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5.目覚めは緑の終わりと共に

 夢を見ていた。

 今よりもずっと幼い頃の夢だ。


 これは確か、そう、俺たちの住んでいた街から遥か南東に浮かぶ島へと、家族旅行に行ったときの記憶だ。

 たしか、伊豆諸島っていうんだっけ?

 あれの一つに、旅客船で行ったのだ。


 当時小学生だった俺は、どちらかといえば外で元気よく遊ぶことが好きなやつだった。

 サッカーに野球に鬼ごっこ、誘われるがままに何でも参加した。

 チームのお荷物、というほど運動音痴というわけでもなかったはずだ。


 けれどこの旅行を境に、俺は外で遊ぶことが、いや、自然環境にいることが苦手になってしまったんだ。

 旅行中、旅客船の中で、俺は一つのトラウマを植え付けられた。

 トラウマと言っても、そんな大それたもんじゃない。

 子供が突然苦手意識を持つようになるのに、目立った原因なんて必要ないのだ。


 伊豆諸島も東京都に属するらしいのだけれど、本土と天候まで一緒かと言われればそうではない。

 島の方でだけ、雨が降ることもある。

 その日も、夜遅くに突然激しい雨が降り出した。

 波が強くなり、船体が大きく揺れる。

 雷が鳴って、子供の恐怖心をさらに煽り立てる。

 恐ろしかった。

 いつか船が沈むんじゃないかと思った。

 眠れずに怯えて、年の離れた姉の腕の中で震えて、泣いた。

 船酔いが始まり、気持ち悪くなって吐いた。

 旅行の始まりは、散々なものになってしまった。


 それだけ。


 俺はその日から、雨や風といった自然現象が怖くなってしまった。

 今でもたまに雷の音を聞くと、そのときのことを思い出して船酔いに似た症状を患ったりする。

 雨の日は外に出るのを頑なに拒んだし、友達と外で遊ぶ回数も徐々に減っていった。

 学年が上がるごとに、周りのやつらがゲームに熱中し出した影響もあるのかもしれない。

 けどそれ以上に、あのトラウマの影響が大きかったんだと思う。


 だから今思えば、この異世界で風の精霊を初めて見たとき、俺は心の何処かで恐怖心を抱いていたのだろう。

 それと同時に、嬉しくもあったに違いない。


 自分の意思で大気を操ったあの瞬間、俺は、自分が自然を制御しているという錯覚に陥った。

 自然に脅かされるのではなく、俺が自然を支配する。

 そのことに、特別な愉悦感を覚えたのだ。

 そういえば、俺は昔からそうすることに憧れを抱いていた気がする。

 オタクでブラコン、というかショタコン気味だった姉がよく俺に読み聞かせくれた本があった。

 今思えばあれはライトノベルだったような気がするが、そこに出てきた主人公が、特殊な力で雨を降らせたり竜巻を起こしたりする描写を聞いて、俺は心を踊らせていた。

 姉に半ば無理矢理膝枕をされて、甘ったるい声で、中二チックな描写をぐだぐだと……

 膝枕の感覚は、そう、ちょうど今みたいな感じだ。


 首が疲れるのが難点だが、それを考慮しなければ寝心地は最高だ。

 時折寝返りを打って、こうやって、姉の腹に顔を埋めるとなお心地が良かった覚えがある。


「ん……」


「ひゃうっ! うぅ……。相手が寝ているとはいえ、この状況には女として耐え難いものが……」


 微かに漂う、甘い果実のようないい香りが鼻孔を擽ってーー

 あれ、うちの姉って、こんな匂いだったっけ?

 随分と昔の話だから記憶が曖昧だけど。

 いや、待て。落ち着いてよく考えてみろ。

 そもそも何で俺は膝枕をされているんだ?

 というかこれ、誰?


