[1日目]はい、私は付き人です
異世界召還で勇者となってもてはやされる。それはなんて甘美な日々なんだろうな、と思っていた頃が俺にもありました。
特に勇者になって、という所がいいよね。悪い魔王やら邪神を倒し平穏な日々へ誘う物語にあこがれていないなんて言えば嘘になる。それに運が良ければ可愛らしい姫様や冒険の仲間とリア充しか味わえない甘酸っぱい日々を味わう事も可能になるかも知れない。そう考えると、異世界勇者ってなんて待遇がいいんだろう、と誰もが思ってしまうよな。
「ようこそいらっしゃいました、勇者達よ。あなた方の来訪を心よりお喜び申し上げます」
真紅のドレス姿の女性が再びお辞儀する。小柄な体型に似つかわしくは無い胸の膨らみは反則もいいところだ。ロリ巨乳は邪道だ、と主張していた諸君よ。彼女のそれを見て果たして邪ロリといえるだろうか。否、断じて否である。
「えっと……。ここは?」
俺がロリ巨乳少女を胸中で賛美している最中、横から女性らしき声が届く。そう言えば、ロリ巨乳少女はこう言っていたな。ようこそ、勇者達よって。つまり、今回の召還は複数召還なのだろう。
声をした方へ視線を向けると、二人の少女達が困惑した表情で辺りを見渡していたのであった。
制服を着ているということは俺と大して年齢は違わないだろう。しっかし、どっかで見覚えのある制服な気がするな。右胸に馬のワッペンをつけている制服なんてそうそう見かけないと思うんだけど、な。
「ちょっと、そこのアンタ。ここは一体どこなわけ? 私達を誘拐してどうするつもりなのよ!」
二人のうち、一人のツインテール少女がロリ巨乳少女へ詰問する。
しっかし、見事なツインテールキャラであった。
ツルペタ貧乳でツインテールとは、狙ってやっているとしたらブラボーと賛辞を表したいところである。
これでツンデレ属性が付加されたら二次元ツインテ少女の再現と言っても言いぐらいだ。
「えっと、その……。私たちはあなた方を勇者として、この世界にお招きいたしました」
「勇者?」
次に声を上げたのは俺の隣にいた眼がね少女だった。ロリ巨乳少女の言葉が理解出来なかったのか、小首を傾げながら彼女の言葉を反芻するだけ。
眼がね少女の言葉に「そうです」とわが意を得たり、とロリ巨乳少女が話し始める。
「あなた方は、この世界を救う為に召還された我らの勇者様です」
「勇者? アンタコスプレして成り切るのもいいけど、そう言うのは他所でしてくれる。正直そう言う趣味は私たちには無いのよ」
「こすぷれ、と言うのは私には分かりませんがあなた方が勇者である事は間違いありません」
「だから、そう言うのがお呼びではないって言うのよ。どうやってやったか知らないけど、私達を帰しなさいよ。警察を呼ぶわよ!」
お怒りのツインテール少女は内ポケットから携帯電話を取り出し、ロリ巨乳少女へ見せる様に前に出す。
普通の人ならば彼女の行動で大体の察しはつくのだが、ここは異世界だ。当然の如くロリ巨乳少女はツインテール少女が示した意味を理解出来ないでいた。
「えっと、彼女。多分キミがやっている行動の意味が分かっていないようだよ」
「そんな分けないでしょ! アンタも男なら少しは何か言ったらどうなのよ。ほんと男って使えないわね」
ムカッ。
なんだよ、その態度は。いくら怒り心頭だからってちょっと声をかけただけでそれは無いんじゃないかい。
まぁ、俺って大人だしこれぐらいの罵声なんてびくともしませんけどね、いや本当だよ。
「お怒りなのはごもっともだけどさ、多分その電話って電波来ていないんじゃないかい?」
「そんな訳……。圏外? なんでよ! こんな時に圏外って役立たずね」
携帯電話のディスプレイに圏外表示されている事に気づき、さらに激昂するツインテール少女。
そんな彼女を宥めたのは隣で思案顔を見せていた眼がね少女であった。
「みくちゃん。今はおとなしく彼女のお話を聞かない? このままつっぱねても何も変わらないよ」
「眼がね少女の言うとおりだな、ツインテール少女。拉致にしろ誘拐にしろ、現状を把握してから動いても遅くはないと思うよ」
「もしかして、眼がね少女って私のこと?」
「あ、ごめんごめん。自己紹介がまだだったね。俺は宗方晶。私立明星学園に通う高校2年生だ」
と、自己紹介をしたら何故だか二人に「えっ!?」と驚かれた。
「宗方晶ってあの宗方? 根暗方って呼ばれているあの宗方?」
「おい待て、ツインテール少女。何で俺の不名誉なあだ名を知っている。……って、あぁ!? まさか、その制服って」
「理系2年3組の木崎みくよ。アンタと同じ私立明星学園に通う、ね」
お、同じ学園に通う同級生だと。おいおい、マジかよ。こんな偶然が起きるものなのか?
