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黒歴史日記  作者: 柊柳
3/8

[2日目]お呼びじゃないらしいよ


 もはや、今日だけで数え切れないほど驚かせてしまった。

 星野さんの「付き人か臣下」の言葉に胸中でノリツッコミしてしまった。

 まぁ、なんて言うかね。そう言う役割に回されるのは別に構わないんだけど、最初から自分が勇者でないと申告されるのはきついものがあるな。

 ……彼女達と同じように変身しないといけない、と言われたら御免被るが。


「……あ、もしかして違っていたんですか?」


 俺の表情を見て推測したのだろう。

 自分が飛んだ思い込みをしている事に気づいた星野さんは慌てて謝罪を始める。


「ご、ごめんなさい。この召還の儀に男の人が召還されるなんて前例がないもので」

「つまり、この世界の勇者様は基本的に女性だと言うわけですね?」

「はい、仰るとおり。詳しい話しはまた後日お話しさせていただきますが、この世界は女性しか[神技]を使えません」

「なるほど。神技が何かは分かりませんが要約すると特殊な力は女性しか発現出来ない。故に男性が勇者になることはありえない、と言う訳ですね」

「慧眼お見それ致しました。仰るとおり、この世界は女性しか戦う力を持っておりません。だからこそ――」


 星野さんは俺の後、性格には変身したショックで狼狽している二人、森崎さんと木崎さんへ視線を向ける。


「私たち、神霊都市ブルースターの民の為に、あなた方のお力がどうしても必要なのです。どうか、私達にあなた方のお力をお貸し願えませんでしょうか」


 深く腰を曲げて頼み込む星野さん。

 恐らく国の重要人であろうお方がこうも易々と頭を下げるのはいただけないと思うのだが、周囲に人はいないみたいだし大丈夫かな。


「そんなこと言われましても」

「そうよ。大体、私たちの力が必要って一体何をさせるつもりなのよ」


 困る森崎さんに敵意むき出しの木崎さん。

 彼女達の反応は至極当然のことだが、だからと言ってここで傍観しても話しは進まない。

 勇者の付き人又は臣下らしく、ここは俺がフォローいたしますかね。


「確かに、木崎さんのご指摘はもっともかな。あなた方は彼女達を勇者に迎えて何をさせるおつもりで?」

「そうでしたね。あなた方には色々とご説明しないといけない事が山ほどあります。立ち話もなんですしお茶を飲みながらなんていかがでしょう」


 情報が必要な俺達にとっては、星野さんの申し出はありがたいことである。

 けど、彼女の申し出に俺は含まれているんだろうか。なんてたって、俺は勇者ではないんだからな。


「そのお話しというのは、俺も参加してよろしいんですよね」

「もちろんです、宗方様。あなたは異界の男性です。きっと、あなたにしか出来ない事があってこの世界に呼ばれたのだと私は信じております」


 ……やばい。思わず涙が出そうになってしまった。

 普通ならばお前は必要ないから用なしだ、と言われても不思議ではないのにそんな優しい言葉をかけてくれるなんて。

 ロリ巨乳で可愛くてしかも性格がいいなんて、なんて女性なんだろう。状況が状況じゃなかったら盛大にアピールしているところなんだけどな。


「……宗方君ってああいう子が好みなんだね」

「私達が困っているのに、あんたはなに鼻の下を伸ばしているのよ」


