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帰郷

故郷というものはやはり素晴らしいものだ。物置の整理の手伝いをさせられなければなお良い。


いつもの通り出勤すると、突然帝国郵船から宇宙港の一時的な休業を言い渡された事が判明した。

なんでも、宇宙船に故障が見られ(それも大量に)、その点検と運行管理の見直しなどが数日間で行われるとか。

不測の事態には急でも時間を取るのは流石だとは思ったが、

その故障と言うのが大量に出るほどのオンボロ船を使うのは御免被る、それほど僻地なのだろうか、太陽系は。

メロードが「よくある事だ」とため息交じりに教えてくれた。

彼らという種族は今ある物を長く使い過ぎるため、本来なら骨董市にでも並んでいるはずの物が現役で使われていたりするそうな、

それも伝統など儀礼的な意味なども一切なく、ただ勿体無いというだけで。

俄然興味が湧いてきた私は、ぜひ一度行ってみたいものだ、とこぼすと彼は「連れて行きたいのはやまやまだが、宇宙船が動かないからね」と残念そうに言った。

折角の休みというのに、宇宙人らは故郷に帰れないのだから気の毒だ、それに地球に取り残された人々も(無論帝国郵船による補償は受けるのだが)。

私は実家に一度帰ろうと思っていたので、それならば、と彼を誘ってみると「本当に!」と快諾してくれた。


荷物を纏めて待ち合わせ場所に赴くと、まさに日本の若者、といった服装の彼が立っていた。

尻尾がジーンズから飛び出している、なんと買った店でお尻の部分に切り目を入れてもらったのだという。

この季節でも毛皮があるから寒くはないのだろう、半袖のTシャツを着ていた。

それから、近くの空港から飛行機に乗って一時間半ほど、そこからまたバスで一時間。

その間は注目を浴びっぱなしだった、田舎だから宇宙人は珍しいのだろう(銀河規模で見るなら地球全土が田舎だが)。

家に着く頃には昼前になっていた。

家に上がると母が「あれ、帰って来たの」と素っ頓狂な声を上げる。

「ちょうどよかった、今物置の片づけをしててね」と続けようとしたところに、隣の宇宙人に気が付いた。

メロードが「どうも初めまして、私はガウラ帝国から来ました、メロードとお呼びください」と恭しく一礼をすると、母は驚いて奥にすっ飛んでいった。

連絡もしなかったしまあ当然の反応か、と私は彼を自室へと案内する。

荷物を降ろして居間に入るといつの間にか父、母、祖母、兄、嫂と家族が勢揃いしていた。

父が緊張した面持ちで口を開く。

「ようこそおいで下さいました」

私とメロードは呆気に取られた、こいつは何を言っているのだろうか。

一体どうしたのか、と私が尋ねるも何やら恐れているような怯えたような雰囲気である。

父を廊下に連れて話を何事か聞いてみるに、どうも私たちが思っている宇宙人の印象と違ったことがよく報道されているのだそうな。

私はさっくりと誤解を解き、テレビ新聞を鵜呑みにするな、とよく言い聞かせる。

ひと悶着も落ち着き、「そうだ、片付けの途中だった」と母が言ったところ「なら私も手伝いましょうか」とメロードが言い始めた。

彼の表情と尻尾からかなり興味がありそうな雰囲気が見て取れる。

母も「じゃあお願いしようかな」とさっきまでの怯えたような表情が嘘のようだ。

兄はまだ微妙な表情をしていたが、嫂の方は尻尾に目をやっていて、「触らせてもらえないかな」とつぶやく。

私が、親しい間柄じゃないと触らせてくれないよ、と言うとちょっと残念そうにしていた。


さて、物置からは古い物がわんさかと出てくる。思い出の品々だが、ガラクタも多い。

ただ、中には大昔の漫画だのよくわからない色の花瓶だの菊花紋章が銘打たれた金杯だの、捨てるのには少々憚られるものもあった。

母はどんどん捨てようとしているが、父の方は未練がましい事を言ってなかなかゴミに出したがらない。

兄はというと自身と私の小学生時代の絵だの工作だのを見つけてはそればかり見ている。

メロードの方は、祖母にこれは何だこれはどうだと質問していて、祖母の方も丁寧に答えている。

「ちょうどいい時に帰って来てくれて助かった」と嫂は言った、確かにこれは片付けが進まなそうだ。

さっさと片付けよう、と置かれている段ボールを抱えようとすると、

「それはまだ中身を確認してないんだ」と父が言い「いいよ、さっさと向こうに置いてきて」と母が言う。

そうして、父が確認した後、捨てる分として分けておこうとすると、今度はメロードが、

「これはまだ使えそうだし、捨てるんなら貰ってもいいかな」と言い出した。

そういえば彼らも勿体無いオバケだったなぁしかも日本人よりも重症の、ということが思い出される。

母が「どんどん持って行っていいわよ」と答えるとより一層尻尾を揺らして「ありがとうございます!」とゴソゴソ漁り始めた。

こういう物は宇宙で売りさばいたり出来ないのか、と彼に聞いてみると「未開人のガラクタとして買い叩かれるだけだから諦めた方がいい」と言った。

それよりも私が家で使う、とフンフン鼻息を鳴らしながら不用品から欲しい物を物色している。

私は、グダグダと中々先に進まない片付け作業を眺めながら、ああ、大変な時に帰ってきちゃったなぁもう、と溜め息を吐いた。

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