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異星人食堂


例えば、西欧人ならば旨味を知らない、わかりづらいという。

同じ種族でこうであるならば、身体の構造までも違う宇宙人だとどうなるか、想像に難くはない。



宇宙港に食堂が出来た。

職員はもちろん、訪れた客も利用できる、日本を代表する料理が提供される。

なぜかランチョンミート料理もある。それは本来ならイギリスの役目であろう(アメリカの食材では?)。

となると、私のやる事は一つ、レッツ観察だ。

最近は専ら休憩時間や隙間時間を利用して食堂に訪れているのである。

「真面目に仕事しようよ……」バルキンは呆れているが……。

いや、これは私がやらねばお話しにならないのである!


一先ずは店員に人気メニューを聞いてみることにしよう。

「どれが人気、というかは、カレーが人気が無いかなぁ」

どこぞの一流レストランから(おそらくは無理矢理)連れて来られたシェフは

不思議そうな顔でそう答えた。

「だいたいこういうのってカレーが一番人気になったりするじゃない?」

まあ確かにそういうのがありがちなパターンである。

どこかで統計を取ったわけではないけど……。

「理由としては塩辛い、香辛料が臭過ぎる、あとは排泄物に似ている、かな」

くっ、誰もが思っていても言わぬことを……!

しかしながら味覚は当然違う上に味覚受容体まで違う事もあるので

さもありなん、と言ったところだろう。

例えば鳥類は辛さを感じないらしいので鳥人種なんかにはカレー不評なのだろう。

「ご馳走様!カレー、辛くてうまかったよ!」

空いた食器を鳥人種の客が下げに来た。

……辛さを感じる鳥人種がいてもおかしくはないけども!

不評の原因は香辛料だけではない。

出汁や醤油など旨味調味料がダメな場合もある。

「死んだ魚の臭いがする!」ま、まあそれは正しいが……。

つまりはイノシン酸、グルタミン酸、コハク酸などの物質である。

これらの一部、または全ての受容体を持たない種族であるならば、

おそらく地球で満足な食事を得る事はないだろう。


そういう点で見れば、まずガウラ人は味に、特に塩味に過敏である。

醤油や酢を水で薄めて使っていたりするし、カレーも薄めて食べる。

というか、ドッグフードやキャットフードを食べている人も多いと聞く。

しかし開港時点からいる古参ガウラ人はもう味に慣れてしまっているらしい。

健康的には心配であるが。

つまるところ、食べ慣れれば地球での食事も問題なく喫食できる人種である。

この慣れというもので時々困ったことになる。

触手冠動物型人種、としか形容しようのない人物が食事が終わったのに

席から立たず何やらモジモジしている。

「いや、その、味と臭いがね……」

故郷の味に似ていて、感慨に耽っていたのだろうか。

「いいや、そうじゃなくて……ね……」

なんとも言いづらそうな様子だ。

「アレですよアレ、発情期の……の臭いと味が……」

えっと、つまり我々の言うところのクリームチーズと言ったところだろうか!?

「この麺の汁、うどん?ってやつの汁がね……」

もし彼らの女性と交際する日本人男性が現れるとするならば、

その男性は幸運である……多分……。

下の話でなく舌の話がしたいんですけど!


この食事という点において地球人類は銀河でも

どちらかと言えば秀でている種族のようだ。

猫っぽい人種が担架で運ばれていくのを見かけた。

「二硫化アリルが入ってるなんて聞いてないぜーッ!」

おそらくはタマネギ中毒だろうか、

でもそんな急にぶっ倒れる病気でもなかった気がするが……。

菌類型の人種にとって納豆菌は競合相手である、

というのは、最初の頃にお話しした通りだ。

では殺菌作用のある食品だと?例えばニンニクに入ったアリシン。

身体に穴が開いたりとかなりの猛毒のようだ。

地球人類でさえも少量食べただけでも下痢を引き起こす事もあるので、

菌類人種が食べれば大事故になってしまうだろう。

なので、この食堂ではニンニクを使った料理は提供されていない。

他にはアボカドに含まれるペルシン、チョコレートに含まれるテオブロミン、

キシリトールやカフェイン、エタノールなど、

動物に与えてはならない物質は宇宙人相手でも確認を取った方がいいだろう。

逆にテトロドトキシンやシアン化物などの地球人にとっての毒物を

分解する能力を持つ種族もいる。数は少ないが。

「このサヌカイトって石、輸出してくれないかな……」

とガリガリ石を食べる鉱物人種や、

「コンセントさえあればいつでも満腹だよ」

などといった機械生命体など、

そもそもの生物としての根底から違う人種もいる。

……美味しいのだろうか?というか、何しに食堂に?


いつしか、食堂に入り浸るようになっていたのだが、

ある日、ラスちゃんが困り顔でこう言った。

「先輩、あの、お腹空いてるんですか?」

いや、そういうわけでは……。

「ウチのおやつあげますよ……」

そう言ってラスは懐からお菓子を取り出して私に譲ろうとしてくる。

これはな、ちゃうねん、食い意地が張ってるから食堂に行ってるわけでは……。

「オイオイオイ、いくら腹減ってるからって後輩からおやつ取るか、フツー」

エレクレイダーも呆れたような表情でこちらを見てくる。

「賤しいヤツめ!いつもみたく食堂に行くんだな」

いやだから違うんだってば!

かくして、私の食堂観察は終焉を迎えた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 触手冠動物調べてみた … 女の子相手でもよくね? [気になる点] 玉ねぎはやばいから仕方ないね
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