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盆参りインザギャラクシー:狐の盆参り


前回。清めの血を飲んじゃった。



「まあ、そういう事もあるだろうな!」

滅多にあるものではない!

我ながら結構緊張していたのだろう、随分な早とちりをしてしまったものだ……。

うえー、まだ血の味がする。

「また注いでこようか」「まあよかろう、身体の中から清められただろうし」

いいのだろうか……。

「じゃあ口直しに飲み物を注いでこよう」

バザードさんがまた台所の方へと行ってくれた。

「揃ったところで飯にするか」

お父さんの一声で男連中がゾロゾロと台所へと向かう。

意外と言えば意外、地球的には『古い』価値観(そも文化価値観に古いも新しいも無いのだが)を持っているかのように見えたが、家庭の料理は男性がやるのだろうか。

「……そんな事気にした事も無かったなぁ。その日の気分だし」

とマルシダさん。まあ家庭によるよね!

「やる気がある人が行く感じ?」

では誰もやる気が無かった場合はどうするのだろうか。

「その時は外食かなぁ」

かなりフワッとした感じのようだ。

エマウルドさんと母のトリミンさんは子供たちの相手をし始めた。

「おまたせ、追い出されちゃった」

バザードさんがコップを手に戻って来た。

今度は緑色の液体が入っているので、ちゃんとした飲み物だろう。

「今度は飲んでもいいよ。味わって飲んでね」

では頂こう。口に含むと……あー……これは……。

なんだろうか、エナジードリンクから甘みを抜いたような、飲めない事も無いけど、まずい栄養剤とも言うべき味だろうか……。

「植物を抽出した飲み物だよ」

言うなれば帝国のお茶という事だろう。

「日本にはこういうのある?」

ありまくる。甘いのから苦いのまで様々だ。

「へぇー!」「そんなに多くて、迷うんじゃないかな」

迷うって事はないけど。

「あそうだ、どう、この星は」「どうと言われても困るかもしれないけど」

冷涼だけど長閑で住みやすそうな感じはするけど。

「そうかなぁ、もっと田舎がいいよね」「いや、僕は都会がいい」

そういうふうに矢継ぎ早に質問を投げかけてこられると、なんだか緊張してきちゃった。

「え!?額から体液が!」「だ、大丈夫!?」

いやこれは汗で……そういえば彼らは汗はかかないのであったか。

こういう時、久々にコミュ障を発揮してしまうのである、仕事中は平気なのだが……。

「ごめんね、色々聞いちゃって」「聞くならラジオでも聞こう」

バザードさんが棚の上に置いてあるラジオのスイッチを入れた。

『…して、我が帝国陸軍の降下作戦に成功、首都アギマに偉大なる皇帝の旗印が翻る。すなわち敵が精鋭を誇る、戦車・機械化兵団の頑強なる抵抗を排撃しつつ…』

なんだか物騒なニュースである。

「ああ、そう言えばそうだったね」「アギマ陥落か、そろそろ終わるかも」

この感じだと、戦争はかなり日常的な事らしい。

今や帝国軍は使い走りの如く治安維持に駆け回っていて、不足しそうな兵員を従属国たちから集めようという噂もあるとか。

「もしそうなったら大変だね、地球人も」「僕も予備役将校だからなぁ」

戦争が身近にあるというのは、どういったものなのかは想像するしかできないが、我が身にはなって欲しくないものである。

とそうこう話しているうちに、料理が出来上がったらしく男性陣(バザードさんも男性だが)が戻って来た。

「出来たよ~。我が故郷の味だ」

蕎麦粉のパンかナンのようなものが盛られたバスケットに、それにつけて食べるであろうソース、サワークリームみたいなものか。

曰く、穀物とか豆とかのペーストでバターもたっぷり、見た目の割にかなり重たいようである。

それと鍋には肉と野菜がたっぷり入ったスープ、ポトフのような見た目と香りだ。

「お父さんたちが作るといつもこれだもん」とエマウルドさんがぼやいた。

どれもこれも美味しそうだが、一口食べるとやっぱり塩味が薄かった。

ので一言告げて醤油をかけさせてもらうと、うーん、やっぱりこれだわね。

「ほ、ホントにかけるんだそれ!」「やっぱり日本人はそれ持ち歩いてるんだね~」

最初は好印象だが、一口舐めると。

「げげ、塩辛い!」「こんなものよく食べられるね……」

とまあ、これである。こればっかりはもうしょうがないのである。


「今日は泊っていくんだろメロード」「泊って行きなさい、ご友人もどうぞ」

食事中にこういう話が出た。

「一日だけね」

一応そのつもりで来たのだが、迷惑ではないだろうか。

「別に問題ないよ、家は馬鹿みたいに広いんだから。なあ母さん」

「お爺ちゃんの代は開拓したところ全部もらえたみたいですからねぇ」

墾田永年私財法じゃん!入植者だったのだろう、確かにそれぐらい役得が無いと開拓なんてやってられない。

先祖は子沢山(今でも十分多くない?)だったようで、家は広めに作ってあってさながら小さな旅館のようだ。

「まあこの辺の家はだいたいそんなもんだがなぁ」

入植者らの集落であるので、一軒一軒の敷地が大きく、庭も畑もデカい。

のだが、どの家も大きな道路沿いかその近くに密集しているので狭苦しく感じるのがこの町の特徴だ。

ともかく泊めてもらえるようでよかったよかった。


食後、礼拝に立ち会わせてもらえることとなった。

