盆参りインザギャラクシー:ガウラ鉄道の夜
この惑星ハコダには宇宙港が一つしかない。
田舎だからというのと予算不足が主な理由である。
同じ理由で飛行場もなく、主な交通網は帝国においては安上がりな鉄道である。飛行機の方が安そうなものだが……。
宇宙港を出た時、日がもう落ちかけていた。
「この宇宙港は直接駅に繋がっているから外に出る事はない」
とメロードが言う。ちょっと外に出てみたい気もするのだが。
「一応、出られないことはないが……暑いだけだぞ」
窓から外を見ると、一面平野で軌条の他には人も建物も何も無い。
なるほど、冷房がやたらとついているわけである。
つまりは空調の維持費に食われて予算が限られているのだという。きっとガウラ人が暮らすには暑すぎた星なのだろう。
じゃあどこに住むところがあるのか?
「この星の住人の大部分は山や高地の上に住んでいる」
標高が高ければ気温も低いというわけだ。
確かに遠くに険しい山が見えて、レールはそちらへと向かっているようだ。
この平野で農業でもやれば、きっと莫大な収穫量を得る事が出来るはずなのだが。
「帝国産の作物はこの気候では育たないし、第一間に合ってるからな」
まあ足りているのなら作る必要もない。
いずれ必要になればこの地も開拓されることだろう。
券売所で切符を購入する。
「日本人ですか!初めて見ましたよホントにハゲてるんですね!」
そりゃあまあ君たちよりはハゲてるけど。
ジロリとメロードが睨みを利かす。
「あ!いや失敬、悪気があったわけでは……しかし、寒くないのですか」
もちろん寒い。今すぐ冷房止めて欲しいぐらい。興味本位で持ってきた温度計が-10度を指している。冷凍庫か!
「ははぁ~意外ですなぁ~……失礼、切符でしたね。良い旅を!」
料金を34ピトー(帝国の通貨、34ピトーは日本円で2500円程度)払い、2名……ナントカ列車、と書かれた切符を受け取った。文字はまだ簡単なものしか読めない。
「いずれ読めるようになるよ。覚えれば立派な帝国臣民だ」
駅のホームに行くと、もう列車は到着していた。
乗客たちが次々と乗り込んでいく、それなりに盛況のようである。
「ここからまあ一日ぐらいかかるな」
なんと、宇宙船よりも長いではないか!
そういうわけなので一部の車両を除いた全てが寝台車両となっている。
乗ったことがないので楽しみだ!とウキウキで乗り込もうと歩く。
次の瞬間、メロードにガシッと抱えあげられた。
「ふぅー……隙間が広いから気を付けて」
下に目をやると、どうやら足を踏み外すところであったようだ。間一髪だ!
ちょっと浮かれすぎちゃったかしら。
中はどうやら個室式である。入る際に、乗務員に切符を手渡す。
「2名様ですね、135号室でございます」
というと、この乗った地点からは随分歩くこととなる。
「あれが例の日本人だ」「ホントにハゲてる!」「ああいう色の毛皮なんじゃないの」「尻尾がないし、鼻もないみたいだ」
列車の中でも注目の的であった。
「この星に宇宙人が来るのは殆ど無いからね……はぁ、きっとみんな映画や写真でしか見たことがないんだよ」
メロードがため息交じりにぼやく。
「日本国天皇と言えば、我が皇帝一族よりも古いというではないか、見ろ!神々しい威光が後ろに見える!」「あらホント」
そんなの出てるの!?
「出てると言えば出てる」マジで!?
囃し立てる野次馬の中から小さな子供がトテテと走って来た。かわいい。
「これ、使ってください!」
何かの薬品のようだ、何々……うーん、何か毛に関係する薬のようだが……。
「い、育毛剤だよこれは……」
きっと心配になって持って来てくれたのだろう、気持ちだけはありがたいが……。
しかしこれは本人の物ではないだろう。
「うん、お父さんの。使って!」
うぐっ、キラキラした目でこちらを……!
しかし可哀想なのはこの子のお父さんである。先程からスカーフを頭に被ったガウラ人が焦ったような表情でこちらを見ているのだ。
我々地球人は頭と……一部の部分にしか毛が生えないという事を説明すると、更に目を輝かせた。
「すっごーい!なんで!?」
なんでって言われても……。
メロードがこの子のお父さんを連れてきてくれた事でなんとか先に進むことが出来た。
お父さんは終始申し訳なさそうな顔をしていた……こちらこそ、なんだかすみません……。
そんなこんなでようやく個室に到着する。窓の外はすっかり暗くなっていた。
「あら、ご一緒させていただきますわ」
と美しいご婦人と子供たちの先客がいた。
3人の子供たちは目を丸くしてこちらを見ている。
「ご挨拶は?」
ススス、と婦人の後ろに隠れてしまった。かわいいぜ……。
私が宇宙人なものだから人見知りをしているのだろう。
「この人は、日本人でして、それで」
「承知しておりますわ、私の夫も地球に赴任してますの。パレスチナに出征しておりまして」
「ああ、例の」
だとすると顔を見た事があるかもしれない。
「軍人だから、今度のお休みも戻ってこれないみたいで……」
寂しそうに呟く。思えば中東と帝国は戦争中であった。
こういう話題はメロードが得意なようで、それから二人で話し込んでいた。んもう。
しようがないので荷物を置き、備え付けのベッドに横になると、シュタタと3人の子供がこちらに寄って来た。かわいい。
皆、中東の服装であるカンドゥーラ(男性が着てる白いアレ)と甚兵衛羽織を混ぜたような服装をしていてそれぞれ模様も違う。かわいい。
ベッドの横からジーっと見ている……。一人が口を開いた。
「鼻が……ある!」
そりゃあるよ!
「耳は?」「耳はない……」
耳もあるよ!髪の毛をかきあげて見せた。
「それ耳?」「かっこいい……」
そうかなぁ。まあ彼らのセンスとは違って当然だ。
身体を起こして、腕まくりをしてみせる。
「そこも生えてないんだ」「凄い!」「寒くない!?」「それに爪が丸い!」
……ん?なんか一人増えている気がする。
「あら、知らない子が混じってますねぇ……」
ご婦人も気が付いた。やっぱり知らない子だったか!
「まあよくある事ですな」
「ですねぇ……」
よくある事なのか……。なんというか、帝国の子供は割と大雑把な育て方をされているようだ。
私への興味が失せたのか、5人でキャイキャイと部屋の中で遊び始めた……5人?また一人増えてるよ。
まあよくある事ならいいか……と私は再び横になり、目を閉じる。
碌な座席もない貨物船に数時間揺られていたせいですっかり疲れ果てていたようだ。
子供たち6人が……6人!まあいいか。暴れ回っている中でもストンと眠りに落ちた。




