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黒歴史日記  作者: 柊柳
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[5日目]謁見


 一通りの説明を受けた俺達は、しばしの休息の後に星野さんのご両親――神霊都市ブルースターの最高責任者であらせられる王様と王妃様の謁見をする事になる。

 謁見の間にたどり着いた俺達が最初に待ち兼ねていたのは、鋭い視線の数々であった。

 騎士甲冑を着込んでいる所を見ると王族を護る役目を持っている近衛騎士の皆々様方であろうか。

 話しに訊いた通り女性のみで構成されている。その為か、彼女達の視線は俺に集まっている様な気がする。

 気がすると言うかたぶんそうなのであろう。


「さすがは80回も防衛成功した歴戦の騎士たちと言った所か。誰も彼も良い殺気をぶつけてくれる」

「感心している場合じゃないでしょ、バカ」


 久々に味わう殺気を堪能していると、横にいた木崎さんに窘められてしまった。


「その殺気にあてられて笑っている宗方君もどうかと思うけどね」


 どうやら俺はこの殺気に昂揚感を抱き、表情が緩んでしまったらしい。

 親友から若干だが戦闘狂では、と指摘された事があるけど、どうやら間違っていなかったらしいな。

 元の世界では感じる事が少ないこの肌に突き刺さる刺激はなんというか癖になってしまう。


「それで、私達はどうしていればいい訳? ミーナもいなくなってしまった事だし」


 木崎さんの言うとおり、謁見の間にいるのは俺を含めて勇者の二人のみ。

 それを見物する様に幾多の者達が存在しているが、敵意を剥きだしている者達に気軽に話しかける事など出来ない。

 王様と王妃様を呼びに行っている星野さんが戻って来るまで手持無沙汰な俺達はどうしてよいのか分からずにいた。


「……とりあえず、片膝を付いて謁見儀礼でもしておくかい?」

「それって中世の礼儀作法だよ。それでいいのかしら」


 森崎さんの指摘通り、片膝を付く儀礼は中世騎士物語でも良く見られる行為である。

 国によって礼儀作法は違うけど、大方この儀礼方法で何とかなっている。

 さすがにアジアの謁見儀礼である土下座を二人にやらせるのは色々とまずいよな。


「けど、やらないよりはマシだと思うよ。……ま、二人は勇者様だからやらなくても問題はないと思うけどね」

「そうは言ってもね。未だに実感がないと言うか、そのね」

「森崎さんが言いたい事も分かるけど、星野さん達にとっては免れない真実だからね。そろそろ自覚するべきだと思うよ」


 もっとも、そんな事を言った所で早々簡単に自覚なんて出来るはずはないか。

 俺は彼女達の後方に下がり、片膝を付いていつでも謁見に対応できる準備に入る。

 それに見習ってか知らないけど、俺の両脇に立った彼女達はあろう事か俺と同じように片膝を付いて謁見儀礼を始めるじゃないか。


「さすがにあんた一人でやらせておいて、私達が突っ立っているのはおかしいでしょ」

「確かにそうなんだけど、これが正しい作法か分からないんだよ。もしかしたらこの世界では侮辱に当たる作法かもしれないんだけど」

