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管轄クラブ


各種法、条約、協定、宣言などは迷路の如く張り巡らされている。

官吏たちには頭の下がる思いである。



ある日の事。例の危ない齧歯類人種の入国者がやってき

「うわーー!!俺は密入国するぜぇーーーーー!!」

一目散に駆け出した!は、速い!

メロードもすぐに走り出すが追いつけずに、ついに入国、そして宇宙港の外へと飛び出した!

が、そこで命運尽き果てたか何も無いところで躓き、地面に倒れ込んだ。

「ぬわーーーーーーーーーーーーーー!!!」

すかさずメロードが拘束する。

「何も無いところにけっ躓いたから畜生!」

「ハァ、ハァッ、びっくりさせやがって」

一体何なのか。というか、密入国ってそういうものじゃないだろうに。

「エッ、そーなの!?」

これでは単なる不法入国である。

「マジかーーー!!」

いちいち声がデカい。


ラスが各所に連絡をしてくれたようで、関係組織の職員がすぐにやってきた。

「私、県警対宇宙人課の鈴木です」

日本の警察である、まあ入国はしてしまっているので妥当なところだろうか。

「すぐに事情聴取を始めさせていただきます」

「ちょいと待った」

何故か警備課宇宙人対策係長のアクアシさんが口をはさむ。

「ここは我が帝国郵船に任せていただきたい」

「しかし、もう敷地外に出ております」

「そうですがね、これは我々の不手際」

どちらの管轄かで揉めているようだ。

「どっちでもいいから早く処理してくれよ」

メロードがぼやく。同感だ。

「あいや待たれよ」

また変なのが来たぞ。

「それがしの名はメウベ騎士団血鬼隊隊長“赤影の素晴らしきキド”。ここはそれがしに任されよ」

メウベ人までやって来た。トカゲみたいなグリフォンである。名前がゴテゴテしている。

「そやつはメウベ騎士団が追う人物、こちらに引き渡し頂きたい」

「しかし……」

「ちょっと待って!」

まだ来るのか!?メロードも犯人もなんだか退屈そうにその場に座り込んでいる。

パカラッパカラッと小気味よく足音を鳴らして現れたるはユニコーンのような人種、エウケストラナ人であった。

「私はルベリー共和国公安警察の捜査官、トワイレフト」

なんだか6人+αでつるんでそうな名前である。

「彼、共和国の違法パスポートを持っているわ。つまり、こちらで処理するってこと」

「待ちな」

また増えた。コモドドラゴンのような爬虫類人種、ピール人が現れる。

「俺は首長国の行政奴隷のガリヤガリ。そいつを追ってやって来た」

どうも、不法入国以外にも手広く犯罪をやってるようである。

「こいつ、どこでどうやって登記されたかは知らねーが、うちに戸籍がある。明らかに不正だ」

「お待ちなさい」

もう来なくていいよ!早く処理してくれ!

