異次元転移はただの風邪:息吹を喰らう呑龍
詳しい説明を、と言いたいところだが宇宙港で話すのもなんだということで、
私の家で話し合うこととなった。なんでだ。
「まあ、なんだか、随分とハイカラな町並みだったね」
「古い家屋がほとんどありませんでしたね」
「ま、まあ焼かれたからな……アメリカに……」
「えぇーっ!?シビル事変以降無二の大友好国であるアメリカとかい!?」
おそらくは、シベリア出兵にあたる出来事である、のか?
こっちの歴史を教えたらきっと仰天するだろうな……。
「よし、じゃあ飯は俺が作るぜ」
「あたしも手伝うよー!」
吉田とバルキンが何故か張り切っているが、そんなに居座るつもりなの君たち!
「そういえば我々も小腹が空いてきたところだよ、腹が減っては死を待つばかりだ」
「ですね!」
聞いたことあるようなないような慣用句である。
そもそも吉田は料理ができるのだろうか。
「ばっかにしてくれちゃってぇ。炒飯に、焼き飯だろ?ピラフに、リゾット、ドリアにパエリア」
お米ばっかりじゃん!
「待った待った、ライスプディングも作れるぞ!」
米騒動でも起こすつもりなのか?
「だって台所米しかないぜ」
……なんか、レトルト的なのなかったっけ。
「あったよレトルト!……クートゥリューのやつじゃん!」
いつぞや貰ったやつだ。それにしよう。
「さて本題……これ不味いね……」
「確かに……」
そうなんだよ、大して美味しくはないのよこれ……。
「まあいいや。とにかく危機的な状況なんだ。情報生命体が現れたというのは伝えたね?」
向こうの私が説明を始める。
情報生命体、向こうでは“ドンリウ”と、
呼称している存在が突如として現れたのだという。
宇宙空間を凄まじい速度で移動し星を丸ごと喰らう、
凶悪な宇宙イナゴとでも言うべき存在だ。
「ただの惑星のみならず恒星の息吹まで吸い付くしてしまう恐ろしい存在だよ」
「どこから来たのか、何のために暴れているのかも不明です」
“息吹”という表現はおそらくは“エネルギー”ということだろうか。
向こうではエネルギーが
まさしく宇宙の危機という状況だ。
「というわけなんだよ、助けてくれたまえ、私」
だがちょっと待ってほしい。我々にどうしろというのか。
「何か策はあるんだろう?」
いや、無いけど……ていうかなんでこっちにやってきたの。
「占い星人ウーラナインのお告げさ」
何その2秒で考えたみたいな宇宙人。
「こちらの次元に何らかの解決策があるとのことでした」
「そのために次元隧道を通ってやってきたのさ。次元隧道というのはだね…」
多分説明されてもちんぷんかんぷんだと思う。
「ちん……急に下品な冗談はやめてくれないか?」
ちんぷんかんぷんという言葉もないらしい。
異次元となるともう我々にはどうしようもないのだけれど。
とりあえず、こういうどうしようもない時は殿下やカガンに連絡を取ってみよう。
『よくわからんけど、専門家でも送るよ』
殿下の方は専門家を送ってくれるそうだ。
『君に呼ばれたならすぐにでも行くよ』
カガンは来てくれるらしい。
「殿下って、ガウラの殿下かい?」
「何者なんですかこっちのあなたは……」
言われてみればそうである。普通に仕事してただけなのに。
私、何かやっちゃいました?
「あ、誰か来るよ」
ボケはスルーされ、バルキンが来客の気配を感じ取った。
「どうも!来たよ!」
カガンであった、そんな急いでこなくても。
「呼ばれたからには、ね」
まあ、早いほうが助かる。しかし今日はいつもと格好が変わっている。
「よく気がついたね、ご覧よ、フォリポート伝統衣装と和服の融合、ポリコレ風に言えば文化盗用エディションさ」
地球の文化をわかっているようでわかってない宇宙人仕草。
なんだか上はアオザイ下は袴、みたいな感じでちぐはぐな服装である。
ひとしきり服を見せびらかした後、
異次元の私に気がつき、途端に目を見開いて驚いた。
「な!?き、君が、二人!?うおおおおおお!」
なんだか興奮している様子である。
「この人はいつもこうなのかい?」
怪訝な顔をするもう一人の私。
いや、まあ、いつもかなぁ、どうだろう……。
「失敬。それで、どういったご要件?」
落ち着いたらしい彼女に事情を説明した。
「なるほど、事情はわかった」
「どうにかなるもんなのか?」
吉田が問いかける、聞く限りでは到底太刀打ちできそうにないが。
「ボクたちミユ社はこういった生物を駆逐したことがあるからね」
「それは本当かい!?」
カガン曰く、一個体を捕らえて改造を施し、また群れに放り込むだけで
瞬く間に汚染が広がり、行動を阻害、停止させてしまうのだという。
「しかし捕らえるとなると大掛かりな作業になるね」
希望が見えてきたが、専用の機器とか必要なのではないか。
「まあ軍事機密だ。なにか手頃な情報生命体でも落ちていれば……」
それなら、一つ心当たりがある。
いつからか私のスマホに住み着いているあいつだ。
「素晴らしい、情報生命体の個体さえあればこの場で出来る」
「何から何まで揃ってますね!」
「すごいじゃないか!すんなりうまく行って気味が悪いくらいだよ、異次元の私」
いや全くその通りである。
「よし、それじゃあ、そっちの世界に戻ろうじゃないか!俺たちも行くぜ!」
「ゴーゴー!」
吉田とバルキンはついて行く気満々である。
まあ私も異次元に興味があるし行けるなら行ってみたいものである。
「そうだねぇ、メウロルド。どうやって戻るんだい?」
「あれ、それはあなたが知ってるはずじゃ?」
「え?」
「え?」
えぇ!?