 後からお二人の非難声が聞こえる。見ていないから分からないけど、きっと二人はジと目で俺を睨んでいることであろう。

 変身姿で睨まれてもちっとも怖いと感じないかも知れないけどな。

 だけど、このまま二人のご機嫌を損ねては色々と支障が出てくるだろう。

 ここは一つご機嫌を取っておくのが得策かな。

 二人の方へ振り向き、俺は親指を立たせて一言告げる。


「二人もとても似合っているよ。ナイス変身」


 このとき、サムズアップも忘れない。日頃丁寧にケアしている白い歯を見せて、イケメン度も増しておこう。


「そ、そうでしょうか。こう言うのは初めてなんで、あの……。そんなに似合っています」

「もちろんだよ、森崎さん。特に眼鏡を外したキミはさっきの雰囲気と違って大人に見えるよ。うん、いいものを見せてもらった」

「そんな。おだてたって何も出てきませんよ」


 よし、効果あり。

 俺のキャラではないが、女性はとにかく褒めておけと言われた親友のアドバイスは絶大だな。


「四葉、そんな言葉を真に受けないの。アンタも行方不明になってから少し性格が変わったんじゃない?」


 対する木崎さんは俺の言葉など真に受ける事はせず、ほほを赤らめて照れる森崎さんをたしなめる。

 まぁ、木崎さんはこう言う言葉を送っても動揺しないと思ったけど、少しぐらい照れてもいいのにな。可愛いのに。


「って、行方不明?」


 何気に放たれた木崎さんの言葉を繰り返す。

 その言葉に正気に戻った森崎さんが「そうだった」と思い出したように問い詰めてくる。


「宗方君。あなたこの三日間どこに行っていたの? 学校にも警察が来て大変だったんだからね」

「三日間? えっと、森崎さんがなにを仰りたいのか、俺には理解に苦しむんですが」


 警察騒ぎになるような愚考を働く度胸は当時の俺にはなかったはずなんだけどな。

 そもそも行方不明って言われてるし、となると考えられる事はひとつしかないかな。


「は? あんた、突拍子もなく消えたって結構な事件になったのよ。普通に学校に行った息子が帰って来ないって親御さんも心配していたのよ」


 親御さん。この場合、俺の母さんと父さんか。

 そうか、あっちでは俺が行ってから三日間も経っていたのか。この場合、三日間しかと言うのが妥当かも知れないが。

 もう長く会っていないけど元気にしているであろうか。俺のこといなくなってせいせいしていると思っていたんだけどな。


「あ、あぁ。ちょっと今の自分を変えよと自分探しに行っていたんだよ。ほら、俺って根暗方って呼ばれていたじゃない? そんな自分を変えようと小旅行に行っていたんだよ」


 嘘ではない。あの時の自分が嫌で自分を変えたくて家出を慣行しようとしたことは本当だ。

 それに小旅行だって嘘ではない。ただ、場所が場所なだけだから。


「はぁ? 自分探し? 今時自分探しする奴なんて始めてみたわよ。それで聞いていたよりも性格が違った訳なのね」

「さっきから、木崎さんは誰からか俺のことを聞き及んでいた風に感じますが、一体誰からお聞きしたので?」


 俺が目の前のツインテール少女、木崎さんとこうして会話することはおろか、対面することだって始めてのはず。

 しかし、彼女は俺の事を知っているそぶりが見られる。


「それは……。いいでしょ、そんなこと。それよりも、星野さんだっけ? これ、元に戻せないわけ?」


 一度口を開かせて、隣にいる森崎さんを見て口を閉ざす。これはどう考えても森崎さんから俺の事を聞いたと考えるべきだな。

