読み物:混迷する地球
昨今の世界情勢。
・帝国による『平定』が行われた地域の情勢について
パレスチナ・イスラエル平定後、帝国軍は多数の増援を配備、ヨルダン、シリア、レバノン、イラクに侵攻し、これらを占領。
周辺国は非難声明を出したが、他の地域の国でこれに異を唱えられる国はアメリカの他には無かった。
帝国はオスマン帝国復興の為の橋頭堡の建設を宣言し、これらの地域の統括的な支援を行うのだという。
トルコ共和国政府はこの宣言について寝耳に水のようで、困惑している様子だ。
まず手始めに暗黒物質発電所の建設と、教育機関の設立を3ヶ月以内を目途に完了させる事を発表した。
宗教に関して特に制限はないが、諍いの監視の為に帝国の憲兵らが国中で目を光らせている。
出入国についても同様に制限は無い……『帝国領メソポタミア』を各国が承認すればの話であるが。
帝国はこれらの急激な教化政策をかつてのオスマン帝国の近代化政策に倣い『ニザーム・ジェディード(新たなる秩序)』と名付け顰蹙を買っている。
・ハンガリー王国の復活
元々ハンガリー国民については、オーストリア=ハンガリー帝国の片翼を担う自負があった[要出典]。
しかしながら、第一次世界大戦の敗北により二重帝国は解体され、以降現代までこの国が王を頂く事はなかった。
帝国との邂逅後もしばらくは王党派政党は存在しなかったが帝国のオスマン帝国復興宣言により事態は急変した。
ハンガリーはかつてオスマン帝国の支配下にあったこともあり、この新オスマン帝国に編入される可能性が示唆され始める。
政権与党は事態を鑑み、帝国への急速な接近を図るべく、ハプスブルク家との交渉を開始。
粘り強い交渉とこの動きを察知したガウラ帝国の後押しもあり、かくしてハンガリー王国は現代に復活し、ハプスブルク家は再び玉座に舞い戻った。
これらのオスマン・ハンガリー政策はバルカン半島処理の事前準備であると推測される。
・アフリカ征伐
発表によれば、帝国軍はアフリカの治安維持にも意欲を見せている。
地球上のあらゆる場所から利益を得る為である。
争わせて武器や物資を流す方が儲かりそうなものだが、帝国は輸出できるような小火器を持たない為であろう。
しかしながら、どうも帝国は発展させれば自然と朝貢や関税によって儲かると考えがちのようだ、果たしてどうなるだろうか。
・総督府内の政治的対立
帝国とて一枚岩ではない。
地球の利益を分けてもらう、という点においては一致しているが、天皇家の存在は想定外であったようで、彼らの意見も分かれている。
大きく三つに分けられ、そして日本の命運は彼らの一存次第でもある。
まず前提として、天皇家の歴史はガウラ皇族よりも長く、威光についても上回るものである、という事実(?)が存在する。
また、日本国民の評価についても、
「都に住めば愚昧、鄙に住めば寡聞、不寛容にして傲慢、物事の道理を知らずよく法規を犯す。彼らには天皇家は過ぎたる王冠である」
と散々なものだ(要するに他の地球人種とほぼ同じ評価である)。
一方で以下のような評価もある。
「地球国家全体に言える事でもあるが、一握りの秀でた者により文明が成り立つ。この者らの出現は出自、性別、学歴、障害の有無に因らない」
「彼らの根性主義は大抵の場合は害悪でしかないが、困難を前にすれば粘り強さを以てして対処する、方法が正しかったことは殆ど無いが」
「追い詰められた際にこそ落ち着き払い、事に当たることが出来る」
「好きな事をやらせると、欠点はまるで蜃気楼のように消え去る。これは即ち政治と制度に欠陥があるという事だ」
と概ね『やれば出来る子』というようなものだ。
派閥の一つ目は、最小の派閥である『譲位論』。即ち、日本国天皇(及び中華皇帝、らしい)の位をガウラ皇帝に譲らせるべきというものだ。
発見初期に主張された。統治の正統性を失うと棄却されたが、未だに派閥としては存在する。
もう一つは『大政委任論』。旧幕府の如く、天皇が上に立ち、ガウラ皇帝に統治を委任する(つまりはショーグネイト)という形を取るべきという主張である。
皇帝の崇拝者たちから(即ち平民出身者の大部分)は強烈に反対されているが、貴族らからは一定の支持を得ている。
従来の権威をそのままに、統治権のみを委譲する、正統性も申し分ないというわけだ。
当然ながら、皇帝が征夷大将軍と格下げになるとの批判が出ている。
そして、現状最大の派閥は『啓蒙自立論』である。
前述のように、帝国により導くことにより、威光ある同盟国として手元に置いておくべきという主張だ。
現時点では、従来の構造を破壊せず威光も享受できるこれが主流である。
しかしながら、大政委任論と啓蒙自立論の対立は日々激化を続けており、総督府の雰囲気がどんどん悪くなっていきそうだ。
・同盟国
最近になってようやく銀河同盟諸国らにもこの星の存在が認知され始めたらしく、それらの国々からの入国者数は日に日に増加している。
とはいえ、政治的な干渉については(例の国宝の事件を除けば)殆ど無く、ガウラ帝国の利権と認識されているようである。
商人にはそのようなものはお構いなしのようで、地球人向け、あるいは在地球の宇宙人や同胞向けに商売を始める者も多く現れ始めた。
・とはいえ……
しかしながら、同盟国ではない――例えば銀河同盟と敵対しているような――第三国の者はどうだろうか。
もう既に合衆国や中国共産党、クレムリン、ドイツやフランスにも接触している者たちはいると言ってもいいだろう。
地球三国はこれらの地球国家と政治的に対立していくことだろう、帝国が彼らに興味を持たず、傀儡国に編入しようと考えているからだ。
世界秩序はどうなるだろうか。日米安保体制は。EUとの関係は。周辺国との領土問題は。
既存の秩序の破壊による国内の反発があるかもしれない。煽動や集団ヒステリーによる暴動やテロが起こるかもしれない。
三国とその他の国との埋められない溝が出来上がるかもしれない。大規模な軍事衝突が地球上で起こるかもしれない。
帝国との遭遇以来、常に不穏の影が迫っている。
 




