表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒歴史日記  作者: 柊柳
4/8

[3日目]早く本題に入ろうよ


「……まったく、エミリアの男嫌いも困ったものかしら」


 エミリアさんに淹れてもらった紅茶を一口つけた後、ため息交じりに愚痴をこぼす星野さん。

 それを見てか、申し訳なさそうに森崎さんの言う。


「ごめんなさいね、星野さん。私達、星野さんの立場に気づいていたのに」

「そうね。早めに確認して姫様って呼ぶべきだったわね」


 先のいざこいを思い出しているのか、二人の表情が暗い。

 本人が気にしていないって言っているんだからそこまで気にする必要はないと思うんだが、根っから優しいのだろう。

 未だに自分の無礼を引きずっているらしい。


「二人が気にする必要はないだろう。二人は勇者様なんだから。あれは俺が気にしないといけないことだっただけだ」

「宗方様もですよ。先ほども言ったようにお気になさらないでください」

「そう言ってくださるのは大変うれしいのですが、メイド大隊さん方は確実に俺を、と言うより男を嫌っています」

「そうですね。彼女達の成立ちを考えれば当然なことなんですが、まさかあそこまで酷いとは思いませんでした」

「察するにメイド大隊は混血種でまとめられた部隊のようですね。メイドは混血種でないといけない決まりがあるのですか?」

「そう言う訳ではないんですけど。あの……。どうして、メイド大隊が混血種のみの部隊だと分かったんですか?」

「簡単なことですよ。どうもメイドの皆さんが、俺の事を嫌っている節がありますからね。今も、ドアの外から殺気がビンビン伝わってきますし」

「っ!?」


 勢い良く立ち上がり、右手を横に払った。

 彼女の右手に連動してか、閉じていた扉がひとりでに開いたのであった。

 扉越しで聞き耳でも立てていたのであろう。数人のメイド達が扉が開くと同時に雪崩れ込んで来る。


「いたたたた」

「な、何でばれたの?」

「おのれ、男風情が」

「そんなことより、早くどいて。おもいぃ」


 女性が三人集まれば姦しいとよく言うけど、四人以上集まると騒がしいの一言だな。


「あなた達! こんな所でなにをしているわけ!?」


 星野さんのお叱りの声が飛ぶ。

 彼女の激昂に慌てて反応した四人のメイドさん達は、慌てて整列したのであった。


「も、申し訳ありません姫様」

「私達は決して疚しい思いがある訳じゃなくってでしてね」

「姫様を護るために必要なことです」

「姫様の貞操を護るためなんです」


 四人とも好き放題言ってくれる。

 まるで俺が性欲魔人だと勘違いしていないか。


「たはは。人気者はつらいものですね。やはり――」

「宗方様。それ以上繰り返しますと怒りますよ」


 自己的に退散を口ずさもうとしたところ、星野さんによって遮られてしまう。

 その声に怒気が含まれている為、俺は「了解」と簡潔に答えるしかなかった。

 俺の言葉に満足したのか「よろしい」と頷くと、今度は乱入したメイドさん方に視線を向ける。


「さて、あなた達。私は言いましたよね。お客様に粗相がないようにって」

「姫様、しかし――」

「しかしもへったくれもありません。今度こんな事をしたら減給扱いにしますからね」


 有無も言わせない星野さんの言葉にメイドさん達は、ただただ「畏まりました」と言うしかなったようだ。

 脱兎の如く部屋から抜け出したメイドさん達を見送り、星野さんは同じ様に右手で払う動作をした。


「大変失礼いたしました、宗方様」

「あぁ気にしないでください。しかし凄いですね。今のが[神技]なのですか?」

「あ、はい。っと言っても今のは初歩の初歩である[念動力]にしか過ぎないのですが」


 念動力か。

 神技って聞いてもしやと思ったけど、この世界ではファンタジーの代表的なファクターである魔法と言う概念を別の言葉で呼んでいる訳ではないらしいな。


「何かファンタジーの世界ですね。魔法って概念がないだけで」

「今さらそれを言うの、四葉。私はもう何度もファンタジー感を感じさせられているわよ」

「さっきから「コスプレ」って言いながら驚いていたもんね」

「あれはそう言うしかなかったじゃないの。私達があんなファンタジーを見られるのって空想の中だけよ」

「そうだったの? 私はてっきり――」


 てっきり?