「ミユ社の社員名簿にそいつの名前があります。我が社の問題は我が社で解決する」

ミユ社の人間だ。スナネコのようなまあるいおめめをした人種である。

「私は人事部のオーキミ。ここはミユ社にどうか任せてはいただけませんか」


もう増えないようなので、ようやく話が進み始めた。

「そういうわけにはいかない、日本の警察としての意地がある。宇宙人に好きにはさせない」

鈴木さんが言い返す、しかし。

「ほざくなよ土人(クソガキ)が」

ガリヤガリ氏は腹に据えかねる様子である。

「ほんの少し前までマスコミのクズどもをのさばらせていた分際で。腹を裂いて“シロメシ”を詰め込んでやろうか」

例の件もあるので、ピール人からの日本人の印象は恐らく最悪の一歩手前ぐらいであろう、口も悪くなるというものだ。

「そういう言い方は良くない。我々の宇宙港で騒ぎを起こすようでは拘束しなくてはなりませんね」

アクアシ係長が彼を窘める、いつの間にかエレクレイダーが彼の背後で睨みを利かせていた。

「侮辱はダメよ。もっと理性的に、科学的に解決しなきゃね」

トワイレフト氏も同調する。

「ならば早く引き渡せ」

ガリヤガリ氏は犯人の腕を掴んだ。座り込んでいた二人の表情が強張る。

「おっと、ガリヤガリ殿。まだお主らに渡すとは決まってはおらぬ。それに手荒い真似はやめた方が良かろう。種族の差をまざまざと見せつけられたいのなら話は別だがな」

キド氏に凄まれると。ガリヤガリ氏は舌打ちして掴んだ手を離した。

「痛いじゃないか!!!!!」気持ちはわかるけどちょっと黙っててね。

「まず話を整理しましょう。犯人は入国審査を済ませずに日本国領内まで入り込んだ。ここまではいい?」

唐突にトワイレフトが仕切り始める。

ところで、メロードが私に耳打ちをした。

「ちょっといいかい?」

ダメです、今からが良いところなんだから。

「ええ、ですから、これは日本警察が管轄でしょう」

「そうかしら?日本の法律では宇宙人は『特定外来人種法』で通常の外国人とは違うものとして規定されているわ。そうなると、扱いが変わってくるはず」

この『特定外来人種法』というのは宇宙人に関する取扱いを定める、開港時に成立した法律である。

「つまり、日本の警察に逮捕は出来ないって事」

「そんなはずは……」

「いや、彼女の言う通りです」

アクアシ係長も同調するようにこれは事実である。

本法成立の際に恐らくは入れ忘れたのだろう(んなもん入れ忘れんな!)か、逮捕については何も書かれていない。

ので、なんとな~くな緩い、玉虫色の運用が為されており、あんまり突っ込むとドツボに嵌まる。

とはいえこれを含めた細々とした法の隙間を埋めた改正案は既に可決されており、施行を待つばかりだ。

これまでの宇宙人犯罪者は全てガウラ帝国軍によってなされており、そして多くが学者連中の軽犯罪であった。

「そして、今現在では我がガウラ帝国の管轄にあるということです」

「それも違うわね」

トワイレフト氏は続ける。

「銀河同盟内の協定に『犯罪者引渡条項』があるのよ。となると、日本では犯罪者でもガウラ帝国では犯罪者ではない、そしてルベリー共和国の犯罪者である人物はこちらに引き渡されることになるわね」

なるかな……なるかも……わかんないや!

「そして引渡条項はミユ社、メウベ騎士団、ピール首長国にも適用される」

オーキミ氏が付け加えた。となると対象が四つに絞られる。

すると、メロードが腕を引いてきた。

「ねえちょっと……」

今忙しいから後にして頂戴。


さて、犯人の身柄はメウベ、ルベリー、ピール、ミユのいずれかに引き渡される。

「であるなら、我が騎士団に引き渡される他なかろう。最も強い同盟国はいずこか?」

「いいえ、ルベリー共和国よ。優れた研究はいつもルベリーからって言うもの」

「優れた研究を優れた兵器に変えているのはいつも首長国だがな」

「それもミユ社の資金力あってのものですが」

なんだか銀河同盟の内情が見えてきた気がする。

「ねえねえ、ねえってば」

またもやメロードが袖を摘まむ。後になさい後に。

「でも……」

まあそこまで言うなら聞いてみようか。

「ぐしゃあああああああああああ!!!!」

あああああああああああ!!犯人がまるでゾンビになってる!!

「だからさっきから言ってるのに」

もっと!強く!言ってよ!

「俺はゾンビ!!死体だ!!死体を逮捕してみろおおおおおお!!!」

ゾンビの場合はどうなるのだろうか!?

「死体ですって!?科学的にあり得ない、つまりあなたは科学的に存在していない!」

「首長国では死者は逮捕できない」

「ミユ社の規定でも同じく」

「死んだ者を鞭打つのはいささか酷であろう」

あんた方散々管轄の奪い合いしてたのに今更それはないでしょーが!

鈴木さんとアクアシ係長は!

「えーっと、前例がないので……」

「流石に死体は……」

え、えー。

「ぐははははははは!!悠々と入国させてもらうぜええええええ!!!」

ゾンビが立ち上がり、走ろうとした、その次の瞬間。

ズドン!と爆音が鳴り響き、ゾンビの上半身が消し飛んだ。

「死体なら別に撃ってもいいんだよなぁ?」

エレクレイダーのアームキャノンのようだ。

「……あれ?なんか、間違えた?」

いや、大手柄だと思うよ。

結局のところ、帝国郵船で処理する形になってしまった。

言い争いをしていた6人は、なんか変な空気になったのでその場を無言で立ち去った。

ていうか、なんでゾンビになっちゃったのかとか、そういうのも追究した方が良いのではなかろうか……。


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[良い点] 色々な意味ですき まあ国にメンツかあるから 仕方ないね
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