私だらけ!
奇妙な風土病には気を付けよう、特に不慣れな土地を訪れたのならば。
はてさて今度はどんなトラブルが起きますやら。
という感じで今入院している。
休暇を利用して異星旅行に出かけた際に、アメーバ状の寄生生命体に取りつかれてしまったのである。
どえらい事だとすぐに現地の病院に向かい、
保険という制度がそもそも存在しないという事で帝国の大使館に泣きつき、
なんとか支払いを立て替えてもらって、検査は異常なし。
旅行は切り上げて地球に帰るも、体調を崩し帝国の駐屯地にある軍病院に即入院させられた。
異常あるじゃねーかチクショー!という事なのである。
「君に感染したのは一体何だろうね」
いつもの軍医や警備兵たちは感染防止の為ガスマスクと防護服でガチガチに身を固めている。
これであるので予後は芳しくないのかもしれない……短い人生であった……。
と思いきや数日経っても具合は悪化せず、むしろ元気である。
そうして精密検査の結果が出た。
「君に取りついた寄生生命体が新種だとわかった」
つまりは何もわからなかったという事である。
なんでも、私が旅行で訪れた土地に居ついていたのだが、長らく存在を無視されていたようだ。
爬虫類には取り付けないらしく、現地の爬虫類人種に認識されていなかったらしい。
「何が起こるか気になるなぁ~!また寝らんなくなっちゃう!」
マッド医者出たな……。このまま何も無いといいんだけども。
そいで翌朝、話し声で目が覚めた。
メロードたちがお見舞いに来てくれたらしく、病室の外で談笑の声が聞こえる。
私も加わろうと扉を開けると、マスクをつけたメロードとラスと、私が会話をしていた。
……アレッ!?
「えっ!?二人!?」
「どういうこっちゃ」
何故か相手の私も驚いている、いや驚きたいのはこっちの方だ!
「これは一体どういう事か」
どういう事かはこっちのセリフだ!誰だお前!
「君、いや私こそ誰だ!」
いかにも私が言いそうなセリフを!
「あの、先生呼んで来た方がいいみたいやね」
「うん」
「それって、宿主を完全に複製する寄生生物ってコト……!?」
私に聞くな。「私に聞くな」
どこからどう見ても私で、なんと服装までそっくりそのままである。
「凄い生物だな、宿主殺したりしないの?」
縁起でもないことを言う。現時点だと身体に影響はないが、
私が二人いる事の社会的な影響は少しあるだろうし、
おそらく仕事は休むことになるだろう。
「どんな感じ?」
「どんな感じも何も、私は私だ。こっちが複製なんじゃないか?」
オイオイオイ、コピーが本物に反逆しようというのか?
「ぱっと見どっちが本物なのかはわからないなぁ。付き添いの人は?」
「うーん……せやねぇ……」
「むぅ……」
ラスちゃんはともかく!ラスちゃんもだけど!メロードってば!!
「超能力で頭ん中覗いてみたらええんちゃう?」
「そうだな」
メロードは私と、コピーの私の額に手を当てた。
流石に記憶まではコピーできまい。が、しかし。
「……わからない、何から何まで完全に一緒だ。記憶までも……」
え、えー!じゃあどうやって判別するのか!?
「まあ二人とも精密検査をすればきっと違いは出てくるよ」
そうして入院が長引くことになったのだが……。
翌日、どういうわけか私が8人ぐらいに増えているのである。
私多すぎ!耐えられん!
「単為生殖なんだろうね」
「なんだろうねじゃないが」
もう無茶苦茶である。検査とかそんな悠長なことを言っている場合ではない。
「検査の結果には驚いた。何から何まで同じだ、いや、少なくとも同じに見えると言った方がいい」
ぅえーっ!?じゃあ、誰が本物で誰が偽物かわからないってことか!?
それは非常に困るのではないだろうか!?
「まあいいんじゃん?」良くはないよ!?
「そんなことより、増えた私たちはどうするんだ」
「そうだそうだ」確かに増えたままでは困る。
「そうだね、間引くか」ま、まあそれしかないが……。
「間引くといっても、誰が本物かわからないのでは」
「いいや、実のところ監視カメラに映っているからそれを確認すれば…」
と言いかけたところで、私以外の私がみんな一目散に逃げ出した。
「あーっ!本部!こちら軍病院!」
軍医はすかさず警備に通達を行った……。
「とりあえずこの駐屯地からは出られないはずだが」
「撃っていいのかしら」「まずいんじゃない、政治的に」
兵士たちの話し声が聞こえる。
撃ってもいいかもしれないが、あまりいい気分ではないだろう、少なくとも見た目は私だし。
「この寄生生物に効くものがもうすぐ届くそうだ」
軍医はそう言うが正直不安しかない。
二人で病室で待っていると、続々と私たちが縄で縛られて連れられて来た。
「やめろー!死にたくなーい!」「諦めが肝心だよ私」
私同士で慰めあっている……。
「あとは特効薬を待つだけだが……」
「待ってくれ、本物の私かどうか検査でもわからないのにどうするつもりだ?」
「そうだそうだ」「そうだぞ」
まあそれは確かにそうだ。まあ私が本物なんだが。
「監視カメラだって、全部が映っているわけじゃないだろう」
「どっかで入れ替わったかもしれない」
カメラの死角に入ることもあるだろうし、言わんとすることはわかるが。
私が本物だけどね!
「その点も特効薬が来れば解決するよ」
そこで、部屋の扉を叩く音がした。
「噂をすればだな。入れ」
扉が開くと、ガウラの軍人がデケェカナブンを抱えていた。
「軍医どの、例の物が届きましたであります」
ウワーッ!デケェカナブン!中型犬ぐらいの大きさはある!
「よく知ってるね、こいつはデケェカナブン」
なんでも、体内に対寄生生命体ウィルスを飼っているらしく、
この寄生生物の毒牙に掛かった動物やそれが増殖した個体に噛みつき体液を注入。
そして寄生生物が体内から飛び出したり、形を留めていられなくなったら、
綺麗に舐めとってしまうのだという。つまりはこの寄生体の天敵だ。
デケェカナブンは縛られた私たちを見ると目の色を変え、
羽を広げて飛んだ!キモいよー!
そして私たちに噛みつく!断末魔の悲鳴と共に溶けていく私!
地獄絵図とはこの事だ、気分の悪い光景である。
そうして全ての私を食らいつくした後、私の首筋にも噛みついた!
痛っ……くはない、噛むのが上手らしい、するとすぐ気分が悪くなり、
たまらず嘔吐すると、口からアメーバが飛び出してきた。
「げぇー、荒療治だなぁ」「気分が悪くなってきたであります」
私の吐瀉物だろうが気にせずデケェカナブンは綺麗に舐めとり、
獲物がいなくなったとわかると、その場で動かなくなった。
ありがとう!デケェカナブン!
かくして珍事は終演を迎えた。
「いやーパンデミックを起こさなくてよかったよかった」
軍医はようやくマスクを脱ぐ。
「暑くて仕方なかったよ」
しかしながらなんとなく、ひっかかるのは、きちんと全員処分できたか、という点だ。
確かに全員処理したはず……数えたわけではないが……。
「君を合わせて8人だったよね。あれ?9人だったっけ?」
ううむ……私の記憶も定かではない……。
「まあいいんじゃん?」
よくはありませんけど!?
その後の調査によると、複製体に感染能力と複製能力がないことが確認され、
もし仮に取り逃がしていたとしても大きな問題はないそうだ。
いや問題あるよ!なんだよそれ!私が大いに困るんですけど!




