それはさておき:想いは六千万
「バッ……………バルキンッッッ!!」
新聞の紙面には彼らの見知った人物、馬物の顔、馬面が掲載されていた。
「なっ……なんで……………」
容疑は住居不法侵入であり、宇宙人犯罪という事で大きく取り上げられている。
示談金は6000万円という記述もあった。
「確か『クリスマスは童貞漁りでもするわw』とか言ってたで……!」
「あいつ……」
それはさておき、宇宙港の警備員メロードは休日にファミレスに来ていた。
「かなり久しぶりだな。メロード、6000万年ぶりか」
彼の友人、ヴィン・マシーフと共に。
「かもな。君も日本に来ていたのか」
「ああ、パレスチナの件でな。平定してからは日本に駐屯してる」
彼らは軍隊時代の友人であり、同じ部隊に所属していた。
メロードが軍をやめた後、マシーフは第3強襲師団としてパレスチナ攻略の為地球に降り立ったのだ。
「と言っても後方支援、機関砲砲手だがな」
「君の腕は超一流だ」
実に地球時間でおよそ3年、ガウラの暦だと約4年ぶりの再会である。
「それで、何か悩み事でもありそうだな君」
メロードは運ばれてきた牛乳を口に含みながら言った。
「まあ、な」
「言ってみなよ」
マシーフはズボンのポケットから小箱を取り出し、テーブルの上に置く。
「そう、君には日本人の恋人がいるだろう、ちょっと噂で聞いてな」
「恋人……まあ恋人という事になる」
「実はな……」
彼は懐から一枚の写真を取り出す。
それには、日本人女性の顔が写っていた。
「かえで、というんだ」
「なるほど……」
先達たるメロードに、彼女とより仲良くなるには、という事の相談であった。
「し、しかしなぁ……」
「ちょっとしたことでもいいんだ」
メロードは頭を抱える、彼はむしろ相手から言い寄られた側である。
もちろん、会話したり出掛けたりはしたのではあるが。
「そうだな……どこかに一緒に出掛けたり、とか」
「当然行ったとも」
マシーフは彼女との思い出を語る。
有名な観光地から、なんでもない辺鄙な田舎まで、彼らは様々なところへと観光に行ったようだ。
「私たちより、色々行ってるんだな……」
「ああ、6000万ドルの夜景も見に行った」
「そんなのあったかな……」
メロードは記憶を呼び起こし、日本人はどういった恋愛観か、どのようなものを好むか、と色々と探る。
そしてその中から無難なものを一つ挙げた。
「何か、プレゼントしてみれば、ほら、クリスマス?っていうじゃないか」
「キリスト教の祭事だから、神道の日本人には関係ないと思うんだが……」
「不思議だよなぁ」
二人して首を傾げる。
「それで、アクセサリーとかいいんじゃないか、日本人女性は」
「だがアクセサリーはあまり喜ばれないとインターネットで見た」
「本当かい」
「……もう準備してしまったんだ。『命の星』鉱石がはめられた指輪なんだが。6000万はしたが無駄になってしまったな……」
マシーフが懐から小箱を取り出し、開いた。中にあったのは黄緑色に輝く宝石がはめ込まれた指輪である。
『命の星』というのは銀河でも高価な鉱物で、誰もが羨む宝石でありながら、光線兵器に使用される戦略資源でもある。
「こんなに綺麗なのに残念だな……」
「見た者を虜にする、これしかないと思ったんだが……」
はぁ、と溜め息を吐き、うつむいた。メロードの方もぼんやりと中空を見つめ、思案に暮れている。
「やはりアクセサリーは女性の得意分野だ。我々の得意分野で攻めよう」
メロードが思案の旅から戻ってきた。
「それもそうだ、俺たちの得意分野か……」
「農業とか」
「いいや、彼女は農業はやらない。確か、アパレルショップの店員とか言ってたな……」
「アパレル……って?」
「簡単に言えば服屋だな。出会ったのもそこだ、普段着を買おうとしてな」
「そうか、それじゃ」
「それで、気に入った服があったんだが女性用だって話でな」
メロードの返事を遮り、続ける。
「ちょっと無理言って、色々と仕立ててもらったんだよ。その時に対応してくれたのが彼女だった。日本で初めて親切にしてもらった……」
「ま、まぁそれは後でゆっくり聞かせてもらうよ……じゃあアクセサリーなんて初めから無理な話だったじゃないか」
「そう言うなよ、これは返品するさ」
マシーフは頭を掻き、小箱の蓋を閉める。
「じゃあどうしようか……服、は尚更ダメだな……」
「我が国のお菓子とか食べ物は」
「いや、彼女はお菓子も得意なんだ……あのプリン?とかいう甘いお菓子は絶品だった……一緒に作ったりもしたんだぞ」
「そう……」
この時メロードは内心、ちょっと悔しい気分であった。そこまで一緒にしたことない!
「いや、それはともかくお菓子はダメだ。料理だって、味覚に合うはずがない。味噌汁を飲んだことがあるか?」
「それもそう……だとすれば我々は軍人だから、そこはどうかな」
「軍事か……俺は機関砲手だから……機関砲、そうだ、機関砲がいい!」
バッと立ち上がり、顔を輝かせる。
しかしメロードは呆れたようなふうに、こう言った。
「……機関砲を貰って嬉しいか?」
「うれしい!」
「だよな!」
急ぎ、二人は支払いを済ませると、駐屯地の倉庫へと向かう。
数日後、マシーフはかの人物であるかえでの住居に訪れていた。
「渡したいものがあるって!?クリスマスは別によかったのに」
「ちょっと気が変わってな……ちょっと大きい荷物だが」
人一人の大きさぐらいはある荷物を部屋に持ち運ぶ。
「でっか!なにこれ!?」
「喜んでもらえるか不安だけど……いや、俺は今まで6000万発の砲弾を撃った超ベテランだ、こんな事で臆したりはしない」
「開けてみてもいい!?」
「もちろんいいとも」
かえでは包装紙を丁寧に剥がし、その中の物を見ると目を丸くして驚愕した。
「えっ、これって……?」
「ガウラ帝国製の22cm対人機関砲だ」
「機関砲……」
「どう、かな……発射機構は潰したから実射は出来ないけど……」
かえではその場で呆然と座り込む。
「私の事を考えてくれたんだよね」
「ま、まあ、そういうことになる」
「一生懸命、考えてこれ?」
「そう、だけど、気に入らなかったかな……」
彼女は立ち上がり、その勢いでマシーフに抱き着いた。
「6000万かえでポインツ……!」
かえでさんは変わったご趣味をお持ちでいたのである。
よかったよかった!