 森崎さんが言葉を紡ぐよりも早く、木崎さんが彼女の口を塞いだ。


「四葉。それ以上変な事を言ったら怒るよ」

「みくちゃん、怖いよ怖い。冗談なんだから」

「四葉はいつも突拍子もない事言って私を困らすから、本当に困りもんよね」


 和気あいあいと会話を楽しむ二人。召喚されてから一時間も経っていないと思うのに、よく二人は平然としているな。

 肝が据わっていると言うか、楽天的と言うか。友人と一緒に召喚された事がでかいのかな。

 羨ましい限りである。


「――二人とも話しが脱線しているからな。星野さんが説明しにくいだろう」


 本当に頼むよ、お二人さん。さっきから色々と話しが進んでいなくって未だに本題に入っていないんだよ。

 そろそろ本題を聞いて、今後の身の振り方を考えなくてはいけないの。


「あ、ごめんなさい。姫様」

「星野さんのままでいいですよ、森崎様」

「それなら、私も森崎でいいですよ。様付けされるほど偉くもありませんので」

「そんな、勇者様の一人であらせる森崎様を呼び捨てする事なんてできません」

「それならば、私も姫様を星野さんってお呼びする事は出来ません。そうよね、みくちゃん」


 話しの矛先が木崎さんに向けられる。

 木崎さんも森崎さんの意見に賛成らしく「そうね」と頷いて話しを続けた。


「私達だけ様付けで呼ばれるのは流石にちょっとね」

「そんな、木崎様。そんなこと気にしないでくださればいいのに」

「それが気になるから言っているのよ。そこで、ファーストネームで呼び合わない? 私達はミーナって呼ぶからミーナは私をみく、四葉を四葉と呼ぶ事で良いわね?」

「その私達に俺も入っているのかい、木崎さん」


 さすがに会って間もない女性のファーストネームを呼ぶのは恥かしいのだが。


「んな訳ないでしょ、根暗方。あんたに「みく」なんて呼ばれたら虫唾が走るわ」


 そこでなんで俺が木崎さん達の下の名前を呼ぶ話しになっているんだよ。

 会話の流れを考えても星野さんが俺の事を「晶」って呼ばせる話じゃなかったのかい。


「え、そっち? まぁ、いいけどな。出来れば俺もさっきみたいに宗方さんがいいかな。もちろん敬語もなしで話してくれると嬉しいな」

「しかし、そんな失礼なことは――」

「いいんだよ。むしろ俺達の世界ではそれが普通だし。二人ともそれでいいよな」


 二人に話しを促すと異口同音に賛成した。

 始めは渋っていた星野さんであったが、数的不利なこの状況で覆す事は出来ないと悟ったのか、俺達のお願いを快く受け取ってくれたのであった。


「分かったわ。ヨツバ、ミク。そしてアキラさん。これでいいかしら?」


 口調がさっきよりも柔らかいものに変わる。先ほどと違ってフランクなものになっているし、これが彼女の素の喋り方なのであろう。

 二人は自分達の要求が通って微笑み、星野さんに向かって「それでいいよ、ミーナ」とはにかんでいる。


「えっと、さすがに俺をアキラと呼ぶのはいささか問題があるんじゃないか?」


 いや、同年代ぐらいの女性に名前を呼ばれるのが嫌いな訳ではないのだが。

 仮にも一国の姫君が勇者でもないどこぞの馬の骨の男のファーストネームを呼ぶのはどうなんだろうか。


「あら? アキラさんが遠慮なく話せと言ったから話しているのに、それはないんじゃないのかしら」

「そうよ、根暗方。よかったわね。こんな可愛い女の子に名前を呼んでもらえて」

「不平不満があるならば、宗方君もミーナちゃんの事をミーナ、って呼べばいいんだと思うよ」


 三者三様で言いたい放題言ってくれる。

 女性に口で勝てる訳がない、か。よく親友が女性と口論しても負けるだけだからやめておけ、と言われていたがそうなんだろうな。

 このまま下手に長続きしてしまうと、ますます不利な状況になりかねないな。


「了解。俺は姫様の事を星野さんって呼び続けるからな」

「別にアキラさんもミーナって呼び捨てして構わないのよ」

「勘弁してくれ、星野さん。そんな所をイーグレットさんに見られた際は、俺がどうなるか目に見えて明らかじゃないか」


 良くて半殺し。悪くて九割九分殺しって所か。

 どちらにしろ、地獄を垣間見るのは免れない。

 俺は軽く咳払いを行い、この流れを変える為に出来るだけ表情を強張らせて言う事にする。


「……さて、お互いに緊張も解けたご様子だし、そろそろ本題に入っていただけないであろうか、星野さん」




――――――――――――――――――――




 木崎みくをようやく宥める事に成功した晶は、今度の休みに遊ぶ約束を交わす事でどうにか解放してもらう事が出来た。

 身を隠しているであろうエリオットを見つけるのは困難の一言であるのだが、それでも晶は諦める事無く彼女の捜索にあたっている。


「……全く、アイツはどこに行ったんだ? この際、誰かに聞いた方がいいのかもしれないか」


 自力で何とか探し当て日記帳もろとも黙殺させたかったのだが、どうにもそれも難しい様子。

 背に腹は代えられない、と言う事で次に会った人物にエリオットの居場所を問う事を心に決める晶であった。


「あれ? 晶君? どうしたの、こんな時間に」


 どうやら今回の晶は運が良かった。覚悟を決めてからであったのは、比較的温厚な森崎四葉であった。


「やぁ、四葉さん。こんな所で何をやっているの?」


 軽く手を挙げて挨拶を交わす。

 彼女も晶以上に仕事に追われていたはず。


「何をって、あなたは仕事にのめり込むと満足に食事もとらないじゃない。まさか、私が毎日お食事を運んでいる事すら知らなかった、って言わないよね」

「え、え? そ、そうだっけ?」


 そう言えば、いつの間にか食事が運ばれ、食べ終わった食器が運ばれている事を思い出す。

 晶は「そうなんだ?」と声を上げて、己が墓穴を掘る最大の言葉を言った事に後で気づく事になる。


「あれって四葉さんがやってくれていたんだ。ほんといつもありがとうね……あっ」

「やはり、ですか。あのね、晶君この際言いたい事があるんだけどいいかしら?」

「ど、どうぞ」

「いくらあなたにしか出来ない仕事があるからと言って、働きすぎもいい所よ。ここ最近満足に睡眠もとっている? とっていないでしょ。ミーナが心配するからやめてってあれほど言ったのに、あなたと言えば――」

「わ、分かったから四葉さん。大変反省しておりますから、取り合わず俺の話しを」

「いーえ。あなたの話しを聞いても私の腹の虫が収まる訳がありません。折角の機会です。一緒に食事を取りながら、今後のスケジュールを確認しましょう。さぞかし仕事一色の素晴らしいスケジュール何でしょうね」

「はい? どうしてそこで俺のスケジュール確認が? ちょ、四葉さん腕を引っ張らないでください、四葉さん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