「ハッ!?」


 そこまで思考が回ったとき、俺はその場から飛び退いた。


「ひゃっ!? え? あっ、れ、澪司くん。もう大丈夫なんですか?」


 視界に映ったのは、積み重ねられた木箱に背中を預ける、智恵理の姿だった。

 ここはどうやら、馬車の中のようだ。


 ついー、と一筋の汗が頬を伝う。

 俺は今相当ラッキー、じゃなくて不味いことをしていたのではないだろうか。

 一応一学年下である女子に膝枕されて、お腹に顔を埋めた挙句匂いを嗅ぐとか。

 この行動はセクハラ、いや、もはや痴漢の領域に踏み込んでいる気がする。


「そうか、俺は遂に、変態の道へ堕ちてしまったのか……。ごめんよ、姉さん。綺麗な心を持った俺はもうこの世にはいないんだ……」


 あ、いけない。物理的にもうこの世にはいないんだった。


「えっと、どこから突っ込めばいいのか……。とにかく大丈夫そうで良かったです」


 引きつった笑みを浮かべる智恵理よそに、俺は曇った空を見つめる。


「いい、匂いだったな……」


 女の子はいい香りがするって、都市伝説じゃなかったんだ。


「遠い目して何言ってるんですか!! というか嗅いだんですか? 嗅いだんですね! ここ数日水浴びすらしていないのに!? 何でですかこの人でなし!」


「いや、そこ以外に怒るところがたくさんあるだろ……」


 真っ赤になった顔を両手で覆って、羞恥に身悶えている智恵理は、それはそれで可愛かった。


「幸せな一時を満喫できたか? 役得野郎」


 そう言われるなり、吏人に肩を乱暴に叩かれた。

 ひりひりと痛む箇所を摩りながら、俺は彼の方に向き直る。


「役得って……。そもそも状況がイマイチ呑み込めないんだけど」


「本気で言ってるのか、お前? 自分から真耶におやすみとか言っておいて」


「あっ……」


 そうだ、俺はギリーウルフたちとの戦闘中にぶっ倒れたんだった。


「狼たちは!?」


「慌てんなよ。澪司がウルフリーダーを倒してくれたおかげで、あいつらは逃げ出しやがった」


 右頬に深い爪痕を残したままの吏人が、俺に結果を伝えてくる。


「ええ、あれ以降、主だった戦闘は行われていないわ」


 と、吏人の隣に座る真耶さんが言った。

 どうやら、なんとかなったみたいだな。


「俺は、どのぐらい寝ていたんだ?」


「そうですね……もう、あれから三日になります」


「三日!?」


 智恵理の言葉に驚愕する。

 三日も飲まず食わずで眠り続けていたっていうのか。


「恐らくは魔力の枯渇が原因だろうな。俺も戦闘の後で知った話なんだが、精霊魔法以前の、召喚魔術の原理として、それを行使する術者は、被召喚物をこの世に止め続けている限り継続的に魔力を消費し続けるらしい」


