれなら、田舎はどうなるのか。

いや案外田舎の方がマシなパターンかもしれない。

滲んだ涙を拭い去り、自分を民族学者と思い込むことでダメージを軽減させることに務めつつ、

メモに書かれた住所に向かう。結局、時間の余裕が無くどこに寄ることも出来なかった。


バルキンとの約束とは彼女の実家に宿泊することであった。

「お父さん、窓全部閉めて!カーテンも!」

「ああ」

ロクに挨拶ももされずに、家に入れてもらった。

「どうも、初めまして。バルキンのお友だちって聞いてるけど……」

あまり歓迎してくれている様子ではない。

「私がバルキンの母よ、こっちは父、見分けぐらいつくわよね?」

どうも、名乗りもしてくれないようで、私の名前にも興味が無いらしく聞かれなかった。

「色々ひどい目にあったでしょう?」

そりゃもうたっぷりと。

「私たちも、あなたみたいな二つ足の“ド毛唐”を泊めるのは嫌なんだけど、パイがどうしてもっていうから」

正直な方だ。正直すぎる。とてもつらい。

こいつらをして『性的に堕落している』としか言わないガウラ人は心が広すぎる。

歯に衣着せぬ民族性なのだろうか。

「今日一日だけよ、明日は清掃業者を呼んだの」

バルキンの部屋に通された、彼女の部屋に泊まるように伝えられたようだ。

「食べ物はこれ、どうぞ」

とだけ言われ、袋に入れられたパンらしき固形の食料を渡される。


はぁ。

こんなカスみたいなところは飽き飽き、一刻も早く帰りたいわ。

パンみたいなのをかじりながら何気なく、部屋を眺めていると、

きっとここはバルキンの部屋だったのだろう、荷物はそのままにしてある。

キラキラ光る時計か羅針盤のようなものや、何か虹色に光ってるパソコンらしき電子機器、

なんか、大きなちん……おそらく何らかを模したと思わしきアレが置いてある。しまっとけ!

ベッドもある、これは人類のとは大きく変わらない。

そうしていると、テーブルの上に一冊の日記を見つけた。

彼女には悪いが、辞書を片手に読んでみよう。

……どうも読み進めてみると、殆どは異性との乱痴気騒ぎばかりが書かれていたが、意外な事実がわかった。

彼女の妹、レイは海外、それも宇宙に対する憧憬を抱いていたようだ。

幼い頃から病院のベッドを出られなかったのもあるのかもしれない。

彼女は、レイの影響を強く受けている、初めて会った時彼女が言った通りに。


翌朝、意外にもご両親は朝食を用意してくれた。

食卓にまで誘ってくれた、一体何の心変わりだろうか。

「いい加減、彼女には帰るように言ってください。いつまでも化外の地にいてもしょうがないでしょうに」

「うん」

人の星をして化外の地とは随分な言い様である。まあ田舎ではあるが。

全然関係ないけど親父さんは寡黙な方である。

一応伝えてはみる、と軽く流しておいて、食事を口に入れる。

野菜の美味しさが口の中に染み渡る。

「美味しい?そう……宇宙人にもこの良さがわかるのね」

彼女はニコリと口元をゆるめた。

ほんの少し、小さな半歩分だけ距離が縮まったような気がした。


さて、嫌な部分はすっ飛ばし、地球、宇宙港。

「おかえりなさい先輩、どうでしたって聞くまでもなさそうですね」

「だから言ったのに」

ラスとバルキンのお出迎えである。だってあんなにひどいとは思わなかったし……。

そういえばこれを持って帰ってきた。

「あ!あたしの日記!読んだ!?」

まあそれなりには。

「は、恥ずかし~~~~!!なんで読んじゃったのもう!!」

本当に、殆どが恥ずかしい内容だったけどね……。

しかしながら、非常に排他的な国であった、彼女からは想像もできない。

彼女は、きっとそんな国が嫌になり、レイの遺志も継ぎ、故郷を飛び出したのだろう。

そういった故郷の息苦しさは私にはあまりわからないが、あれほどの国であれば、

相当なものを感じるのではないかと推測できる。

バルキン・パイの両親は、今も彼女の帰りを待ち続けているが、

彼女があの場所に戻る日は来るのだろうか。

「えっ!?なに!?急に抱きついて!まさか、ついにあたしの愛が伝わっちゃった!?」

「げぇー!そういうの気持ち悪いですねん!」

ラスの星にもそういったものがありそうな感じ。まあどこにだってある、日本にも。

「あー、今度あたしも帰ろっかな~」

……思い過ごしであったようだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何故バルキンの故郷がこんなに宇宙人に対して排他的になってしまったのかはちょっと気になるかも しかし危険だって言われても単独渡航とか度胸がありすぎる
[良い点] なんていうか精神が強いな すべての穴を調べられるとか… [気になる点] というか歴史的に正しい反応だなぁ…
[一言] 今の情勢の日本でさえ、ここまで酷くない!と、思う。
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