盆参りインザギャラクシー:ご家族勢揃い
私たち二人を待っていたのは、メロードの兄であった。
「……メ」「ああ!!あれが噂の!!」
と、兄を遮って叫んだのは一体何者。
「メロードさんも久しぶり!」
「義姉さん」なんと、メロードの義理の姉であるという。
と、いうことは……彼女は兄の妻という事になるのだろうか。
「そういうこと!あ、うちのは知ってる?会ったことあるみたいだけど」
まああまり親しいとは言えないが……。
「地球に行ったみたいだけど。あたしに黙って。それも二度も」
「……」「黙って来てたのか!?」
なんというか、尻に敷かれている様子である。
それはともかく、とメロードが高山病の事について伝える。
「またかい。もう薬無いからあたしが買いに行くよ。でも、その子貸してくれない?」
と私を指さす。えっ、私ぃ?
「管理AI、運転前チェックリストを」
彼女は装甲車のような車(これでも自家用車なのだという)に乗り込むなりこう言い放った。
すると自動でエンジンがかかり、車そのものが話しかけてきた。
『わかりました』
なんと、危険予知AIがついているのだという。ハイテクだ!
「なんてったってうちのは最新式だからね!役場やどこぞの企業の公用車とは違うのさ」
こちらの国でも組織というのはケチケチしているらしい。
「制動装置」『チェック』「懸架装置」『チェック』
と五分ぐらいかけてチェックリストを読み上げていく。まるで飛行機だ、アンチアイスもオフにしよう。
ハンドルもさながら飛行機のようで、大量の計器とボタンとスイッチが配置されていて、運転席というよりはコックピットだ。(本当にこれは自家用車なのだろうか?)
「さて、出発!」
エンジンが凄まじい轟音を立てて唸る。
「し――――――よ――」
何か話しかけてきているようだが聞こえない!
どうも窓がどこか開いているらしい、彼女があたふたした様子でボタンを押すと、騒音はシャットアウトされた。
「これだったこれだった。あ、車内食よかったら食べる?」
後ろの棚から何やら赤いビスケットらしきものを取り出し、一つ口に入れると、もう一つをこちらに差し出した。
濃縮された肉々しい匂いがする、噛んでみるとビスケットなのだが、味が肉だ!この人ら肉好きよね。
「聞きたいこと沢山あるけどさ、まずは薬を飲んでからだね」
彼女はビスケットを口に放ると運転に意識を向けた。
その間、私は窓の外の景色を眺めていた。
狭苦しく道沿いに並ぶ住宅や店の上や間からは遠くの山の青が見え、時々広大な田畑や池なんかが顔を見せる。
建築様式こそ違えど、さながら日本の地方道を通っているかのようで、他の星にいるとは思えないような光景であった。
薬も飲み、高所に慣れたのか次第に気分も良くなって来た。
家に戻ると、リビングに一家が勢揃いしていた。
「紹介しようか、この人は……」「さっきから散々聞かされているよ!」
どうやらメロードが私について随分と喋っていたらしい。
という事で私は軽い挨拶だけで済ませた。
「じゃあ私の家族を紹介しよう。一緒に薬を買いに行ったのはマルシダ」
「よろしく!」
毛皮の色は全身真っ黒だが、性格は真逆の明るさのようだ。
「で、その夫で私の兄のハディード」
「……」
嫁の尻に敷かれているのがバレてばつの悪そうな顔をしている。みてくれは細い目つき以外はメロードとそっくりだ。
「私の双子の妹、エマウルド」
「あたしと取り違えたのよ名前!本名はエマードなの!」
確かに、そんな事を言っていたような気がする。見た目はやはりメロードに似ていて……と一つ一つ取り上げるとキリがないので以降は省略する。
「私の一つ下の弟のバザード」
「どうも」
「そして、父のアラディードと母のトリミン」
「息子が世話になっているというではないか!なあ母さん!」「そうですねぇ、嬉しい事ですねぇ!」
仲睦まじい様子である……のだが、まだ四人ほど小さいのが残っている。
「あとは、知らない、新しい兄弟かも……」
どうやら地球に来ている間に家族が増えたようである。仲睦まじ過ぎる。
「一人はうちの息子だよ!」とマルシダさんが言う……それでも三人は新しい兄弟のようだ。
「ま、まあ!いいじゃないか!家族は多い方がいいし!」「そうですよそうですよ!」
照れた様子で釈明をする父母。羨ましいほど仲が良さそうだ。
「あそうだ!おもてなししなくては母さん!」「そうですよ!」
「俺が行ってくるよ」
スクッとバザードさんが立ち上がり、恐らく台所へと向かう。
「おお、ありがとう、気を付けてな!」「んー」
台所で気を付ける事があるのだろうか……。
「いや、客人が来ると知って慌てて獲って来たから、随分と活きがいいんだよ」
へぇ~。と思った次の瞬間、バザードさんが向かった方から獣の断末魔の叫びのような声が。
子供たち4人もビクッと驚いた。私もビビった。
「そりゃ驚くよな」とメロード。これが普通なのだろうか。
「いや、普通ではないかな。よくある事でもない」
ま、まあ、日本の田舎でも鶏を絞めたりするし!?
叫び声からしばらく、バザードさんが血塗れで戻って来た。
「ちょっとこぼしちゃったけど」
一つのコップに赤い液体が注がれてきた。トマトジュースかなぁ?
「ささ、遠慮なく」と私に差し出される。
ぐっ、飲めという空気だ……。明らかになんか血の匂いがするというか間違いなく動物の血だろう。
しかしながら血というのは別にそこまで変な食文化でもなく、地球にも血をゼリーにしたり腸詰にしたりスープにしたりと割と普遍的なものである。
だとしても、そのまま飲むって事は少ないだろうが……。
だが出されたものはいただくのが日本人の掟である(要出典)。
いただきます、とコップを手に取り口へと運ぶ。
口の中に生暖かい血の味が広がり、マジで吐きそうになったがグッと堪えて一気に飲み干した。
そうして周りに目をやると、唖然とした顔をしている。
「飲んじゃったの!?」えっ!?飲むんじゃなかったの!?
「か、変わった人だね、メロード兄さん……」「ありゃまビックリ……」
弟さんと妹さんの反応を見るに、大変な粗相をしてしまったようである。先に言ってよ!
「今説明しようとしたのに……」
どうも、清めの塩みたいなものらしく、手の甲にちょびっとつけるだけでいいそうだ。
お客さんが来た際にしてもらう事らしい。先に!言ってよ!
「……おもしれーヤツだ」ハディードさんがニヤリと笑っている。笑うな!
「まぁ、そういう事もあるさ、なあ母さん!」「そうですねぇ……?」
しかしながら、何やら雰囲気が変わって打ち解けた感じになったので、怪我の功名とでも言うべきだろうか。
ある意味、大怪我であったが……。




