表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/171

触腕を差し伸べて

宇宙人が地球へと入ってくるように、地球人が宇宙へと向かう事も少なからずあった。

半分ぐらいは研究者で、あとは観光客、政治家、そして良からぬことを企む連中である。


私はその日もいつも通りに仕事を行っていたが、なんとも鬱屈した気分である。

日本に宇宙人が増える事について、抗議の声が上がっていたのだ。

朝、出勤した時に遠くからデモ隊が騒いでいるのが見えた。

好き勝手言ってくれるものだ、そもそも、開国を拒絶すればどうなるかわからなかった、というのは彼らも知っているはずだというのに。

『宇宙の犯罪者が入ってきたらどうする』とかプラカードを掲げているが、未だに警視庁発表でも宇宙人の犯罪率(大半が例の密輸学者)より外国人の犯罪率の方が高いではないか。

日本の治安を考えるなら宇宙港を閉じるより外国との交流を閉じた方が良い。

そもそも我らが桜田門組よりも宇宙の警察組織の方が技術も優れているのだから、

人員が神奈川県警みたいなのばかりでもない限り未然に排除されるだろう、取り逃がす事もあるかもしれないが。

そんな事を考えて浮かない顔をしていたのではまた客に心配されてしまうので、気持ちを切り替えて仕事に集中していた。


ベニテングダケ型人種の女性の長ったらしい話も終わり、ようやく次の人の番が回って来た。

だがその触手型人種の男性はどうも様子がおかしく、書類を渡す際にも何やらビクビクとしている様子であった。

そしてもう一つ、資料を見ながら気が付いたのが、この人種の成人男性に見られる刺胞が見られなかった。

親御さんと一緒ですか、と問いかけたが彼は黙っている。そして一枚の紙を私に差し出した。

『無理矢理連れて来られた、私の後ろの人間を逮捕してくれ』と、そう書かれている。

私は、良い旅を、とだけ答えると入国許可の判子を押し彼に書類を返した。

彼は心配そうな雰囲気で歩いて行く。そして私は次の客を通した。

「やあ、ただいま」と言う彼は地球人類の男であった。パスポートには金色の鷲が誇らしげに輝いている。

珍しいですね、あなたの国ならビギン・ヒル宇宙港(イギリス側の宇宙港)の方が近いのでは、と言うと、

「いや、日本にいい仕事があったのさ」と彼は答えた。

ほう、どんな仕事ですか、と問いかけたが「それより早く判子を押してくれ」と急かされる。

「見たらわかるだろ、急いでるんだ早くしてくれ、判子押すだけだろ」とかなりイライラしたご様子だ。

私は考える時間を稼いでいた。あの触手の彼の話を鵜呑みするわけにはいかないが、

かと言ってこの人物にやましい事が何も無い、とも到底思えない(これは私の勘なので根拠はないが)。

しばらく悩んだ後、私は、だとするとここに来るべきじゃありませんでしたね、と言い放ち、警備員呼び出しのボタンを押した。

男は呆気に取られたが数秒後、キツネ型人種の警備員に取り押さえられ連れて行かれた。

その後の事を知るのは翌日の紙面で、やはり男は未成年の触手の彼を騙し、連れてきたようだ。

驚いたのがその目的で、アダルトビデオの撮影のため、だそうだ。彼はただ『映画に出る』とだけ伝えられたらしい。

人の業というものの深さよ、どんな内容なのかなど考えたくもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