 なんだよそれ。全然燃費良くないじゃないか。


「つまりお前は召喚時に加えて戦闘の最中、ずっと魔力を放出し続けていたってわけだ。

 魔術師ってのは魔力を限界近くまで使う度に、体内の魔力容量が広くなっていく。

 まだ魔力を貯蔵しておく領域の発達が未熟な澪司は、案外とすぐに限界が来ちまったってわけだな」


「なんか小難しいけど、大体理解したよ。とにかく俺は、病気なんかで倒れたわけじゃないんだな?」


「そうね。けど、最初は殆ど仮死状態みたいな感じで眠ってたのよ、篠宮」


 その間、吏人たちが来るまで武器のない状態で俺の安全を確保していてくれたと考えると、真耶さんには頭が上がらない。


「そうですよ。わたしたちがどれほど心配したことか……」


 智恵理も心配してくれたのか……

 結局俺は、皆に迷惑をかけてしまったな。


「まあ、俺はそうでもなかったけどな。前にこういうの見たことあるし」


「あたしも、眠るだけって聞いてたから、ちーちゃんほど心配はしてなかったわね」


「ええ!? なんで教えてくれなかったんですか!?」


「「だって、なぁ(ねぇ)?」」


 そう言って同時にジトッした視線を向けてくる吏人と真耶さん。


「なんだよ、二人してそんな目で俺たちを見て」


「そ、そうですよ。そんな生暖かい眼差しで見るのはやめて下さい」


「篠宮を看病するちーちゃん、健気で可愛かったなぁ……」


 そんなことを言いながら、頬に手を当ててうっとりとした表情をする真耶さんは、どこかわざとらしい。

 チラチラとこっち見てくるし。

 というか、俺を看病してくれたのって智恵理だったのか。

 でも、悲しいことに他意はないのだろう。

 彼女は持っているスキルからして救護役向きだから、ただそれだけの理由で看病役を買って出たに違いない。


「そうだな。俺が澪司を膝枕する度に、『リーダーが疲れてはいけないので代わりますよ』とか言って来てさ。あれ絶対自分がーー」


 今聞き捨てならないことを聞いたな。

 吏人が、俺を、膝枕。

 それはちょっと絵面的に心配だ……


「なっ、ななななな何の話しですか? わたしよく分からないです! 吏人くんの言ってることが理解できないなぁ?」


「さっき、お腹に顔が当たったとき恥ずかしそうにしてたけど、実は満更でもなかったんでしょ?」


 ほう、本人公認ということなら、あれは犯罪じゃないということでいいのだな。

 役得役得。


「あれはっ! あれは起こしたら可哀想だからっていう親切心からでですね!

 というか、高三が二人がかりで中三を虐めるのは酷い思います……」


 遂に涙目になってしまった智恵理を見て、先輩方が顔を見合わせる。

 確かに、少しからかい過ぎではあったかもしれない。


「まあ、なんだ? 澪司も寝てるときお前に向かって『姉ちゃん、怖いよぅ』って言ってたし。気にすんなよ」


 ガツン!


 動揺して頭を馬車の一部に叩きつける。

 まさか、寝言でそんなことを。


「吏人、君は智恵理を慰めるどころか、俺という新たな被害者を生んだな?」


「あー、脇腹痛ぇ」


 このリーダー、いい根性してるな。

 そんなことを考えながら、馬車の中を見渡す。

 この馬車は現在俺たちの集団で貸し切りになっており、乗り合わせている他人は一人もいなかった。

 都合良く馬車を拾って、以前小さな村で稼いだというお金を使って乗ることができたのだろう。

 車輪が凹凸に引っかかる度にぐらぐらと揺れて尻が痛かったが、我慢だ。

 ここにいる俺たち七人も、同じことを考えているに違いない。


 ん? 七人?


