監視、収容、及び駆除
例えば、怪異や奇妙な生物などを取り扱う組織があるとするなら、
とても夢のある話ではないだろうか!
「いいや、全然」どうして。
メロード的にはピンと来なかったようだ。
「いやだって、地球で言うなら天然痘やゴキブリを管理保管している組織みたいなものだよ」
言われてみればそうなのかな……そうなのかも……。
そんな不快害虫みたいな扱いなのか怪異……。
しかし、メロードはある施設を紹介してくれた。
「『特定生物収容委員会』というのがある」
この、特定生物というのはやたらめったら周りに危害を加えたり不気味な出来事をまき散らす生物の総称である。
生物というのが金属、機械、鉱物、情報生命体も含まれるので、
ザックリと『怪異』と言ってしまっても大きな間違いではない。
「見に行く?話のタネぐらいにはなるだろうし」
「行くー!!」と答えたのは私ではない、吉田だ!
こんなのに興味があるとは初耳である。
「いや、行ってみたいだろ実際!」行ってみたいけど……。
そういうわけで、早速休暇を取り、旅行に出かけるとしよう。
入場料が12万もした……。
「そういう危険生物を収容しているから維持費がかかるんだろうが……」
私も吉田も財布を覗いてげんなりしている。
さて、我々二人が訪れているのは『特定生物収容委員会メラネック星系クエイカ軌道ステーション支部』である。
名前が長いこの施設はピール首長国領域内に存在し、
銀河同盟のみならず旧支配者連合系の宇宙艦隊も集結しており、
この星系内での戦闘は禁止されている。
つまり、銀河系内のヤバい生物は外交関係を超えてなんとかしようというわけだ。
「委員会の設立は第二次銀河大戦の最中。とある小国の艦隊が壊滅したところから始まったらしい」
吉田がダラダラダラダラ書かれた長ったらしい委員会についての説明文を要約してくれた。
「艦隊消滅について調査した部隊が発見したのは宇宙を泳ぐ巨大なドラゴンだったんだ」
そのドラゴンの住んでいたところが、ここメラネック星系なのである。
当時の技術では両軍の手に負えるものではなかったために、
両陣営の協定によりこの生物を監視する軌道ステーションが建造された。
それが『特定生物収容委員会メラネック星系クエイカ軌道ステーション支部』なのだ。
ちなみに支部というからには他の星系にも存在しているようで、
その場からの移動、輸送が困難な特定生物を監視、保護しているらしい。
輸送可能な場合はこのクエイカ支部に持ち込まれる。
余りにも危険な生物の場合は駆除も行うとか。ただし、可能であれば。
ちなみに特定生物の条件は、
・特殊な、或いは並外れた能力、性質を持つ
・希少性、研究価値の高いにもかかわらず保護の必要性が生じている
・由来が不明な人工生物
・意思疎通、または友好関係の締結が不可能な知的生命体
といったものだ。ちょっと珍しい動物園みたいなものだろうか。
さてここからは箇条書きで解説していこう。
・宇宙ドラゴン
特定生物第一号である。
宇宙ドラゴン、と訳したが見た目はトカゲのようでもありウツボのようにも見える。
体長はおよそ1200mで、小型の宇宙船よりもでかい。
性格は温厚で他者に危害を加える事は殆ど無い。機嫌を損ねないうちは。
どういう理屈か口から強大なエネルギーを帯びた不可視光線を吐き出し、
直撃すればあらゆる物質は破壊される。
莫大なエネルギーで、何というか、事象そのものを存在できなくするとかなんとか。
よく意味がわからないが……。
魚のエラのような器官を介して暗黒物質を食べている。
知能もそれなりにあるようで、給餌用の暗黒物質生成装置を載せた宇宙船が近くを通ると、
おでこを擦り付けて催促するのだそうな。かわいい。
吉田はカッコいいと大喜びしていた。
「おいおい、ドラゴンって聞いて喜ばない男子はいないぜ!?しかもかわいさもある!」
うむうむ、その気持ちわかる。
・火の鳥
フェニックスだ。実在したんだ!?
見た目は宇宙を羽ばたく金色の怪鳥のようで、煌びやかだ。
だが、よく見ると顔は嘴のついた蛾っぽくもある。ちょっとキモイ。
宇宙に浮かぶ塵や微惑星を丸呑みにするのが食事らしい。
体長もまあまあデカい、40mぐらいある。
凄まじくしぶとく、良くないタイプの威光、悪性思念を放っている為、
近くに存在する生命に不幸をまき散らす害獣である。
生き血を飲むと寿命が延びる上に不幸になる。嫌すぎる……。
色々試したがマジで死なないらしい。
先述のドラゴンの光線でも死ななかったそうだ。どうなってるのか。
特殊な遮光ガラス越しにしか観察してはならないし、
そのガラスもひと月で腐食するために2週間に一回は取り替えなくてはならないという
なんとも金がかかる特定生物なのだ。
腐食の原因は不明、恐らく悪性思念のせいでガラスが不幸になっている為とされている。
「あまり長く見ていたくはないな……」
全く同じ意見だ。
・ラノレトウ人
アレッ!?お前っ!