「あんたね。それが分かっていながら、どうしてやるかな」

「……何もしないよりかはマシかと思ったから?」

「私に聞いてどうするのよ。ほんと、聞いていたのと全然違うわね、根暗方は」


 どんな風に聞かされたのかは知らないけど、そんな事を言われてもな。

 今の俺にとってはこれこそが俺って感じだし「違う」と言われても困るんだけどな。


「ま、私はこっちの方がいいかな。宗方君、昔と比べると随分と明るくなったしね」


 明るくなった、か。そうかもしれないな。昔の俺の事を考えると、こうやって女性と満足に会話出来た記憶がない。

 これも親友のおかげと言えるかもしれない。正直に感謝の念を抱くのは癪であるが、アイツがいたからこそ今の俺がいるのは確かであろう。


「女王陛下、並びにミーナ姫のご登場です。一同、面を下げよ」


 部屋中に響く女性の声。その声を合図に騒々しかった音が一瞬に静まる。

 尻目で確認すると全員が全員、俺達と同じように膝を付いて頭を下げていた。

 どうやら俺達の礼儀作法は間違っていないらしい。ほっと胸を撫で下ろす。


「ほぉ。今回の勇者殿は実に礼儀がなっているらしいな」


 感嘆の声が背中から聞こえる。どうやら知らない間に背後に回れたらしい。

 しかし、どうやってだ。気配らしい気配は感じ取る事は出来なかった。


「お母様。[連結移動]で移動するのは控えてください、とあれほど仰いましたよね」


 次に聞き知った声が耳に届くが、彼女の気配もさっきまで感じ取る事は出来なかったはず。

 本当はすぐさま顔を上げて視線を後ろへ向けたい所であるが、状況がそれを許してはくれない。

 俺達は女王陛下が面を上げる事を許してくれない限り、いつまでもこの状況なのだ。

 だから非常に気にはなるが我慢しないといけない。忍耐力こそ日本人の美学だ。堪えるんだ、宗方晶。


「そんなこと言っていたかな? お母さん、忘れちゃったよ」


 豪快に笑い上げる女王陛下。実に豪胆なお方であるらしい。

 隣にいるであろう星野さんが困った声を上げている。


「まったくもう。勇者様達もこうして礼節に重んじているんです。お母様も少しはそれ相応の態度を示されてはいかがだと思いますが。これでは威厳もへったくれもありません」

「……いつも思うけど本当に私の娘かと疑いたいぐらい堅物だよね、ミーナ。本当に誰に似たのかね」

「お母様があまりにもだらしないからこそ、反面教師とさせていただいた結果がこれです。ほら、お母様が一言申してくださりませんと、皆さんいつまで経っても顔を上げる事が出来ませんよ」

「分かった、分かったわよ。一同、面を上げなさい」


 女王陛下のお許しが出たので全員が面を上げる。どうやらこのやり取りはいつものことらしく、ちらほらと苦笑を浮かべる者が見られる。

 しっかり者の娘さんとだらしない母親か。……よくこんな女王様で今まで防衛が出来たものだな。仕える臣下が優秀だったのかな。


「お初にお目にかかります、勇者ご一行殿。神霊都市ブルースターの為に、召喚に応じてくださった事を心より感謝致します」


 女王陛下と思われる女性が一礼する。って一礼?