 大方、根暗な俺が周りから色々と言われていたと同情心でも抱いてくれたのであろう。本当の事は定かでないが。


「え? あ、はい。うれしさの余りに忘れていました。そうですね、戦闘飾でお茶をするのもおかしいですよね」


 自分の服装が変身後の服装である事を忘れていたらしい。それほどまで彼女達勇者が出現した事に喜びを感じていたのであろう。

 星野さんは「すみません」と軽く謝罪して、戦闘飾の解除方を告げる。


「解除方法は至って簡単です。頭の中で「戻れ」と念じればいいのです」

「出来ればそれを早く言って欲しかったものです」


 疲れた声で森崎さんが非難声を上げる。直後、二人の姿が制服姿へ戻った。

 正直なところ、変身後の姿の方が俺としては目の保養になるのだが、この点は仕方が無いであろう。


「それでは、お三方。どうぞ、こちらへ。お茶の後、私の両親並び臣下の者達をご紹介いたします」


――――――――――――――――――――――


 とある一室に招かれた俺達は、待ち受けた者達によって目を奪われることとなる。


「お帰りなさいませ、姫様」


 部屋の扉を開くと、そこに待っていたのはメイドさん達であった。

 それだけなら別段と驚く事ではないのだが、問題はその容姿と数にあった。


「なにこれ。コスプレ大会?」

「木崎さん。さっきからそれしか言っていない? まぁ、気持ちは分からなくもないですが」


 彼女がそんな感想を抱くのは無理もないかもな。

 俺達の世界では絶対にありえないものが彼女達にはついているのだから。


「ご紹介いたしますね。私の身の回りのお世話をして下さる近衛メイド隊です。何かお困りがありましたら彼女達に遠慮なくお申し付けください」


 近衛メイド隊。メイドに隊なんて呼称付けるなんて、一体どれだけの人数を召し使えているんだ。


「あの、皆さん。角やら翼を生やしていますけど……」

「森崎様の世界では彼女達のような方々はいませんでしたか? とっても可愛いですよね」

「え、えぇ。皆さんとっても綺麗な方だと思います」


 遠慮がちに彼女達を褒める森崎さん。少し引き気味に感じるのは彼女達の容姿が原因なのだろう。

 そんな森崎さんの態度など気にした素振りもなく、星野さんはメイドさん方に話し始める。


「皆さん、遠路遥々私達の為に来てくださった勇者様達です。粗相がないようにお願いいたしますね」

「はい、姫様」


 綺麗に声を合わせて頭を下げるメイドさん達。

 合図した訳もなく綺麗に流れる動作は訓練の賜物か、彼女達のクォリティーの高さを感じさせられる。

 そんな中、一歩前に進んで俺達の前に歩み寄るメイドさんがいた。


「彼女が近衛メイド隊を率いる連隊長のエミリア・イーグレットです。彼女が入れた紅茶は絶品なんですよ」

「ご紹介に預かりましたエミリア・イーグレットです。勇者様方のお世話が出来る事を大変喜ばしく思います。どうぞお見知りおきを」


 一礼し、お辞儀するエミリアさんに二人は「よろしく」と告げるだけ。

 どうにも二人は、彼女の尖った耳が気になるご様子であった。


「失礼を承知でお尋ねいたしますが、エルフ族のお方とお見受けいたします」


 二人とも気になっているようなので、俺が彼女達の気持ちを代弁して尋ねる事にした。



 ――キッ。



「左様でございます。具体的に申し上げますと、私はハーフエルフの娘です」


 ……あれ?

