禿山の熱帯夜
温暖化などの環境問題を解決出来るのなら万々歳だろう。
しかしながら手っ取り早い道というのはいつも裏があるものである。
ところで、地球温暖化、今風に言えば惑星温暖化、
これを知らない人はあまりいないだろう。
大気中に温室効果ガスが充満することにより
地上から宇宙に放出されるはずの熱を吸収してしまい、
惑星全体の気温を上昇させ気候を急激、大幅に変動させてしまうことである。
異常気象、大規模な自然災害を誘発することもあるこの現象は、
当然宇宙においても問題視されていることである。
なお、惑星全体が寒冷地かつ農地なガウラ帝国には関係がない話である。
対策は大きく分けて、温室効果ガスを減らす、惑星を冷やす、緑地を増やす、
これらの3つのアプローチからなる。
1つ目に通じているのはミユ社であった。
彼らの母星はかなり工業化が進んでおり、
なおかつ、元から自然は少ない惑星でもあった。
未だに新発見のものが見つかるほどそこら中に存在する鉱脈からの自然由来の鉱毒と
その金属を利用するために太古の昔から存在する製錬所の排液が流れる川や
風が吹けば砂塵が舞う極度に乾燥した大気は
我々のよく知る青々と茂った植物の生育には適さない環境であった。
ミユ社の人々、フォリポート人やこの星の生物、砂漠に生える植物たちは
元々過酷な環境で生まれたので大気汚染は案外平気であったが、
発展によってついに大気中の二酸化炭素の量が
数少ない植物たちの消費量を超えてしまい
惑星温暖化が始まってしまったのだ。
そこでミユ社は二酸化炭素を消費し、
コクのあるエスニックな調味料を生成する装置を作ったのである。は?
なんでも、この惑星のとある金属と大量の炭酸を結合させると
スパイシーないい感じの粉末になるのだという。は?
「意味がわからないって顔してますねぇ!」
以上はミユ社の炭酸スパイスの営業マンの説明だ。
「お気持ち、わかりますよ。私にもなんのことだかさっぱり」
私はさぞ狐につままれたような表情をしていることだろう。
しかしこれでも結果として、温暖化は解消された。
この調味料が銀河中で大ヒットしたからである。
無論、ミユ社広報部の暗躍があっての大ヒットだが……。
ちなみにこの調味料、地球人が食べるとお腹を壊すので注意。
2つ目、惑星を無理やり冷やした国がかつて存在した。
いわばテラフォーミング技術であるのだが、
この国は今現在存在しない。
惑星内部のいじくったり、大気中に大量に冷却物質を投入したおかげで
急激に寒冷化が進み、飢餓により絶滅したのだ。
確かに、温暖化は完全に解決したようである。
この惑星の顛末については
ほぼ全ての星間国家のテラフォーミングの教科書に載っているという。
3つ目だが、これを格安でやってくれるという業者が今目の前にいる。
植物型人種のようで、種を売っているという。
「この種はどんな環境でも発芽し、地域を緑化いたします!」
それはすごいが、値段が気になる。
種一つにつきおよそ2.5キロ平方メートルを緑化するが1つ500円だというのだ。
破格の値段だが安すぎるとちょっと気になるものだ。
「我々の星では掃いて捨てるほど手に入りますから、実質手数料みたいなものです!」
しかしながら、私は別に緑化に困ってはいないのでとっとと入国してもらった。
問題は2週間後である。これを買った国がいた。
南米や中部アフリカ、東南アジアでは森林の減少が深刻であった。
そこでこの種に飛びついたというわけだ。これを植えれば森林が回復し、
種を採取することで伐採と回復を繰り返せるとでも考えたのだろう。
しかしこの植物はとんだ食わせ者であった。
わずか5日間で地域の土壌に巨大な根を張り巡らせ、
もう5日間で栄養と水分を吸い付くし、
そしてもう5日間で大量の植物人種に変貌し、領土要求を始めた。
この種は例の植物人種の侵略種の種子だったのである。
あの営業マンはとっとと地球から出ていってしまっていた。
これは開港以来、前例のない大規模な地球侵略となった。
地球製の通常兵器が通用しない厄介な存在であり、
各国の嘆願にガウラ帝国軍が動くこととなった。
熱線投射砲やタキオン粒子投射砲で攻撃し、なんとか駆除は完了したが、
土壌の栄養の枯渇と攻撃による徹底的な破壊により、
人はともかく植物の生育はほぼ不可能な状態となってしまった。
高い代償である、これならハゲ山の方がマシだったとさえ言われている。
ともかく、地球と同じく宇宙においても、
環境問題はビジネスや謀略にはもってこいだと考えられているようだ。
つまるところ妙な回り道や裏道を探すよりも、
自力で地道に解決するのが最も確実で堅実な方法であるということなのだろうか。
特にこういった緊急性のある切実な事象こそ。




