管理官二人旅:トカゲのマレビト信仰
諸事情により宇宙船から墜落した我々は、これまた諸事情により部族たちの村へと向かう事となった。
「マレビト様!」「マレビト様ー!」
マレビト、と翻訳されているのは一体どういうわけなのかはよくわからないが、どうやら歓迎されているとみて間違いないらしい。
「すごいですねぇ」
オリビアも興味深そうに辺りを見渡す。
この爬虫類人種の部族というのも、見るからに部族という出で立ちである。
煌びやかな装飾、腰蓑かふんどしみたいなアレ、前掛け?にそれから独特なボディーペイント、そしてベレー帽のような帽子。
こちらの感覚だと若干ベレー帽が浮いている気がするが、まあとやかく言うほどの事でもないだろう。
住居はログハウスのような木造建築で、今我々は村の中心の広場にいる。
「マレ様ー!」「マ様!」「マっちゃん!」
それだともう原形留めてないけどね。
楽器を鳴らし、歌ったり踊ったりのどんちゃん騒ぎだ。
「なんの騒ぎかね」「長老!!」
長老っぽい人も出てきた。
「いや、本当に何の騒ぎなのかね……」
なんか勝手に騒いじゃってる感じなんだけど大丈夫なのかな。
「マレビト様が来られたのです」「なんじゃと!」
長老っぽい人がこちらに向かってくる。
「よくぞお越しくださいました。どちらからおいでですかな」
それが……とこれまでの経緯を話す。
「なんと、それでは宇宙人でしたか。では宇宙語でお話しいたしましょう」
翻訳機があって会話も出来てるから別によいのだが、まあせっかくなので聞いてみよう。
「おみゃーたち、こんなところまで何よりだぎゃ。まあ気が済むまでゆっくりしていくんだの」
どこかで聞いた訛りだ、これはクートゥリューの言葉だろう。
という事は、ここは旧支配者連合の影響下にあるという事になる。
つまりは星間国家との繋がりがあり、そこに辿り着ければ帰れる可能性は高いのである。
「今日は宴での、よう楽しんでちょ」
「喋り方はもう普通で構いませんよ」
「ああ、そうでしたかお優しい」
宴を楽しんでいる場合でもないような気もするのだが、まあせっかくだから参加していこう。
「マレビト様!これどうぞ!」
しかし、なぜこれほどまで歓迎されているのかが少しわかりかねる。
「あれじゃないですか、来訪神信仰ってやつですよ」
来訪者に宿や食事を提供して歓待する風習があるのだろう、ということだ。
だとすればそれに乗っかってしまおうじゃないか。
「マレビト様、これ飲んでください!」
部族の若い男性に木のコップを手渡される、中身はなんだろう。
「一気に!グイ―ッと、いっちゃってください!」
ほんのりアルコールの臭いがするのでお酒であろう、そういう事なら一気にいくか!
グイっと一気飲みする、意外にもこれが美味、柑橘系の味だ、喉ごしも爽やか。
オリビアも飲んでるだろうか、と見てみると踊りをジィっと見ている。
「いえ……ちょっとチラチラ、アソコが見えてまして……」
こいつさてはスケベだな。どうしてもえっちな展開にしてしまおうという気か!?
それはさておき、酒があるならつまみも欲しいと思っていたところ、先程の男性が食事も持って来てくれた。
これまた木の皿に、イタチみたいな小さな動物の丸焼きとクリームシチューのような煮物が入っている。
ビジュアル的にはちょっと敬遠したいところだが……。
「おいしーですよぉ!」
とオリビアは食べちゃってるので私もいただく。
「こっちの"メベリ"に付けてお召し上がりください」
煮物の事だろう。イタチ?の肉をほぐし、言われた通りに食べる。
いける、意外にも!確かに見た通りこいつはクリームシチューに似たものだろう、ミルク系のまろやかな味がする。
「左様、これは交易で買った動物のお乳をベースに煮込んだものです」
イタチ?の肉も噛むほど旨味が染み出す、部族の見た目に反してかなりの高水準な料理だ。
「ありがとうございます、作った甲斐があるというものです!」
こんな至れり尽くせりでいいのだろうか、何か裏でもありそうな感じだが。
「もう一杯どうぞ!」
まあ、酒が美味いからいいか!もっと飲もう!
「もう、飲み過ぎたらダメですよぅ」
んむぅ……でも祝いの席だし……。
だがオリビアの言う通りだし程々にしておこう。
気が付けば、お空を見上げて寝転んでいた。
「お目覚めですかマレビト様」
先程の男性が顔を覗かせる、どうやら膝枕をしてくれていたようで……。
まあ案の定と言うべきか、オリビアに合わせる顔がない。
起き上がると、部族の人たちもみんな寝ていた。
朝早くから始めたので、まだ日は高いままである。
オリビアを探すとサバイバルキットに入っていたボードゲームみたいなので一人遊んでいた。
「うーん、ルールがわかりませんね……」遊んでなかった。
すると、私が起きた事に気が付き、こちらに寄って来た。
「大丈夫ですか?飲み過ぎないでって言ったのに」
面目ない……。
「それじゃあ、ここを出ましょうか。近くに都市があるらしいです」
「森を抜けるまでは私が案内して差し上げましょう」
荷物を持ち、村を発つ。お世話になりました。
「さあ、行きましょうか」
森の中の道を三人でトコトコ進む。村を出てしばらくしてから男性が口を開いた。
「運良く村を出られましたね」
運良くとはどういうことだろうか。
「ああやって宴を開き、油断したところを拘束して、売り飛ばしたり、慰み者にしてしまうんですよ」
「ええっ!?」
それは恐ろしい事を聞いた、間一髪だったのだろうか。
「まあ嘘ですけど」「なぁんだ」
嘘かよ!
「こうやって冗談を言ったりして他人を喜ばせる、我が部族の風習です。我々はそうやって生きてきましたから」
一種の外交戦略と言うべきものだろう、無論来訪者が富や技術をもたらしてくれるという事もあるだろうが。
「その通りです。好意を見せる人々を襲う者はいませんから」
それっぽいことやったのが目の前にいるけどね、イギリス人って言うんだけど。
「あ、あははは……」
「クートゥリューも同じでしたね、彼らは突然現れましたが、危害を加える事はありませんでした」
あの、戦争を二度も起こした国としては意外である。
そうこう話をしているうちに森の出口が見えてきた。
「さぁ、もうすぐですよ。それと」
彼は肩にかけていたポーチから紙を取り出す。
「私たちの村の住所です、是非ともあなた方の故郷の特産品を送ってください」
なるほどなるほど、宴の代金という事か!よくできた風習である。
「もちろん!スコーンと紅茶も送りますね!」
食べ物は大丈夫なのかどうかはわからないが、私も是非とも送らせてもらう事としよう。
そういえば、彼の名前を聞いていなかった。
「私の名前はマゲタマ・パゲー・ヘモナ・モホーホホ・フンダバ・シッチャ・メッカ・アマオア・アケス…」
長い長い。
「冗談です。私はヒューダー、でもどうして私の名を?」
まあ一番お世話になったみたいだし、荷物を送るなら宛名があった方がいいだろう、いいよね?
「そうですね。ヒューダーさん、ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ。マレビト様方、達者で!」
広大な平原を貫いて都市に向かって続く一本道を二人で歩み始めた。




