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黒歴史日記  作者: 柊柳
5/8

[4日目]これが世界設定らしいよ


「そうですね、どこから説明すればよろしいでしょうか」


 どうやって俺達を納得してくれるのか、思考を巡らす星野さん。

 俺達からしてみれば、数えきれない疑問があるからどこから話してもらっても構わないのだけど、出来ればわかりやすく説明して欲しいものだ。


「まずは、どうして私達の様な勇者が必要なのかお話ししてくださいませんか?」


 森崎さんが提案する。

 主役は彼女達なのだから、一番気になる点であろう。


「そうですね、まずはそこからお話しいたしましょうか」


 頷き、星野さんは勇者が必要な経緯を話し始めた。


「皆さんの世界では、人間以外の人種は存在いたしますか?」

「人間以外の人種? さっきの彼女達みたいにエルフとかそう言った類の?」

「そうです、ミク。この世界には多種様々な人種がおります」

「それはエミリアさんを見れば大体予想がつくけど、それと今の会話に繋がりがあるの?」

「大ありです。あなた方が戦って貰う敵は人間以外の人種なのですから」


 俺達三人は言葉を失う。

 つまりと言うか、異世界テンプレよろしくの魔物や魔獣、魔族と戦う訳ではないらしい。

 普通のファンタジーでは仲間になるであろう人間以外の人種と戦えとは、また斬新なお願いだな。


「あの、どうして人間以外の人種と戦わねければいけないのですか?」

「簡単に説明すると、私達人間は劣等種として数多の種族の奴隷として扱われていました」

「ど、奴隷?」

「そうです、ヨツバ。二百数年間、私達人間はエルフを代表にドワーフ、獣人その他諸々種族の奴隷として生きる事を強いられ、それはその口には言えない扱いをさせられていました」


 星野さんが言うには、人間は他の種族よりも力がない為に愛玩動物として飼われる事を強いられていたようだ。


「なるほど。それを解放してくれたのが星野恵美、初代勇者様だったのですね」

「本当にアキラさんは聡明な方ですね。その通りです。私達人間を解放して独立させてくれたのが、初代勇者である星野恵美様でした」

「今までの会話を読み取れば安易に想像できる。しかし分からないな」

「何がですか?」

「先ほど星野さんは「初代勇者様はこの世界を守ってくれた」と言っていたから俺はてっきり別の何かと戦うのか、と思ったんだけど」


 今までの会話を総合すると、色々と辻褄が合わない気がする。

 それは彼女の頭の悪さゆえか、はたまた俺達にウソの情報を流しているのかのどちらかになるのだろうが。


「別の何か、と言われてアキラさんが何を想像しているかは分かりませんが、初代勇者星野恵美は全種族の神仏を相手に戦い勝利を掴んだとされています」

「全種族の神仏?」

「はい。私達も良くは知らないのですが、彼ら達が崇めている神様だと思います。初代勇者様は彼らから勝利を勝ち取り、私達人間の世界を御守りしてくださったのです」

「神様、ねぇ。それはまた壮大なお話しな事だ」


 その一言に尽きる。いきなり神様がどうのこうのと言われてもあまりピンとこない。

 それは勇者である二人も同じだったようだ。


「それで、私達はどうすればいいわけ? まさか、多種族の者を殲滅するまで帰れない、なんて言わないよね」

「そんな事を言うつもりは全くないわよ、ミク。ヨツバも嫌なら、直ぐに言ってください。私が責任を持ってあなた方を元の世界に戻します」


 それはつまり、この場で「帰りたい」と言えば帰る事が可能なのだろうか。


「いいのか、そんな事を言っても。今のは星野さん達を不利にする情報だぞ」

「構いません。私達も強制的に手伝って貰おうとは思っております」


 ふむ。強制的に召喚させておいて、強制的に手伝って貰おうと思っていないか。

 言葉と言動に矛盾を感じずにを得ないけど、下手に指摘しても意味をなさないかな。


「分かった。話しの腰を折って悪かった。それでこちらの勝利条件とは?」

「……100回、神霊都市ブルースターの死守です」


 ……は?