 他の皆は別の馬車か。

 そう思って、車両の外をぐるりと見渡してみるが、他の馬車はどこにも見当たらなかった。


 どういうことだろう。


「なあ、吏人」


「あん? どうした澪司」


「他のやつらはどこだ?」


 俺がそう尋ねた瞬間、皆の空気が変わった。

 誰一人として口を開かず、ただ黙って下を向いていた。


「ああ、そのことか。そーだよな。お前にも、言わなくちゃな」


 そんな中、吏人だけが口を開く。

 声音は、さっきよりもずっと穏やかだ。まるで、俺が異世界にやってきた日に、自らの過去を語ったときのような。


 俺はその時点で、だいたい察しがついてしまった。

 皆の反応があまりにも分かり易かったから。


「あいつらとはあの森で別れた。あの森の土に、埋めてきた」


「…………そうか。九人も、か」


 仲間の半数以上がやられた。

 それなのに俺は、涙一つ流れなかった。


 俺は非情なのだろうか。

 あれほど守ると息巻いていたくせに、死んでしまった仲間には何も思うところがないと。

 それとも、ただ、この現実を上手く受け止めることが出来ていないだけなのか。


「いや、九人しか、だ。ちーちゃんが来るのがあと一歩でも遅かったら、お前が頑張らなかったら、今頃俺たち皆お陀仏さ」


「それを聞いても、素直には喜べないな」


「リーダーの力不足だ。今回の戦いで、澪司が負い目に感じるべきことなんざ一つもねーよ」


「誰のせいでもないわ。あたしたちは、皆、経験が少な過ぎた。

 さっき馬車の運転手さんに聞いたんだけど、ギリーウルフは単体だと『ランク2』、つまり最下級から数えて二番目に低い脅威度を持つ魔物。

 だけど、群れとなるとそのランクが一気に『4』まで跳ね上がるそうよ。

 そこにボスまでいたとなると、狩猟生活数週間そこらの腕前でどうにかできる相手じゃなかったんだわ」


「なんで、こんなことになっちゃったんでしょう……」


 暗い雰囲気のまま、馬車は前へと進んでいく。

 だんだんと、仲間の眠る森が遠ざかっていく。

 もう後ろには引き返せないのだ。


「これ以上悔やんでても仕方ねぇ。俺たちは、失った仲間の分まで生きる。そうだろ?」


 リーダーの言葉に、俺たちはただ無言で頷いた。


 それから一夜が明けた。

 俺たちを乗せた馬車はアルガナム緑地帯、という今まで旅をしてきた場所を抜け、一つの渓谷に差し掛かる。

 ここを無事抜けることができれば、その先には栄えた街が待っているらしい。

 もうすぐ、安全地帯に到着する。

 俺が異世界に来てから、九日目のことだった。


「岩が増えてきた。そろそろだな」


「ここは鉱脈の間にある谷らしいわ。たしか、毒晶渓谷っていうみたい」


「毒晶? 変なガスが出たりとかしないんですかね、それ?」


 不安になった俺が、真耶さんに尋ねる。


「あたしも怖くなって確認したんだけれど、ガスは出ないみたいよ。触らなければ問題ないらしいわ。

 あと、色も相当毒々しいって」


 毒々しい色、か。

 それってつまり、強烈な色をしているってことだよな。

 実は宝石だったりしないのだろうか。


「別名クロコアイト渓谷、らしいです。運転手さんが言うには、ですけど」


「んで、重要なのはここからだ」


 吏人が全員の視線を集める。

 それからゆっくりと口を開いた。


「この渓谷の先に、俺たちが目指しているフロン・ティグリアっつー街がある。そこは商人や冒険者たちが集う街ということもあって、定住者じゃない人間の雇用率も高いと聞く。