「ここが我々の一族の墓標だよ」

綺麗に整えられた庭に、石で出来た祠のようなものがある。

するとみんな、おもむろに服を脱ぎ始めた、上半身だけ。な、なんでだ。

「祖先と代々の皇帝の前に心臓を露わにするためだ。君はしなくてもいいが……」

よかった、恥ずかしいというよりは凍え死ぬので……。

そうしてみんなが祠の前に跪くと、お父さんが小さな紙を開いて、祈りの言葉を読み上げ始めた。

「偉大にして崇高なる我が祖先よ、田畑に実りをお与えください、盃に溢れる酒をお注ぎください、我が武勇をお見届けください、我が敵に罰をお与えください、災厄の日までの備えをお預かりください」

般若心経か祝詞か、はたまたキリスト教徒の主への祈りかイスラムの礼拝かのように読み上げると、他の全員がそれを復唱する。

すると皆が財布から小銭やら紙幣やらを取り出して祠の中に入れた。

私も入れようかなと財布を取り出したが、メロードに制止される。

代わりに彼がスッと私の財布から千円札を取り出し、祠に供えた。

まあ私は心臓を晒していないから、という事だろうか。

「我が祖先よ、我らを正しき道にお導きください」

最後は復唱せずに終わった。

こういう宗教の儀礼を眺めていると、何とも言えない不思議な気持ちになる。

「異国のお金が増えたね」

入れてもらっちゃったけど、大丈夫なのだろうか。

「まあこれは、何かあった時に使うお金だから、使えれば何でもいいのよ」とお母さまが言うので大丈夫だろう。

「それじゃ戻りますか!」エマウルドさんが言うと、みんな服を整え始める。

関係ないっスけどエマウルドさんおっぱいおっきいっスね~~!……もちろん声には出していない。

「ん?どうしたの?やっぱり日本人とは違う?見せてあげようか!」

視線を感じ取られたようで胸を張って見せつけてきた。ぐぬぬ……。

「じゃあ僕も」とバザードさんも見せつけてくる。無邪気なセクハラはやめろォ!

ペシッとメロードがバザードさんの鼻を小突いた。


居間に戻ると、メロードがキリと畏まった様子でいる。

「重大な報せがあるんだが、聞いてくれるか」

「知ってますよ、そのご友人の事でしょう」

でもお母さまに即出鼻くじかれた。

「ちょ、ちょっと……」「あら……ごめんなさいね」

ハハハとみんな笑った。全員知ってたようである。

まあ以前の兄の事もあるから、知っていてもおかしくはない。

「いいと思うよ、変人だけど」「変わった人だけど、お母さんはいいと思うわ」

「……変人だが、悪いヤツじゃないのはわかった。だが俺は認めん」「ああ!?」「認める」

「いい子じゃない、ちょっと変だけど」「まああれを差し出されて飲むって事はだな。変人だが」

変人変人ってひどいなもう!しかもなんか脅されてる人いるし!

「みんな、ありがとう……」感極まってるんじゃないよ!変人に突っ込んでよ!

……まあ余程の変わり者でなければこんなところにはいないだろう。

とはいえ割と重大な出来事のはずがしんみりのしの字も無く消化してしまって、いいのかしら。

「だがメロード、人は自由には生きられないぞ」

父の顔が険しくなる。

「何年かに一回は帰ってきなさい。これは絶対だ!」

あれ、思ったほど不自由でもなさそうだぞ。

「あと子供も見せてね、出来たらでいいけど……」

「うちの子にも会いに来てよね」

「あ、帰ってくるときはお土産も頼むよ」

割と普通である。問題があるとすれば文化や宗教の面であるが……。

「そんな事を気にするガウラ人はいない……同性愛は別だがな」

それなら一先ずは問題ないだろう……多分。

「……どこに出しても恥ずかしくないよう育てましたが、どうか息子をよろしくお願いいたします」

とお父さんが深々と頭を下げる。やや、こちらこそ、と私も頭を下げた。

その夜は、お酒を飲みつつメロードの話をうんと聞かされた。私の方も、地球での彼について話した。

それと、この国のお酒は味もさることながらアルコール度数も薄いので私はかなりの大酒飲みだと認識されただろう……。

果実酒は甘くて美味しかったが、後日調べた結果、アルコール度数は1%強程度であった。


そうして帰路。メロードが呟く。

「もしダメだったら、私は君にここで暮らしてもらうか、さもなくば……と思っていた」

さもなくばなんなのかが気になるが、別に私はここで暮らしても、とは気軽には言えない。

そして、彼を遥か宇宙の彼方に住まわせるのは若干気の毒に思う。

「私は別に、地球に行かなきゃそもそも出会わなかったのだから」

案外気に入ってるしね、とも付け加えた。

そう思ってもらえるのであれば、こちらも安心というものである。

親族もいい人たちばかりで、すんなりと受け入れてくれた(のか、本心はわからないが)。

果たしてこんなに幸せでいいのだろうか。

「もちろん、いいとも」ホントにぃ?「ホントに」


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― 新着の感想 ―
[一言] 結婚おめでとうございます! ここまで長い道のり、気付けば主人公は玄関を飛び出してガウラ星まで来てしまった ここまで色んな宇宙人が居たけれどどいつもちょっと難あれど気の良いやつらで楽しかったで…
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