 俺が「それはやばいだろ」と思った矢先、周囲が騒然とするのを感じる。

 一国の最高権力者が頭を下げるのは、彼女に使える臣下からしてみればありえない状況だ。そりゃあ、騒然となるのも不思議ではない。

 そんな重大な事態が起きているなど分かっていないのか、勇者の二人が自己紹介を始めていた。


「お初にお目にかかります、女王陛下。私は森崎四葉と言います」

「木崎みくです。女王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

「アクアヴァルキリーの森崎四葉様とサンダーヴァルキリーの木崎みく様でございます」


 女王陛下の隣に立つ星野さんが補足して紹介する。


「ほぉ。今回は水と雷の姫騎士殿が召喚に応じてくださったのか。……して、そちらの者は」


 女王陛下の視線がこちらに向けられる。ご機嫌を損なわない様に挨拶をしないとな。


「宗方晶と申します、女王陛下。理由は分かりかねますが今回の召喚の儀によって招かれた者でございます」

「なるほど、貴公がそうであったか。……ふむ」


 マジマジと見て来るな。初めて召喚された男にでも興味があるのであろう。

 品定めする様に全身を見てくる女王陛下にどう言った反応をすれば言いのか分からなかったので、とりあえず表情に出ない様に不動を貫くしか出来なかった。


「……貴公、中々面白いものを持っているようだな」

「は?」


 いきなり何を言うのであろうか。中々面白いものだと。

 女王陛下は何を思ったのか、人差し指で自身の右目を指差す。


「っ!?」


 星野さんをはじめ、両隣りにいた森崎さんと木崎さんはそれは何を意味するか分からず目を点にしている。

 知らないのは当然であろう。何せその真意を理解出来るのはこの中で俺一人しかいない。

 しかし、一目見てそれに気づいたのかこの人は。俺もまだ確認できず、使用できる分からなかったと言うのに。

 ……できるな、このお方は。


「ご慧眼お見それいたしました。まさか一目で看破されるとは思ってもおりませんでした」

「なに、そなたから面白い波長を感じたまでのこと。この様子ではまだ何も明かしていないと見えるな」

「はっ、その通りでございます。私自身、これがこの世界で使えるか分かりませんでしたので」

「……なるほどな。宗方晶殿と言ったな。そなたの力、是非ともブルースターの民の為に貸してほしい」

「はっ。勿体無きお言葉ありがとうございます」


 どうやらだらしない、と言う評価は撤回しないといけないな。

 随分と侮れないお方だ。あれはここぞと言う時に本領を発揮してくれるお方と見た。

 なんて思っていると、右から衝撃が走ってくる。

 ちょ、痛いから肘でつつくのは止めてほしんだけど。


「ちょっと、今のはどう言う意味よ」

「どう言う意味って?」

「女王陛下の言動のことよ。なに? やっぱりあんた、何か隠していたわけ」

「いや、まぁな。ちゃんと説明はするつもりだったんだぜ。そこの所は理解してほしい」

「どうだかね。四葉やミーナは信じていなさそうよ」

「……んげ」


 木崎さんに言われて森崎さんと星野さんを見やるが、二人とも「どう言う事よ」と言いたげにジト目になっておられる。


「えと、もしかしなくても俺のせい?」

「もしかしなくても宗方君のせいですね。後でしっかりと説明してもらいますからね」

「……念の為にお聞きしますが、黙秘権は――」

「あるとお思いですか?」


 ニッコリ笑みを浮かべる森崎さんだが、その笑みが非常に怖いと感じるのは何故であろう。


「諦めなさい、根暗方。四葉は隠し事とかされると、しつこいぐらい尋問をして根掘り葉掘り聞いてくるからね」

「なにそれ。森崎さんって実は隠れドSなの。鞭とか蝋燭を持って「女王様とお呼び」とか言っちゃう口なの」

「あ、うん。未だに目撃はしていないけど、もしかしたら言っているかもしれないわね。隠れドSだし」

「そうか隠れドSか」

「そう。隠れドSよ」


 そうなんだ。あの森崎さんが隠れドSね。

 人は見かけに寄らないと良く聞くが、本当だったんだな。


「あなた達、女王陛下の御前で何を言っているのかしら?」

「「……あ」」


 失念していた。俺の横に隠れドSの森崎さんがいたにも関わらず、俺と木崎さんはそんなことお構いなく話してしまった。

 聞き取れない様に小声で話したつもりだが、真っ赤になって激昂している様子を見る限りまる聞こえだったみたいだ。


「いや、別に森崎さんがドSなんて言っていないよ」

「そうよ。四葉がむっつりスケベなんて言っていないわよ」