「悪い。もう一回言ってくれないかな」

「100回、神霊都市ブルースターを死守すれば私達人間族の勝利です」

「なんだ、そのでたらめな勝利条件。100回死守せよ? たとえこの国が難攻不落であったとしても限度があるぞ」

「け、けど代々の勇者様が頑張ってくれたおかげで、80回守り続ける事が出来ました。あと20回守り続ければ私達の勝利、すなわち独立が可能なのです」

「だからと言って……。だいたい、たとえ守り続けたとしても、本当に独立を許してくれるのか?」

「それは……。初代勇者と多種族の神が交わした誓約。護ってくださると信じています」

「……滅茶苦茶だ」


 なんで初代勇者はこんな不可能に近い誓約を交わしたんだ。今まで守り通してきた事ですら奇跡に近いのに。

 護りきる算段でもあったのであろうか。……そんなのがあるならば数多の勇者を召喚し続けないか。


「だとさ。選択権はこちらに与えてくれるようだぞ。どうするんだい?」

「どうするんだいって言われても、ここまで聞いて「ノー」って言えるほど捻くれているつもりはないけど、私は」


 しれっと答える木崎さん。

 その答えに俺は正直、意外だなと思ってしまった。


「なによ。もしかして意外だな、と思っているのかしら?」

「ご明察。さっきまで警察どうこう言っていた人とは思えない台詞だったから」

「逆に問うけど、根暗方は今のを聞いて「帰る」って言える人なのかしら?」

「それは俺を挑発しているのか? んな事されなくても俺の答えは「残留」だ。勇者ではないが、可能な限り力を貸すつもりだ」

「あら、随分と男らしい発言だこと。もしかしてミーナに惚れたのかな? 可愛いものね、ミーナは」

「可愛いのは認めるが、惚れる惚れないは別問題だろ。ほら、星野さんが困っているからそう言う冗談は控えてくれよ」


 赤面して顔を伏せちゃったじゃないか。

 あわわ、といかにも困った声を上げているし。


「……それで、森崎さんはどうする訳? 木崎さんは残留するみたいだが」

「えっと、私も残ります。みくちゃんも心配だし、それに私達を頼りにしている方々を突き放す事はしたくありませんし」

「いいのかい? 戦争の手助けをしろと言われているんだぞ」

「そうですね。正直、どこまでいけるか分かりませんけど――ダメになりそうだったら、護ってくれますよね?」


 きっと今の俺は目を丸くしているであろう。

 いやはや、まさかこの世界の勇者様に「護ってくれますよね?」と言われるとは思わなんだ。


「おいおい、俺は森崎さん達みたいに選ばれた勇者じゃないぞ。普通逆だろ」

「そうかな。今までの宗方君を見ていると、どうにもこの事態に慣れている節があるみたいだから何となく大丈夫かなと思ったんだけど」


 ……へぇ。

 まさか森崎さんからそんな指摘をされると思ってもみなかったな。


「そうね。召喚されてから慌てた様子もなかったし、ドア越しから殺気を感じるなんて普通は無理なんじゃない?」


 思い出したように木崎さんが疑問に感じていた事を言ってくる。


「そうなんですか? 私達の世界では一流の戦士、または騎士は相手の殺気を感じ取れます。だから宗方さんのあの言動に感心していたんですが」


 三人の視線が俺に集まる。明らかに自分の疑問による回答を求める、といった感じだ。

 んと、答えるのはやぶさかではないんだが下手に期待感を抱かせて、あとでがっかりさせたくもないんだけどな。

 ここは俺の存在がどれだけ有効利用できるか確かめてから説明しても遅くはないであろう。


「……ま、俺の事なんていいじゃないか。そんな事より、これから王様と王妃様に謁見するんだろ。その席に俺も出席していいのかい?」

「あからさまに話しを変えましたね。まぁ、いいですけど。さっきの謁見の話しですが、もちろんのことアキラさんにも出席してもらいます」

「やっぱりか。そこで星野さんに確認したいんだけど、謁見の礼儀作法とかってどんなの? 一応確認したいんだが」

「礼儀作法ですか?」

「そうそう。勇者じゃない俺がお偉いさんと謁見するんだ。いくら異界の者であっても、正しい作法で拝謁賜りたいじゃないか」

「えっと、その……」


 なんか少し面を食らったご様子。

 今の俺の言葉に面を食らうような言葉があったであろうか。


「あの、ミク、ヨツバ。あなた方の世界の方って礼儀作法を重んじる人達なんですか?」

「ミーナの言葉の意味が少し分からないけど……まぁ、年輩の人には礼節を重んじろとは教わったかな」

「宗方君みたいに謁見の作法を気にする人は少ないですけどね」


 苦笑しながら答える二人。

 そんな反応をされてるとは思ってもみなかったので、思わず問い返してしまった。


「えっと、今までの歴代勇者さん達は、王族のあなた方にどんな謁見をしていたんだい?」

「そうですね。素直に快諾してくださった勇者様は少なかったとらしいです。中には「助けてやるから報酬を寄越せ」とか言う人もいたと聞きます」


 うわぁ……。ドン引きなんですけど。

 いくら勇者に選ばれた人間だからと言って、その対応はどうなのよ。

 確かに強制的に呼ばれて「私達の為に戦え」と言われれば二つ返事で返す奴は少ないと思うが、仮にも一国の王族に対してその態度はいかがなものか。

 バカなの。アホであらせられるのそいつらは。

 いくら特殊な力を持ったチート野郎だったとしても、国が本気を出せば人一人亡き者にする事など楽勝なのに。


「ですから、礼儀作法を問われて少し驚いてしまいました。その、ごめんなさい」

「星野さんが謝る所じゃないだろ?」

「そう言って下さると嬉しいです。それで、さっきの質問ですが基本的に作法は気にしないでください」

「いいのかい? 異界の者だからと言って、仮にも平民と同列の立場の人間だぞ、俺は」

「大丈夫です。その……。異界の者は礼節を知らない、と言うのが私達王族の共通概念でしたし」


 はにかむ星野さんの言葉に呆れを通り越して殺意が芽生える。

 ……とりあえず、そんな勇者様を今度見かけたら問答無用でぶん殴ろうと心に決めたのであった。

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