それとも誰かの陰謀に巻き込まれたんじゃないだろうな。
「と、言うことは……」
俺は同じ制服を着ている眼がね少女を見やる。
「はい。私は森崎四葉です。理系2年2組、あなたと同じクラスですよ」
今度はクラスメイトときたもんだ。
巻き込まれ系とかならよく聞くけど、こんな事案で同級生と一緒に召還される事ってあるのか?
って、そんな事考えても意味ないよな。検証する方法がないんだから。
「あの……。そろそろいいですか?」
恐る恐ると俺達に話しかけるロリ巨乳少女。いかんいかん、すっかり彼女の存在を忘れていたよ。
「あっ、ごめんなさい。少々混乱していたもので。えっと……」
森崎さんが言いあぐんでいる。恐らくロリ巨乳少女の名が未だに不明な為であろう。どうやって彼女を呼べばいいのかわらかないため、話しづらいのであろう。
「あっ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は星野・ミーナ・ブルースターです」
「星野?」
「はい、私たち王家の者は勇者の家系なんです。初代勇者、星野恵美がこの世界を守ってくださってから私たち王家は代々星野を名乗らせていただいています」
「左様でございましたか。納得いたしました」
色々と言及したいところがあったけど、それを指摘したら話しが進まないので、その辺りの話しはまた後日聞く事にしよう。
「それで、星野さん。どうして私たちがその勇者? ってのに選ばれたんですか。正直にお答えいたしますと、私たちは何の力もない一学生にしか過ぎません」
「いえ、森崎様。あなたと木崎様は神のお導きにより選ばれた勇者です。それは私が断言しましょう」
「随分とはっきり言うのね。証拠とかあるんでしょうね」
木崎さんのご指摘はもっともな話しね。普通は「あなたが勇者です」と言われて「はい分かりました」なんていう人は少ないはず。
見目麗しい女性に「勇者様」なんていわれたら、男は簡単に引っかかりそうだけどな。
「証拠ですか? ……そうですね。お二方、手を上にかざして私と同じ言葉を言ってくださいませんか?」
こんな風にと、ロリ巨乳少女こと星野さんが挙手するように片手を上げる。そのとき、胸が軽く弾んだのを見過ごす俺であるまい。いいものを見せてもらった。
星野さんの後に続いて森崎さんと木崎さんも片手を上げる。
「では、私の後に続いてこう唱えてください。【リリース】と」
「「【リリース】」」
言い放った直後、星野さんを初め三人の少女達が光によって包まれる。
「ちょっ、これってまさか!?」
俺は今日で何度目か分からないけど驚愕の声を上げる。この現象、俺は知っている。
いや、しかし。本当に現実にありえるのであろうか。だって、この現象は……。
三人を包んでいた光がおさまる。光の中から現れた彼女達は姿を変えていたのであった。
「燃え上がれ、愛の炎よ。邪魔する奴は私に蹴られて死ぬことね」
しかも、お約束の口上まで始まってしまう。ノリノリですな、星野さん。もしかして変身した後って必ず言わないといけないの?
「炎の姫騎士、フレイムヴァルキリー。恋の炎は誰にも消させないわ」
思わず感嘆の声を上げて拍手してしまう。いやはや、まさか生変身を拝める日が来るとは。人生何が起るかわかったものではないな。
……って、待てよ。まさか彼女達も?