 ちょっ。あんた、誤魔化すにしろもう少し言葉を選んでくれませんかね。

 そもそも口笛吹けていないのに吹く振りするのは止めません。

 思いっきり不信感を買っていますよ。と言うか、無茶苦茶墓穴の墓穴を掘っていますよ、あんた。


「あなた達ね」


 ほら見なさい。


「木崎さん。流石に誤魔化すにしろ、むっつりスケベはなかったんじゃないかな?」

「何を言っているのよ、根暗方。私の誤魔化し方は完璧よ。むしろ、あんたのドS発言の方がやばいでしょ」

「いやいや。ドSなのは事実だろ。それに比べてない事を公言するのは彼女の名誉の為にもどうかと思うぞ」

「甘いね。私が虚実を吐いていると? 四葉がむっつりなのは周知な事実よ。どうせ直ぐにばれるんだから、いま公にしても問題ないわ」

「なにそれマジで? ちょっとそこの話しをもう少し詳しく――」



 ――ゴチン。



 詳しい話しを追求しようとした矢先、頭上から衝撃が走る。

 旋毛辺りに走った衝撃はどうにも森崎さんの仕業らしく、力一杯込めた握り拳を作って肩を怒らしておられる。

 状況から察さなくても森崎さんからの鉄拳制裁が飛んだ事は言わなくても分かる事であった。

 彼女の鉄拳はどうにも木崎さんにも飛んでいたようで、頭上に手を回して被弾した場所をさすっている。

 痛みに弱いのか単に涙もろいのかは知らないが、その双眸に薄らと涙が溜まっていた事は指摘しないのが優しさと言うものだろうか。


「な、何するのよ。むっつり四葉。いきなり殴るなんてひどいと思わない?」

「ひどいのはどちらなんですか! な、なに宗方君にない事ない事、ありえない話しを言っているんですか」


 急遽勃発、ツリーVSフォレストってか。

 よっぽど殴られた事がショックだったのか、女王陛下の御前であるにも関わらず、俺の後ろにいる森崎さんに物申す。

 だが、詰め寄られた森崎さんも負けておらず、さっきの大人しげな彼女の印象とは裏腹に眼鏡を光らせて威嚇している。


「ちょ、ちょっと二人とも。女王陛下の御前なんだから喧嘩はほどほどにして欲しいんだけど」

「そうですよ、ミク、ヨツバ。そう言う面白い話しは私も混ぜて話すべきです」


 ……はい?


「ちょ、ちょっと姫様。そう言う冗談は時と場合を考えていただけませんか。ココ、謁見の間。厳かにしないといけない場所、OK?」

「そ、そうでした。……けど、しかし。お二人の話しは面白そうなんですもん」

「いやいや、いやいや。話しに混ざりたいのはお止めいたしませんが、時と場合を考えてください。二人も、勇者様がこんな場所で喧嘩するんじゃありません!」


 いまはシリアスシーンのはずですよ。

 なに無理矢理ドタバタシーンに移行しているんですか、あなた方は。


「「文句ならこっちに言って!」」


 お互いに指さして言わないでくださいな。なに、そのシンクロ率。

 ハモルだけならまだしも、指差すタイミングも一緒ってどんだけだよ。


「わはは。今回の勇者様は中々ユニークな方々らしいわね」


 ほら見ろ。

 女王陛下に笑われたじゃないか。

 呆れから来る失笑でない事を祈るばかりだよ。


「その、申し訳ありません。何分こう言った所に不慣れなものでした、その……」

「よいよい。下手な言い訳をしなくても結構よ。こんな程度で気にしていたら女王なんてやってられないわ」


 それは良かった。

 いつ「無礼な奴らめ」とお怒りを貰うかハラハラしたよ。


「今日は色々とあって疲れた事でしょう。この後はゆっくりと休んでいただき、明日からあなた方のお力をお貸し願いたい」


 はっ。と頭を垂れて承諾したい所なんだけど、未だに勇者様お二方は口論中。

 なんて言うか全く持って締まらないな。


「それではミーナ。お三方を部屋にご案内差し上げなさい」

「分かりました、お母様。それでは皆さん、口論とアキラさんの尋問はお部屋に移動した後で存分に行いましょう」


 ……おい待て。なに尋問って。

 ちょっと情報の開示のタイミングを計っていただけなのに、尋問はないだろ。

 別にもったいぶって隠していた訳じゃないんだよ。本当だよ。

 星野さんの言葉でようやく我に返ったのか、勇者のお二方は一時口論を中止させて立ち上がる。

 それに習って俺も立ち上がり、星野さんを先頭にして謁見の間を退出しようとするのだが。


「――ちょっと待っていただけないかな」


 今まで沈黙を保っていた外野のお一人が静止の声を上げるのであった。

 ……一気に新キャラが出ても困るんだけどな。

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