もう守られるだけの僕じゃない 7
「あ、ありがとうございます！！」
「いえいえ、お怪我はありませんか？」
「助けて頂いたので無傷です！」
「なら良かった」
そう言い、笑顔を向けると、ぶっ飛ばしたガラの悪い男が、顔を押さえながら入ってくる。
「クソガキィ！ 良くもやってくれたなぁ！？ ぶっ殺す！！」
「ここは店の中なので、やるなら外にして欲しいのですが？」
「うるせぇ関係ねぇ！」
叫びがら、腰に装備していた短剣を取り出し、ジンへ向ける。
ジンが身構えると、ガラの悪い男は一直線に突進をしてくる。
それなりの高レベルなのか、突進の速度がかなり早かった。
だが、その突進を躱し、短剣を持つ手に手刀をいれると、ガラの悪い男は短剣を落とす。
「痛ってぇなぁ！」
そう叫ぶと、次は両手で掴みかかってきた。
ジンはその両手を掴み、少し強く力を入れる。
すると、それに負けじと相手も力いっぱいに握ってくる。
「強いですねぇ……レベルはいくつぐらいですか？」
「ガキに教えることなんざねぇよ！」
「そうですか……」
店の迷惑だから、さっさと終わらせないと……
少しばかり本気を出そうと、ジンは目つきを変え、全身に力を入れる。
強くなる握力に耐えきれず、ガラの悪い男はその痛さに顔を歪ませる。
そして遂に、自分から手を離し、すぐさま短剣を拾いに行く。
短剣を拾うと、ガラの悪い男はすぐ近くにいた獣人族の女性を人質にする。
ジンは動こうにも、店を壊すのは絶対に出来ないと思い、余り強引にはできないため、短剣を拾いに行くのを阻止できなかった。
「ははは！ おいガキ、この女殺されたくなきゃ今すぐ土下座して謝れよ？」
首元に短剣を向けているため、迂闊には動けないジンは、すぐ近くの机の上にあった瓶の蓋を、気づかれないように素早く拾う。
この店の瓶はアルミの蓋なのね……これを見ると日本を思い出すなぁ……
そんな事を思いながらも、ジンは「わかった、だが土下座の前に武器はしまえ。それが条件だ」と言い、武器をしまうように促す。
だが「あぁ！？ 土下座が先に決まってんだろ！？ 馬鹿かお前は！？」と叫んでくる。
クソ……土下座なんてした事ねぇのによぉ……
ジンは、少しどうするか考える。
一つだけ作戦はあるが、失敗したら確実に女性は殺される。その一かバチかの作戦をやるかやらないかを少し考え、一度軽く深呼吸してから、意を決する。
まずは、土下座をするフリをする。
「わ、私なんか気にしなくて良いので土下座はしなくてもいいですよ！」
それは無理かなぁ……だって可愛いし？ そのふさふさそうな尻尾を失うわけにはいかないし？ 土下座したら、どうせそこを狙うのなんかバレバレだし？ でも土下座する気もないし。よし、やるか。
ニコッと、人質にされている女性に笑顔を向け、再び土下座をしようとする。
ゆっくりと両膝を床へつけ、正座する形になると、ガラの悪い男は一瞬油断をしたのか、短剣を少し女性の首元から下げる。
その一瞬の油断を見逃さず、ジンは瓶の蓋を、指で全力で弾き飛ばすと、瓶の蓋は超高速でそんでいき、その瓶の蓋はガラの悪い男の肩に直撃する。
その威力に、ガラの悪い男の肩の骨が砕ける音がして、短剣を持つ腕がだらんと下がる。
相手の腕がだらんとなったのと同時に、一瞬で人質とされている女性の元へ行き、ガラの悪い男から奪い返すと、お姫様抱っこをして距離をとる。
「クソっ！ 肩がぁ！」
ジンはすぐにウルフの女性を下ろし、顔を見て「怪我はないですか？」と尋ねると、助けられた獣人族の女性は顔を真っ赤に染める。
「顔が赤い……もしかして毒が！？」
その発言に、その場にいた冒険者とウルフの女性達が「「そんなわけないだろ(でしょ！)」」と声を大にして叫ぶ。
「え！？ 違うの！？」
ジンは、なんで皆が否定したのかわからず首を傾げる。
「舐めやがって……絶対殺す！」
そう言ったガラの悪い男は、全身にオーラを纏う。
「さっき俺が何レベか聞いたよなぁ！？ 教えてやるよ！ 103だよ、ビビったかぁ！？」
103かぁ……。凄いんだろうけど、僕の周りの人が凄すぎて何も思わないんだよなぁ……
「ビビって声も出ねぇか……一瞬で終わらせてやらぁ！」
そう叫び散らすと、ガラの悪い男は一瞬でジンの目の前へ移動する。
だが、ジンはそれに反応し、腹部へ強烈な蹴りを入れる。
「ぐふぁっ！」
その蹴りはモロに入ったため、ガラの悪い男は息をすることができず、その場に跪き、オーラが解ける。
ジンは、これ以上ここに迷惑を掛けるわけにもいかないので、服の襟を掴んで外へ出る。
「貴方はもう二度と、ここには来ない方がいいですよ。僕がそれを許しません」
決まったぁ〜！ 一度言ってみたかったんだよねぇ〜！ ちょっと恥ずかしいけど……
ガラの悪い男は、暫く息ができずにもがいてたが、息ができるようになると、荒く息を吸い込む。
「クソッ……覚えとけよぉ……」
掠れた声でそう呟くと、ガラの悪い男は走って逃げていった。
「よし！ これで大丈夫！」
ふぅ、と溜息を吐くと、何故かジンの周りにぞろぞろと、ウルフの女性達が近寄ってくる。
「な、なんですか……」
「「「ありがとうございます！」」」
その突然の感謝に、ジンは困惑する。
