盆参りインザギャラクシー:狐の里帰り
日本には、先祖の霊がお盆の時期に現世へと帰ってくるとされており、そのお参りなんかをする風習がある。
ガウラの文化にも似たようなものがあり、今がちょうどその時期なのだという。
この宇宙港というのは、多様な文化を持つ様々な人種を内包しているためか祝日休日なんかにかなり寛容で、すぐに特別休暇を出してくれる。
という事はつまり、ガウラ人の祝日にはガウラ人みんなが休んでしまうという事になる。
即ち、宇宙港の大部分の人員が休暇となるため、この時期は宇宙港そのものが閉鎖と予め決まっているのだ。
つまり我々地球人も休みという事である。やったね!
「日本にも、確か『オボン』というのがあったな」
そう、このガウラ人らの休暇はお盆休みなのである。
帝国の暦で4年に一回、先祖たちの霊魂に感謝する風習があるのだという。
当然メロードも里帰りする事になるのだが……。
「しばらく会えなくて寂しいものだな」
太陽系と帝国諸星系を繋ぐワームホールのおかげで数ヶ月の別れ、という事ではないのだが、それでもちょっぴり寂しいのである。
「……もし、君が良ければだが。一緒に来てはくれないだろうか」
そうでなくてはお話にならないというものだ!私は一瞬で快諾する。
「え、いいの」
そりゃモチのロンで、バッチグーよ。
「よかった、よかった……うん」
そうと決まれば早速冬物を出さなくてはならない。きっとめちゃくちゃ寒いだろうし。
慌てて家に戻って準備をし、宇宙港へととんぼ返りだ。
閉鎖されているとはいえ帝国向けの運行だけは止まらない。ただし、貨物船だが。
手荷物検査も終わり、荷物置き場に布を敷いただけの部屋に入れられる。
「思えば、ほんの十数時間で行き来が出来るというのは嬉しい事だ」
貨物室でなければ手放しに喜べたのだが、そうも言ってられないだろう。
周りではガウラ人らが床に寝そべったり雑誌を読んだりゲームをしていたりとのんびりしている、慣れっこなのだろうか。
だだっ広い何もない空間に不用心に雑魚寝している、なんとも面白みのある光景である。密航でもしている気分だ。
その中に、メロードが友人を見つけ、そちらの方へと話をしに行ってしまった。んもう。
しようがないので壁にもたれかかって座り込んでいると、こっちに近づいてくる二人組がいた。
「管理官どの!」「久しぶり」
いつぞやの税関のニッチとサッチであった。
「本官らも里帰りであります」
相変わらずちみっこくて可愛い二人組である。
「しかし、管理官。隅に置けないでありますねぇ!ちょんちょんでありますねぇ!」
きっとメロードの事であろう。まあそう言われればそうである。
「まあ、あの人もなかなかいい尻尾だからね」
「えーっ!?」
ニッチは慌てて尻尾の手入れを始めた。私にはさほど変わらないように見えるのだが……。
「あの人、どこの出身だっけ」
確か、ベークトロハムと言っていた気がする。
「あそこか……あそこはねぇ……」
な、なにかあるのだろうか……?
サッチが口を開けた瞬間、彼女の口にモフりと尻尾が突っ込まれた。
「モガガ!」
「どうでありますか、本官の方が男前でしょう!」
羨ましいようなそうでもないような、というかそんなことされて男前かどうかわかるものなのか……。
案の定、彼女からチョップのお返しを貰っていた。
そして結局、彼女が言おうとしたことがうやむやになった……めっさ気になるなァ。
貨物船はワームホールを抜け、帝国の第五惑星ハコダに到着した。
宇宙港に降り立つと……かなり注目の的のようである。
「田舎だし、重要な政府施設もないからな、宇宙人は珍しいんだよ」
さながら宇宙人でも見るような目でこちらを見ている……いや、彼らは宇宙人を見ているのだが。
それでは、入国の時間だ。客として来るのは久しぶりである。
「日本?知らない国だな……どこにある?」
太陽系の……と言ってわかるものでもなさそうだがとりあえず説明した。
「あー、あのカープの!あんた福岡のカープチームにいるヤカモト選手に似てるしな!ファンなんだよ!」
全然似てないと思うのだが……カープ、というのは野球の宇宙での呼び名である。なぜこの呼び名なのかは詳しく知らないが……。
というか、手渡した書類に全然目を通していない、この国境は割と杜撰なようである。
「げっ、同業者かよ……。でもここまで来るって事は別に変なやつじゃないだろう?いやここに観光しに来たのなら十分変人だが」
そう言われればそうなのであるが、これは一本取られた……わけがない。真面目にやって欲しいものである……。
「だってみんな祝日なのに仕事だぜ俺!?」
それは気の毒には思うが……。
「まあうちの民族にはこの風習無いんだけどな。古ガウラ民族とカルダラ民族と、あとは……忘れた」
じゃあ真面目にやれよ!
「まあそう言いなさんな。ようこそガウラ帝国へ。皇帝陛下万歳、天皇陛下万歳!」
かくして、まんまと入国を果たした私たちは……更に鉄道に乗り継ぐこととなる。いい加減疲れたが、もう少しの辛抱だ。