 つまり、上手く行けば俺たちはこの彷徨い歩くだけの生活から脱却できる可能性があるわけだ」


 仲間たちから歓喜の声が上がる。

 俺はまだ九日、けれど他の皆はもっと長い時間をこの世界で過ごしてきている。

 そいつらにとって安全という言葉がどれほどの意味を持つのか、俺には計り知れなかった。


「まあ待てよ。手放しで喜べる程いい状況ってわけでもねぇんだ。その街に辿りつくためには、一つどうしても突破しなきゃならない問題がある」


「問題、ですか?」


 智恵理が興味あり気な表情で首を傾げる。


「レッドストーン・リザード、酸鉄亜竜、毒晶亜竜。呼び名はなんだって構わない。問題はそこではなく、この先に敵が待ち受けていて、それが竜種だってことだ」


 竜種、その言葉に空気が固まった。

 歩くキノコや、巨大な虫や、狼なんかとは比べものにならないほどの脅威。

 俺たちは今、それに向かって着々と進んでいるというのだ。


「そいつは空こそ飛べないが、強靭な肉体を持っている。それに何よりも厄介なのはーー」


 そこで言葉を切って、もう一度口を開く。


「ーーやつの鉱物化した身体に触れると、その部分が酸性の毒に侵されちまうってことだ」


「それがレッドストーン・リザード、の持っている毒ってことなのか?」


「ああ、恐らくな」


 そう言って吏人が頷く。


「この竜種は、ここら一帯の岩に含まれている毒性鉱物、紅鉛鉱を好んで食し、その紅鉛鉱に似た性質の鱗で身体全体を守っているみたいなんだ」


「そんな危ない魔物と対峙するぐらいなら、無理に街を目指す必要なんてないんじゃないですか?」


 智恵理の意見はもっともだ。

 安定を求めて危険すぎる賭けに出るより、少しでも生存率の高い道を選ぶべきなんじゃないのか。

 もちろん、たった数日しか行動していない俺が反論できるような問題じゃないってことは分かっているから、その考えを口に出す気は起きなかったけれど。


「つっても、食糧は残り少ない。道具の殆ども焼けちまった。戦力も、この先まともに戦えるのは数名程度だ。

 そんな状況で、これから先もやって行けると思うのか?」


「それは……確かにそうね。実際あたしたちは、大を切り捨てて小を生かす、そんな方法でしか生き延びることが出来なかった。こんなのがこの先もずっと続くんだとしたら、全滅するのは時間の問題よね」


 最初は三十人程で構成されていたらしい吏人のパーティも、今ではたったの七人だ。


「俺がやろうとしていることは、リターンよりもリスクの方が大きい。奴らのテリトリーに侵入したら最後、竜を避けて通ることはまず不可能だ。全員無事に街まで辿り着けることはまずないだろう。それでも、俺はこの案で行きたいと思ってる」


「街に辿り着けたとしても、住む家も頼れる相手もいないんすよね?

 なのに、リーダーはどうしてそこまで街に行くことに拘るんすか?」


 生き残った内の一人、サル顔の男子の言葉に、吏人は黙り込む。

 それから意を決したような表情で、また口を開いた。


「長い目で見れば、そっちの方が生き残れる可能性が高いからだ。そして街でどんなに惨めな暮らしを余儀なくされたとしても、生きてさえいればきっと、俺たち異邦人にだって逆転のチャンスはやって来るはずだと、そう、信じているからだ」


「逆転の……チャンス……」


 魔術師スキルを持つ無口な女子が、その言葉を反芻する。


 現状を変えるために命を賭ける、それが吏人の考えか。


「せっかく与えられた第二の人生だ。未練たらたらの俺たちだけに授けられた特権だ。

 一秒でも、一瞬でも長く生きようとして何が悪い?

 現状を打開しようとして何が悪い?

 怖いってんならこの荷車から降りればいい。いつかの俺みたいに、自分の道を探せばいいさ。

 けどこの無鉄砲なリーダーについて来る気があるんなら、一緒に竜を越えようぜ」


 俺は、引き返してからの生き方を考えてみた。

 けれど、引き返した先で得られるものなんて何もない気がした。

 結局俺は無策だった。

 具体的な案があるだけ、吏人に従った方がいいのではないか。

 そう思ったんだ。


「さあ、霧も出てきた。戻るなら今のうちだ。進むか戻るか、ここでハッキリさせようか」


 いつまでたっても、戻るという言葉は出てこなかった。

 吏人の言葉に納得したのか、それとも元より進む道は皆同じだったのか。

 俺たちは、竜に挑む方を選んだ。


「さて、もう引き返せねえよ。今のうちにたっぷり後悔して、お前らのリーダーがこの俺だったことを恨むがいいさ」


 方針は決まった。

 クロコアイト渓谷に潜む毒晶竜から逃げて、街に辿り着く。

 簡単なことじゃない。

 明日にも俺の二度目の人生は終わってしまうかもしれない。

 けれど今回はせめて、生存の道を諦めない。

 生きたくても生きることが出来なかった奴らの前で、そんなマネはしない。

 そう心に誓った。


 レッドストーン・リザードと真っ向勝負なんてできるはずがない。

 だから俺たちの作戦は、智恵理の障壁を利用しつつ逃げ切るという単純かつ無謀なものになってしまった。

 納得はいかなかったが、誰もそれ以上の作戦を思いつくことは出来なかった。


 そんな状態のまま、その瞬間がやって来た。

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