スナネコの社交界
煌びやかな社交界、的なものはやはり宇宙社会にも存在する。
今回はそれに招待されてしまったのだ。
今日宇宙港を訪れたのは最近よく見るスナネコ星人ミユ・カガンである。
最近地球での仕事が忙しいのだろう。
「そうだね、コンクリートの他にも商材を探さなくてはいけないし」
結局潤うのは日本もなのであまり文句はないが、枯渇するほど使われても困るというものである。
「そこまではしないけど」
彼女は自身の服のポケットをまさぐり、またしてもチケットを取り出した。
「この招待状を君に、今度こそ、素敵な時間を過ごしてもらいたくてね」
そこまでされる謂れはないけど、貰えるものなら貰っておこう。
「私の分は?」
いつの間にかメロードがカガンの顔を覗き込んでいる。というより、睨みつけている?
「無いよ、僕たち二人の仲だからね。君とは友達じゃないし」
「え……友達じゃない……」
彼は耳と尾をシュンと垂らして持ち場に戻る。
「こ、怖かった……」
カガンも胸をなでおろす心地のようである。
なんか、仲悪いのかな二人は……。
はてさて招待状は、社交パーティーの招待状であった。
やっぱりセレブは違うなぁ!でも私はセレブでもないのに参加していいものだろうか。
出発の日までに一張羅を慌てて仕立ててもらい、宇宙船に飛び乗り半日、パーティー会場の存在するマウデン家の母星、マホジャへと到着。
移動で疲れてはいるが気合はばっちり、しかしルールとかマナーとか全然知らないのだけど。
「そこはまあ、なんとかなるさ」
カガンもいつもと違って、パリッとしたスマートな服装である。
ベトナムのアオザイにも近いが、それにトレンチコートが混ざったような感じ?の白い服装をしている。
パーティー会場は、全体的に黄色が使われているという点を除けばイメージ通りのもので既に何十人と様々な種族がいた。
黄色の絨毯に目をチカチカさせつつ見渡したところ、主に銀河同盟諸国からの参加者のようで、地球人もチラホラ見かける。
というか知ってる顔だ、山野大臣である、元、大臣だったか。
「お久しぶりです、先の件ではどうも」
例のピール首長国との外交問題の際に矢面に立ったが、かなりの譲歩をせざるを得ず、結局あの後彼は責任を取って大臣を辞めたのである。
「今はこういう、星間国家との会食に飛び回っておりますよ」
確かに、前見た時よりややふくよかな顔になっている。
「しかし、幅広い交友関係を持っておられるようで」
あなたの話はよく耳にします、とのことである。どういうこった。
「こういう事さ」
と後ろから手が伸びて来て目隠しをされた。
この声は……ひょっとしてガウラ帝国の皇太子殿下ではないだろうか?
「その通り、よく覚えててくれた、感心感心」
パッと手を離すと、目の前にあの狡ズルそうな顔をしたキツネがいる。
ん?どうやって目隠ししたまま前に移動を?
「そんな事はいいじゃないか、さあ酒でも飲んで」
その辺を歩いていた給仕からボトルとグラスをかっぱら……えなかった、回避された!
「ちぇっ、これだからな」実に不満気である。
ガウラ人はお酒に弱いので、しかも皇太子なので、きっと主催者の配慮であろう。
「あーあ、日本酒は美味かったなぁ!温泉もよかったなぁ!誰かまた連れていってはくれないかなぁ!」
まるで子供のように駄々をこね始め、山野さんも驚いた顔をしている。
「わ、私が連れて行きましょうか」
「君が行くような小綺麗なところはもう散々行ったよ」
あーでもないこーでもないと二人で揉め始める。
「今のうちに行こうか」
そうだね……とカガンと共に二人の元を後にした。
招待状に記されていた記号の立て札があるテーブルに行くと、料理が並べられていた。
いい匂いが漂ってくる、そういえば腹ペコだ。
「素敵なパーティー、錚々たる面々、極上料理、事件が起こるにゃ十分な環境ですな」
なんかサーヴァール人の人が話しかけてきた。無視していると勝手に続けて喋り出す。
「どうも、お久しぶりです、私の顔と名前、憶えていますでしょうか」
いや、私は腹ペコなので食事の邪魔をしないでいただきたいのですが……。
「ハッキリ言って私は名探偵、ヒラーク・ローイッタです、お忘れですかな、お忘れでしょうな」
ああ、いたな、そんな人……。そういえば助手もいたはずだが。
「アメリトンはお金が足りなかったので」
可哀想だろ!連れて来てやれよ!
そうこう言い合ってるとカガンが私の袖を引く。
「行こう、会場にいる間、僕のそばを離れない方がいい」
なんとも面白くなさそうな表情である、彼女に誘ってもらったのに彼女に殆ど構わなかったので当然だろう。
「まだお話は終わってないんだっつの」
知るかボケ!お腹減ってたのに!
彼女に連れられた先のテーブルにも料理は並んでおり、先客がいた。
「もう知り合いはいないよね」
多分いないはずだけど。
「おやおや、先日のマレビト様!」
いました。
「私ですよ、ヒューダーです。お荷物無事に届きましたよ」
惑星ミ=ゴ・インスマンスに漂流した時に助けてくれた部族の青年である。
しかし一体どうしてこんなところに?
「所謂一つの社会見学というものです、クートゥリュー領の人間ですが、部族は別にクートゥリューに与しているわけではありませんから」
友好関係は多ければ多いほどいいでしょう、とも付け加えた。
それで違う勢力の社交界入りとはなんとも大胆なやり方である。
「そのお召し物が日本の礼装ですか、とても美しいですね」
う、うん。そちらは……前見た時と変わらない服装である。
「我が部族はこれが普段着で正装ですからね」
腰蓑っぽいのをピラピラさせる。ちょっとドキッとしちゃうからやめろ!
「おっと、社交界では不適切な仕草でしたね」
ふと横を見ると、カガンがいなくなっていた。
周りを見渡すと、会場の出入り口に向かって歩いている。
あちゃー、他の人と話しすぎちゃったかなぁ。
会場の外まで追いかけて、ようやく捕まえた。
随分とヘソを曲げているようで、口をへの字にしている。
いや、へそを曲げている、というのは不適切だろう、私が原因なのだから。
「……いいじゃないか、素敵な友人が大勢いて。素敵じゃない友人はホテルに戻るとするよ」
そんな言い方しなくたって……。
「いいんだ、社交パーティーなんだから、君が正しいんだ、色んな人とおしゃべりして」
そっぽを向いてしょげ返っている。
しかし友人を放って一人だけ楽しんでいては、一緒に来た意味も無い。
会場に戻って、今度は二人だけで楽しもう、と言うが、首を垂れたままだ。
よしならばこうしよう、パーティーはやめだ。
「え?」
街に繰り出すとしようじゃないか、そうすれば、知った顔とも会わないだろう。
「いいの?その服だって慌てて仕立てたのに、パーティーに行かなくて」
別に社交界入りするわけでもない、雰囲気さえ知れれば十分である。
「君がそれでいいなら……」
そういうわけで、早速街に繰り出そうじゃないか。どうせだから礼装のままで!
「ふふ、それは素敵な提案だ」
マウデン家の街、一体どんなものがあるのか大いに楽しみである。
クッソつまんなかった、遊ぶところ一つもねーし。
「まあ、マウデン家の人々は真面目だからね」
ホテルに戻り、顔を見合わせると、なんだか笑いがこみ上げて来て、二人して一頻り笑った。
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と後書きに書くといいんやて!