「私は危害を加えるつもりはない!ここから出してくれ!」
……この特定生物はラノレトウ人。
彼ら固有の独善的な思想を持ち、奇襲戦争、第三国への戦争に介入、
居住惑星への侵攻と宇宙航行者の大量殺戮、
銀河国際法の違反など、様々な悪行を繰り返し、
遂に意思疎通可能な知的生命体とは見做されなくなったのが特徴。
強力な光線を射出できる体質で、身体も巨大な戦闘民族だが、
自分の意志では善を為すための衝動をコントロールできない……。
見つけ次第駆除するしかないのが残念だ。一度地球にも来ているよね。
ちなみに、思想自体はそう捨てたものでもない、弱者の救済や人権、環境保護を訴えている。
問題はそれらの為ならあらゆる事情や法規を無視、手段を選ばない点である。
「傍から見ればっていうか、もろテロリストなんだけど……」
「そういう解釈も可能だろう。だがラノレトウの曾祖父が許してくれたという事だ」
誰だよ。そいつが許してくれたからなんなのか……。
「マジであんたたち、我が身を振り返った方がいいんじゃないか?」
「我々は正義の味方のつもりだ、どんなに阻まれても生き返る。これからも正義を為すつもりだ」
出所はまだまだ先のようだ。
彼らの母星は特定生物収容委員会を中心とした多国籍軍によって占領されており、
それらから逃れた潜伏ラノレトウ人は銀河中にいるらしい。
この間の地球に来たやつはメギロメギアに飛ばされて……結局どうなったのだろうか?
・服だけ溶かすアメーバ
えぇ……なんでこんなのがいるの……。
気温35度、湿度12%以下で活発化する原生生物である。
とある乾燥型惑星で発見され、最初に惑星に降り立った調査隊が知らず知らずのうちに持ち帰り、
惑星の全ての住人が全裸にさせられたという事件が有名なんだとか。
かなりの悪食で、繊維状の物は何でも食べる。ので厳密には服だけを溶かすわけではない。
植物繊維だろうが動物繊維だろうが鉱物繊維、化学繊維までも、
分解できないものは殆ど存在しない。ただし、繊維状の物に限る。
地球の生物とは体の作りが違うようで、分解の仕組みはさっぱりわからなかったが、
とにかく、直径2mm以下の繊維状の物質は何でも食べて増殖するとか。
その悪食っぷりを利用しようと研究が続けられている。
あらゆる分野に応用できそうだ、ゴミ処理問題や軍事面、スケベな用途にまで……。
ちなみにお土産として持ち帰ることが出来る。いらね~~!
「いやいる……いや、いらない……?」
目を覚ませ吉田!
・異次元怪獣
無人の惑星上にて突如観測されたワームホールからひょっこり出てきた巨大なウサギ。
……というのは日本人にはそう見えるという話で、
ガウラ人には鳥、エウケストラナ人にはムカデみたいな虫、
クートゥリュー人にはエビに似た甲殻類に見えるとか。
見る種族によって見え方が変わる思念生物、情報生命体である。
起源も不明、性質も不明、異次元の生物ではないかとされている。
危険性は今のところ低く、撫でようとしたピール人をテレポートさせ、
付近の惑星の岩石の中にめり込ませた、という話が残っている程度だ。
ピール人にはふっくらした哺乳類に見えたらしい。
幸い誘導には素直に従うらしく、何を考えているかはわからないし、
処分のやり方も不明、やる意味もあまりない、という事でこの施設に収容された。
情報生命体の癖に香辛料の匂いが大好物。
だが食事を取るわけでもなく、ただ単にふわふわと浮いているだけだ。
かわいい。吉田触ってみて。
「なんてこと言うんだ!嫌だよ!」
そりゃそーか。
他にも、殆どの環境条件で何をやっても絶命する絶滅危惧爬虫類や、
監視していると照れ隠しなのか首をへし折りにくる不気味な人形など、
様々な怪異が展示されていたのだが割愛させていただく。
吉田も私も大はしゃぎであった!12万円の価値はあったと言えよう。
「すっかり楽しんだな」
ところで吉田、その手に持っているものはなんだい?
「これ?これは、お土産だけど……」
どう見ても例のアメーバである。やましい事考えるのはよせっ。
「ち、違う!これはその……あっ!環境問題とかその辺を解決するために持ち帰るんだ!」
まあ持ち帰るのは個人の自由だけど、多分検疫通らないよ。
「あっ……そうか……そうだった……」
宇宙港職員が変な細菌を持ち帰るなんてあってはならない事なんだ。
「そうだなぁ、どっかの職員は変な増殖する病原菌を持って帰って来たらしいし」
……そう、二度と!あってはならない事なんだ!