 気のせいだったかな。

 今一瞬、彼女に睨まれた気がするんだが。


「あの、宗方君。ハーフエルフってなに?」


 中々解答に困る質問が森崎さんから来てしまった。

 どう答えるべきか困っていると、当の本人であるエミリアさんが答えてくれた。


「人間とエルフの混血種を俗称してハーフエルフと呼称付けられています」


 俗称ときたか。

 この世界では混血種はどうにも歓迎されない立場にいるらしい。


「もう、エミリア。混血種のどこがいけないのよ。こんなに可愛いのに」

「そう言ってくださるのは姫様だけです。私たち混血種は姫様がいるからこそ、こうして幸せに暮らせるのですよ」

「そんなことないよ。あなた達が可愛いってみんなが知っているもの。きっと、素敵な王子様が迎えに来てくれるわ」

「あいにくですが、私は男なんかに興味はありません。私は一生、姫様のお世話が出来ればそれが生きがいでございます」


 男と言ったとたん、俺の方を親の敵を見たかのように睨んでくる。

 どうにもこうにも俺は彼女に嫌われているようだ。ここまであからさまに敵意を向けられると嫌でも分かるぞ。


「……星野さん。やはり俺は退出した方がいいみたいだね。男嫌いな彼女達の傍にいたら、彼女達の衛生面が――」


 刹那。首筋に冷たいものが触れる。

 一瞬の出来事だったので完全に視認する事は出来なかったが、メイド隊の数人が俺を囲むようにして首筋にあるものを突き出していた。

 首筋に当たるものはレイピアのような刀身が細い剣であった。どうにも俺は彼女達の琴線に触れるようなことを言ってしまったらしい。


「ちょ、ちょっと。なにをしているのよ!」


 慌てて近寄ろうとする木崎さんを手で制止させ、この大隊を統率しているエミリアさんい問いかける。


「……イーグレットさん。これは何の真似で?」

「黙れ痴れ者が。お前のような男が、姫様を軽々しく呼ぶんじゃない」


 あぁ、なるほど。そう言うことでしたか。


「ちょっと、エミリア。宗方様になんて事をするのよ、直ちにやめなさい」

「いくら姫様でもそれだけは承服しかねます。こやつは、姫様のことを星野と呼んだのですよ」

「そんなことで……。それに、宗像様達にはまだ私の正体を明かしておりません。彼が星野と呼ぶのは至極当然でしょ」

「いえ、姫様。こやつは姫様が姫様であることに気づいておりました。それは先ほどの態度で分かります」

「……え? そうなの??」


 まるで今まで気づかれていない、と言わんげだなその表情は。

 今までの会話をまとめれば誰だって気づくだろうに。

 俺は首を縦に振って、首肯の意を示した。


「え、え? だって、私って自分でお姫様なんだよって言っていないよ? 何で分かったの?」


 何でって言われても……。

 このお姫様ってもしかして頭が弱い子なのか。

 脳にいく養分の全てが胸に吸収されたんだろか。


「あの……。すみません、私も気づいていました」


 森崎さんの告白に星野さん驚愕。


「むしろ、自分で王族だって言っていたのに、それはまずいんじゃないかしら?」


 さらに木崎さんの言葉で尚びっくりする星野さん。


「え、え? なんで、どうして??」


 どうしてって、言われてもね。

 俺達三人は苦笑するしかなかった。

 先ほどまで可憐な少女と思っていたのだが、どうにもこのお姫様は頭の回転が非常に鈍いらしい。


「ご自身で仰っていましたよね。王家は星野って名乗る事になっているって」

「……あ」


 どうやら思い出してくれたご様子だ。

 そこで初めて自分が間抜けな事を言っていた事に気づいたらしく、顔が林檎のように真っ赤になってしまっている。


「だったらなぜ、貴様は姫様を姫様と呼ばない」


 それは彼女の方に一理あるか。


「確かにイーグレットさんの言うとおりだね。これは完全にこちらの落ち度だ、大変申し訳ない」

「そんな謝罪でよいと思っているのか! ちゃんと膝をついて頭を垂れろ」

「無茶言わないでくれよ。首に剣を突き付けられているのに、どうやってやれっていうんだよ」

「貴様、よっぽど死にたいようだな」


 いや無茶苦茶じゃない、その対応は。ここは剣をどかして謝罪を促す場面でしょ。

 こんな状態でどうやってエミリアさんが言ったように頭を垂らせばいいんだよ。


「ちょ、ちょっと待って、エミリア。あなたがそんな風に怒ってくれるのはうれしいけど、彼は私のお客様よ」

「しかし姫様」

「何度も言わせないで、エミリア。彼は私のお客様よ。先ほど言った言葉、まさかもう忘れたとでも?」

「けど、こいつが馴れ馴れしく姫様を星野と」

「そんなこと私は気にしません。何なら、ミーナって呼ばせようかしら」

「そ、それだけは!? ……分かりました。姫様がそう仰るならば」


 エミリアさんが合図すると一斉に剣を引くメイド大隊さん。

 重圧から開放された俺は首筋を軽くなぞって怪我がない事を確認する。


「ありがとうございました、姫様。姫様の温情、この宗方晶、感服いたしました」


 すかさず膝を折り、頭を垂れながらお礼の言葉を述べる。相手は姫君である。

 今までの態度を改め、それ相応の作法を持ってお礼を告げるのだが。


「や、やめてください宗方様。今までのように星野でいいですから。あと、その口調も元に戻してください」

「しかし、一国の姫君を私のようなどこぞの馬の骨が軽々しく話していい立場ではございません。本来なら最初っからこうするべきでございました。まことに申し訳ありません」

「……もう! エミリアのせいで宗方さんがおかしくなったわよ。どうしてくれるのよ!」


 それから数分間、似たようないざこいをした結果、俺はエミリアさんに元の口調で星野さんに話しかける承諾を得られたのであった。

 本人はかなり納得がいかないみたいだったけど。

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