ナンセンス、ライセンス
地球上の国々でも、交通の発達に差異があるように、
銀河諸国においても様々だ。
メロードは自動車学校に行っているらしい。
元軍人だから自動車の運転ぐらいできるとは思うのだが……。
「操縦が全然違うからなぁ……」
それもそうか。彼はガウラ帝国にてのみ使える免許をいくつか持っている。
小型自動車、小型装軌自動車、軽装甲車、軽装軌装甲車、小型自動二輪、
側車付自動二輪、小型自動三輪、軽飛行機、軽戦闘機、浮揚艇、小型宇宙艇と……いくつかか?これが?
しかしこれでも軍人の中では少ない方らしい。
「超能力部隊でならこれは最低限のものだ」
嘘でしょ……エリート部隊じゃん……知ってるけど。
しかしながら、帝国の免許制度が細分化し過ぎなところもある。
そのくせ軍用車以外は大した車を作っていないのだから、
この制度が足枷になっているのではないだろうか。
純帝国製の自動車は殆ど日本に入って来ていないのであるが、この制度のせいである。
日本で例えるなら、軽自動車と普通自動車を運転するのにそれぞれ専用の免許を取る必要がある、
といったところだろうか。かなり不便である。
「まあ試験自体は日本のよりも簡単だし」
それはそれで問題だろう……。
帝国の交通事情というのが鉄道が主であるため、軍用車両以外は割と軽視されがちなのだろうか。
そもそも帝国主星の道路はアスファルトなどという便利なもので舗装されていない、
多くの場合が古代から使われてきた石畳である。
更に、一年中雪で覆われている地域では舗装は不可能か無意味に終わる事も多く、
雪の中から柵と標識がニョキニョキ生えている光景が散見される。
極めつけに、鉄道網が惑星の末端にまで張り巡らされている為、
自家用車に乗る必要が殆ど無いのである。
更に海の大半は常に流氷が流れており、海上交通はてんでダメである。
が、砕氷船については地球製より遥かに優れている。
あくまでそれらは主星エレバンでの事情である点を留意せねばなるまい。
第二惑星以降の植民地においては、まだ末端まで交通網が敷かれておらず、
自家用車に頼る地域も存在する。
そして大抵の場合は軍用車両のお下がりであるのだ。
ではルベリー共和国ではどうだろうか。
馬だからって徒歩だったりしないよね?
「自動車はつい最近に現れたものだからねぇ~」
十数年前までは金持ちの為の物で、それまではやはり徒歩だったそうだ。
馬車というか、人?力車は今でも割と主要な交通手段である。
種族の特性が長距離移動に向いている為だろう。
彼らは移民は嫌いだが、旅や旅人は嫌いではないそうだ。
「でも飛行機や馬車鉄道はあるよ!」
馬車鉄道もルベリーだとほぼ人力車じゃん!
馬車鉄道というのは、馬車をレールの上に乗せたものといえばわかりやすい。
というわけで貨物自動車の代わりに、鞄などの個人用の運搬道具が発達したようで、
軽量で頑丈、大容量なものが多く、銀河の中でも高品質な部類に入る。
特に、"ヤヤオモバ"という名の陸生の大型有肺類から取れる分泌物を
セメントコンクリートと混ぜた素材は加工が容易で軽量かつ
あらゆる腐食と放射線を含んだ毒物を遮断する。
これは莫大な埋蔵量の放射性鉱物を擁し、
南北12000kmに連なる“ユカタケ山脈”を踏破するために開発された。
この素材で作られた旅行鞄は各国の軍隊にも納入されており、
ルベリー共和国の主要な輸出産業の一つとなっている。
閑話休題。ともかく、交通網、特に自家用車はあまり発達していない。
他にも、ミユさんとこに聞いてみたりもしたが、
砂漠に特化していたりと、多種多様な事情があるようだ。
地球にて販売される他の星の乗用車は事前に地球仕様に改造する必要がある。
そういうわけであるので、国際免許などというものは存在しない。
一応作ろうとした形跡として『銀河乗用車免許協会』という組織がある。
あるだけで、会員は誰もいない。もう、解体しろ!
会員がいないので解体できないのである……いいだろ勝手に解体すれば!?
なんでも、道路事情やら免許制度の違いやら利権やらなんやらで揉めに揉め、
結局すべての加盟国が脱退してしまったらしい。
さて、およそ二か月後、メロードは無事に自動車学校を卒業した。
さあ試験に合格すれば免許取得だ!というところで躓いている。
「この問題作った人、性格が悪いよ」
ジトッとした目つきで学科試験の過去問集を睨んでいる。私もそう思う。
この試験の意地の悪さはいずれかの乗用車の免許を持つ人なら誰もが知っていることだろう。
「どうしてこんな意地悪をするのかな……意味があるとも思えない」
まあ難しくしすぎるのも問題だし、簡単すぎてもダメだし、となると
自ずと頭を捻らなくてはならない嫌な問題ばかりになってしまうのではなかろうか。
尤も、捻られているのは問題作者の性格だろうが。
こういった日本の免許制度も銀河を彩る多様性の一つである。嫌な多様性だ……。




