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卑怯な日本人


他国から見ればどう映るか、というのを内側から推測する事は困難だ。

ましてや他国、それも宇宙の国々なら不可能とも言えるだろう。



年末年始と言えば、通常の空港の職員は大忙しだろうが、宇宙港の職員はそうでもない。

というかいつもと変わらない、むしろいつもよりも暇である。

「年末年始は何かと入り用だと聞くから、どうぞ」と局長もお年玉をくれた。おっほぉ~~~60万~~~!!

職員らはみな局長を崇め奉っている。

「いや、支給されたんだよ。石灰岩特需のおかげで利益が物凄いから」

石灰岩様様である。日本国内の輸出品は帝国郵船を経由して持ち出されている。

つまりはあらゆる輸出入のマージンをちょっぴり拝借しているのだが、核戦争の流行(?)によりコンクリートの需要が増加。

とにかくセメントが早く欲しい!という中小国が大勢現れ、日本産のセメントにミユ社共々吹っ掛けて回っているのだ。

核戦争の流行の発端となった上でコンクリートを輸出し暴利を得るとはまさしく悪魔のような国に見えるだろう……。

ぶっちゃけ偶然が重なっただけなので責任も何も無いのだが、なんとも複雑な気持ちである。

しかしながらこれは帝国の国庫をも潤し始め、彼らも日本及び地球を雑に扱う事は出来なくなったのである。

「元々雑に扱われてはなかったけどね」そりゃあそうだが、吉田は意外とそういう事を言う。


そうすると恨みを、というか逆恨み、というか憤りを日本に抱く者も現れ始める。

気持ち的には理解も出来るのだが……。

国内でも宇宙人らによるヘイトクライムがいくつか起き始めている。

今のところは通行人を殴ったり居酒屋で暴れたりと軽微な犯罪ではあるが、エスカレートしないことを祈るばかりだ。

そんなふうな事を色々と物思いに耽りながら仕事をこなしていると、アタッシュケースを持った人物が現れた。

「こんにちは」と挨拶をしてきたが、私のこれまで経験から言って、妙である。

書類を差し出すが、別に変なところはない、ないのだが、こういったぎらついた目をしている者は何かを企んでいる。

私がスタンプを押さないのを不思議に思ったのか、こちらをジロリと覗き込む。

「何か不備でも?そんなはずは……」ブツブツと呟く。

調べた方がいいかな、と警備員を呼ぼうとした時、彼はアタッシュケースを開いて叫んだ。

「卑怯な日本人にはこれがお似合いだ!」

何の事だ、と思った瞬間、彼はメロードに取り押さえられた。

「もう遅い、一矢報いる事が出来ればそれで十分だ!」

きっとアタッシュケースに何かを仕込んだんだろう、例えば、爆弾であるとか。

ケースに近づこうとすると、エレクレイダーが一目散に駆け来るのが見えた。

「爆発物反応を検知したぜ!そこか!」

彼はアタッシュケースを覗き込む。

「時限爆弾だな、きっと3分もすれば爆発するぜ。核物質の反応は無いが、きっとこの建物丸ごと吹っ飛ぶぞ!」

まさか!ラスが避難勧告の要請をしているが3分ではきっと間に合わない。解除は出来るのだろうか。

「やってみるぜ」エレクレイダーの指が何かに接続する端子のように変わった。

そしてアタッシュケースの中の爆弾に接続し、無言で睨みつける。

きっと頭の中で解除プログラムを作動させているのだろう、彼に期待だ。

「あ、ヤベッ」なんて?

「失敗した、後30秒になったぜ」

何やっちゃってくれてるんですかね。もうおしまいだ!

「こうなりゃ、滑走路に捨てるしかねえ!」

エレクレイダーはケースを抱えて窓ガラスを突き破……「ベッ!!」れない!強化ガラスだ!何でこんなに硬くしたのか!

「ちょっと貸してみ!」いつの間にか現れたバルキンがアタッシュケースを分捕る。

「あたしごとテレポートするよ!」はい?

「ごめんねみんな、いつも好き勝手ばっかりやっちゃって……グッバイ!」

そんな、それは困る、だって、あなた、友達じゃないか。

「友達?ふふ、ありがとね。こんなあたしを友達って言ってくれて」

こんなところでお別れになるなんて御免被る。

「グッバイ、エレクレイダー!後は任せて!グッバイ、メロードくん!彼女を幸せにしてあげてね!」

そんな最後みたいなことを言わないでくれ。

「グッバイ!近所のおっさん!多分聞こえてないと思うけど!佃煮そんなに美味しくなかったから持ってこなくてもいいよもう!」

……。

「えーっと、それから……あ、そこの君!グッバイ!なんで爆弾持ってきたの?」

早く行けや!!!

その瞬間、フッと消え失せた……アタッシュケースだけが。

「ふぅ……おどかせちゃってさ……」

それはこっちのセリフである。というか、爆弾はどこに?

「それなら沖合に飛ばしたよ!誰もいないところにね!」

「く、くそう……卑怯者……」

取り押さえられた男は言うが、こんな爆弾を持ち込んで炸裂させようという方が余程卑怯だろう。

しかも、直接我々が何かをした訳ではない……まあ心情的には同情も出来るのだが。

男はそのままメロードに連行されていった。強制送還されることだろう。


太平洋上の爆発は翌日の紙面を飾った。帝国軍により危険はないとの声明が出される。

報道陣が宇宙港に来たらしいが追っ払われたという。

随分前の記者以降、取材は余程のことが無い限りお断りなのだそうな(爆発は余程の事だと思うけどなぁ)。

卑怯な日本人というのは、まあ現状で否定は出来ないだろう。

マッチポンプのように映るというのはまさしくその通りだ。

このような憎悪による事件や陰謀が続くとするのならば、そのうちこの問題の矢面に立たなければならない日が来るだろう。


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