運命を破壊した男
諸君らはアカシックレコードなるものを知っているだろうか。
この世の全ての出来事、未来の出来事でさえも記されたものだとかなんとか。
予め起こる事が決まっているのならこんな退屈なこともあるまい、
そう思った者が宇宙にもいた。
「アカシックレコードはかつて存在したんだよっ」
ある日の休憩時間、声を荒げるは吉田である。
また誰かに変な事吹き込まれたな……。
そういった陰謀論的でオカルトなものも宇宙時代の今、
全てが満更間違いであるとも断言できなくなってしまった。
そもそもアカシックレコードとは?
「この宇宙の全ての出来事が記されていた、岩石だよ」
意外な人物から答えが聞けた、ビルガメスくんだ。
というか声久々に聞いた気がする、そんな声だったっけ?
「い、いいじゃないか声は!そう言われたら恥ずかしいなぁ」
ご、ごめん。ともかく、彼はアカシックレコードについて
なにやら知っている様子だ。
「あれを破壊したのは他ならないアヌンナキ人だからね」
「へぇ~」
そうだとすれば大層な事をやったものだ。
こういう世界の法則みたいなものを破壊したという事になる。
余程腹を据え兼ねてのことだろうか?
「いいや、アマツェ・ノ・ミカザチいう一人の男がね、我々の初期宇宙時代の話なんだけど…」
ミカザチというそのアヌンナキ人は自由を求め、
スレッジハンマーを片手に小型研究船でこの大宇宙に旅立ったのだという。
彼は起こることがもう既に決まっている、だなんてことは許せなかったようだ。
当時のアヌンナキ人の国家、アッスラユでは個人での宇宙旅行が流行の兆しを見せていた。
西暦で言うところの紀元前4000年頃の話である。
アカシックレコードの研究も当時盛んになされ、
アッスラユ学会ではどうも実在するらしい、という事を突き止めていた。
ミカザチは自由を制限されることに敏感で苛烈な性格をしていた。
アカシックレコード実在の噂を聞きつけた彼はすぐさま行動に移る。
全財産を売り払って個人宇宙船を購入し、
詰め込めるだけの物資とスレッジハンマーを持って宇宙に飛び出した。
この時の航海日誌は現存しており、アッスラユ市民はいつでも閲覧可能だ。
日誌によると、結構無茶苦茶な航海だったようであり、
アカシックレコードがどの辺りにあるのかさえも彼は知らなかった。
だが彼は辿り着いた、いくつかのブラックホールを抜け(サラッと言われたけど抜けられるのか?)、
小惑星帯にある一つの岩石を採取した。
理由は不明だが、彼はそれがアカシックレコードであると確信したようだ。
そうして、持ってきたスレッジハンマーでその岩石を叩き割り、
宇宙空間に捨てると、すぐに来た道を引き返した。
その後、変な男がアカシックレコードを破壊したと学会に押し入り、
確認してみると確かに反応が消えており、時系列的にも辻褄が合う事から、
学会はアカシックレコードは破壊されたものと結論付けた……。
「という感じの昔話だね。ホントかどうかは知らないけど航海日誌と当時の資料は残っているんだよね」
「なるほどなぁ、夢があるような無いような……」
つまるところ、この世界の未来はもはや誰にもわからないということだ。
結構な事じゃないか、そっちの方が面白いだろう。
「そうは思わない人もいて、今でも『本物の』アカシックレコードを探している団体もいるよ」
確かに未来の事が完全にわかり、それにアクセス出来れば都合が良いことだろうが。
「宇宙の運命を変えた、あるいは破壊した人物でもあるね」
「アカシックレコードは破壊される運命だったのかな」
それ自身が破壊される事まで記されているとはなんだか奇妙な感じだ。
「それはもはや誰にもわからないよ、研究もせずに壊しちゃったからね」
破壊まで規定事項だったのか、アカシックレコード自身が破壊されることを望んだのか、
もはや永久の謎になってしまった。
タイムマシンでもあれば、わかる事だろうか。
もしアカシックレコードが現存していたらどのような未来になっていただろうか?
こんな宇宙人騒ぎが起きていない地球世界もあったのかもしれない、
今となっては、ちょっと想像できないものである。




