超星間アイドル
宇宙人、というか知的生命体は基本的に娯楽に飢えている。
芸能稼業的な仕事も当然存在する。
帝国にもラジオや映画があるくらいだから芸能界ぐらい存在するだろう。
俳優、声優も存在するわけだ。
しかし彼らというものをとんと見たことがない。
やっぱり多忙だからかな。
「見てみたいですよね~」
意外にもラスちゃんも見た事が無いという。
「貴族やからって会わせてもらえるわけでもないですやん」
そうなの、セレブってつるんでるイメージあるけど……。
「それは地球だけじゃないですか?」
そうなのかな……でもこないだカガンと社交パーティーに行ったし!
「……えーっ!!なんでウチも連れてってくれなかったんですかーっ!!」
余計な事を言ったかもしれない。
そうこうお喋りしているうちに宇宙船が到着した。
物々しい雰囲気の、ボディーガードらしきガウラ人らがぞろぞろとやってくる。
「何事ですか……」本当だよ!
すると、格調高そうな軍服にキラキラした装飾を付けたような、
なんともちぐはぐな服装のガウラ人が現れる。
「あ、あれは!!」
あの人知ってるの?
「ご存じないんですか!?」
ご存じないよ、地球の田舎者だし……。
「我が帝国が銀河に誇る名声優、帝国軍広報師団長にして宣伝戦の天才、連続ラジオ小説『赤い水晶と帳』の主演を務め、トップアイドル街道を駆け上がる…」
と言ってる間にもう既に目の前に来ていた。
「そう、テルバノ・ツェルです♪」
「ホンモンやーーーーっ!!!!」
ラスちゃん大興奮である。
「モノホンだーーーーっ!!!」
パイちゃんも何故かこちらに来ていて、大興奮だ。
「ホンモノじゃじゃんじゃんじゃーーーん!!」
もう一人は……えっ、誰だ今のは!?まあいいか。
このツェルさんは声優でアイドルで女優で軍人ということなのか。
「あと、後輩たちの為に事務所の調整官も兼任してやってます♪」
調整官アイドルじゃん!というダジャレはいいとして。
彼女はどうやら翻訳機をつけていないようである。
「もちろんです♪声優は言語の達人、銀河同盟諸語はもちろん日本語や英語、ハンガリー語も当然使えますよ♪」
台湾語は勉強中ですが……と付け加えた。
「古典も知ってますよ♪例えば有名どころで『ちはやぶる神のこゝろのあるゝ海に鏡を入れてかつ見つるかな』」
わからない、でもちはやぶるは聞いたことあるから小倉百人一首だろうか?
「やっぱ凄いっすね!サインちょーだい!ちょーだい!」
「あ!ウチもウチも!」
こらこら、こんなところで。
というかどっからその色紙が出てきた。
「いいですよ♪」いいんですか。
「バルキン・パイちゃんへって書いてください!」
「あ、ウチも!スワーノセ・ラスへって!」
こういうミーハーな風習はやはり地球とも大差ないのだろう。
彼女は慣れた手つきでスラスラッと、それぞれの言語でサインを書き上げた。
「無論、言語のスペシャリストは書くことにおいても同様です♪」
もう一枚白紙の色紙を受け取ると、
サラサラと草書体風のカタカナ(しかもしっかりと読める!)で、
“テルバノ・ツェル ”と書き上げ私に寄越した。
あ、ありがとうございます……。
「広報師団の宣伝動画は見た事がありますか?」
公式サイトでやってるやつか。日本語が上手いとは思っていたが。
「その通り、私が声をあてていたんですよ♪」
「あらゆるプロパガンダのデザインや構成演出を担当してさらに声も当てたりやっぱ最高や!プロやでーーー!!」
なんかラスちゃんテンションおかしくない?
「これがおかしならんでいられますか!!銀河一のトップアイドルやで!」
アイドルが政治宣伝に関わるのは、それは、いいのか……?
まあ帝国的には良いのだろうが……。
「子供ん時見たミサザ紛争の勝利演説以来大ファンなんです~~~!」
「あらあら、どうも♪」
すると彼女はラスに手招きする。
ラスが受付を出ると、ギュッと抱きしめた。
「はりゃりぁ~~~~~~~~~ッッッ!!!」
多分喜んでいるだろうが、そのまま気絶してしまいそうな勢いである。
「私も!私も!」
「はいはい♪」
続いてバルキンも抱きしめた。
「うっひょ~~~もう身体洗わない!!」
「ちゃんと洗ってくださいね♪」
「洗う!!」
ラスはというと、魂が抜けたようにその場に立ち尽くしている。
本当に気絶しちゃったかもしれない……。
でも、そんなとんでもない声優が何しに地球に来るのだろうか?
「日本の声優はレベルが高い、とある筋から聞きまして♪」
へぇ、そうなんだ。
「ご存じないのですか?」
あ、あなたもそれ言うのね……。
まあ確かに地球世界的に見れば最上位に入るだろう。
といってもレベルが高い国というのが日米中、あとは韓国ぐらいだろうが……。
「両国の文化の為に交流という形で、訪れたんですよ♪」
大変良い事だろうが、恐らくなんだけど日本の声優はそこまで、
というか帝国の声優程幅広い知識でやってるわけではないだろう。
無論、演技や語彙の知識は凄まじいだろうが。
「お互いに良い刺激になると思いますよ♪」
それでは、とボディーガードら共々入国していった。
後日、彼女は再び現れた。
「私、しばらくこの国にいます」
いつもの口調ではない、♪が聞こえないというか……。
なにやらぎらついた精悍な目つきである。
「深く、失望いたしました。この国の声優には……!」
そ、そうなんだ。思ってたほどレベルが高くなかったとかだろうか。
「その通り、演技は光るものがありましたが、知識が足りません」
ま、まあ帝国基準の知識を求めると……。
「銀河同盟の声優として、いや!天皇陛下の御前に出すには相応しくない!!」
えーっと、かのお人もそこまでは気にはなされないと思うのだけれど……。
「だから決めたのです、この国の声優を鍛え上げ、威光に見合う凄まじきものにすると……!」
なんだか勝手に一人で大盛り上がりしている様子である。
ともあれ彼ら声優たちにとっては多分……良い事、なのだろうか?
無関係な我々は静観させていただくが、
彼女の恐らく厳しいであろう苛酷な特訓からの生還を超願っておくことにしよう。
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土佐日記 とさとさとっさ 土佐日記