「あなたに痺れる恋をお届けしちゃうぞ。私の愛で痺れないことね」
な、なんと。
次に口上を述べたのは木崎さんであった。
あの木崎さんがこんな恥ずかしい台詞をしながら投げキッスなんてしちゃっているよ。
これも変身効果って奴なのか。
「雷の姫騎士、サンダーヴァルキリー。私を痺れさせてくれる人はいないかしら?」
「ブ、ブラボー!」
なに!? なに、この変身効果。あのつんけんツインテール少女が物凄く可愛く見えるぞ。
てか、キャラ的に投げキッスなんて絶対にしないタイプだと思ったのに。変身効果マジぱねぇな。
んで最後は……。
「荒んだ心に愛の癒しを。私の愛であなたを癒して差し上げますわ」
キター。森崎さんの口上が始まりましたよ。変身効果で眼鏡が外れているけど――彼女は眼鏡で存するタイプだった。
眼鏡を取ることで可愛さと美人度が上がる人って書籍で書いてあったけど、嘘じゃなかったみたいだ。
「水の姫騎士、アクアヴァルキリー。私と一緒に癒されません?」
三人の変身シーンが終わり、俺は思わず力いっぱい手を叩き絶賛する。
「ワ、ワンダホー。エキサイティング! グレート! トレビアン」
もはや自分でも何を言っているのか分からない始末だが、そんな事はどうでもいい。
目の前で起った奇跡を俺は声を上げずにいられなかったのだ。
俺の声で正気に戻ったのか、決めポーズをしていた二人が己の姿を確認する。
煌びやかな服装に豹変した髪と瞳。背中には彼女達専用の武器が背負われている。
「な、何よこれ!?」
自分の変わった姿に声を荒げる木崎さん。
豹変した自分の姿を確かめる様に全身を確認する隣で森崎さんは膝を抱えて顔を埋めていた。
「私、なんて恥ずかしいことを……。穴があったら入りたい。入ってそのまま冬眠したい」
「お恥かしいことなんてありませんわ。この姿こそあなた達が勇者である確たる証拠です」
星野さんが言うには、勇者の資格がないと姫騎士モード、いわゆる変身が出来ないらしい。
……ん? つまり、何だ?
「あのさ、一つ聞いてもいいですか?」
「はい? なんでしょう、宗方さん」
「うん。軽くスルーされていたから、正直のところ予想していたんだけど……。俺は何でこの世界に呼ばれたわけ?」
「……え?」
俺の質問に星野さんは言葉を失う。どうやら俺の質問は予想の範疇外だったらしい。
えっと、と言葉を捜している星野さんは、恐る恐ると言った感じで尋ね解したのであった。
「あなたって、勇者の付き人か臣下じゃないのかしら?」
……あぁ、うん。そうですそうです、俺は勇者の家来――ってそんな訳あるか!
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「くそぉ。エリーの奴、どこに行った。急いであの日記帳を回収しないと――」
日記帳を奪取する為にエリオットの後を追ったのだったが、肝心の彼女の姿を見失ってしまった。
城の外に逃げられてしまったら、仕事で行動制限させられている晶が奪取するチャンスは皆無に等しい。
「待て待て冷静になれ、宗方晶」
大きく深呼吸をして、新鮮な空気を肺に入れる。乱れた呼吸を整え、思考を働かせる。
「そもそも、アイツは役職を持つお偉いさんの一人なんだ。早々城外に出る愚行を働く訳がない」
極めて冷静になって、推理を働かせていく。
エリオットの今日のスケジュールを思い出しながら、次に彼女が行きそうな場所を推測する。
「えっと、今日って隣国との復興会議だっけか? あれ? それって明日だっけか?」
長時間の仕事のせいか体内時計が完全に狂っている事に今更ながら気づく。
仕事を始めてから何日経って、何時なのか全く持って分からない。
「ウソだろう。俺ってそんなにワーカーホリックにかかっていのかよ」
仕事などしたら負けだ、と強く思っていた自分がこんなにも仕事一辺倒な人間になっていた事に驚きを隠せないでいた。
「……まいったな。あいつ、本当にどこに行ったんだよ。まさか、誰かに見せていないだろうな」
「――何を見せていないですって?」
「っ!?」
咄嗟に前方へ跳躍して距離を空ける。
振り向き様に身構え様として、自分が声を掛けた人物を知って止める。
「なんだ、みくか。脅かさないでくれよ」
「わたし、普通に歩み寄っただけよ。あんたが平和ボケしているんじゃないの?」
みくの一言に返す言葉がなかった。
日記帳に気を取られていたせいであろうか。それとも仕事続きで勘が鈍っているのかもしれない。
数年前なら背中を取られる愚行などされた事がないのだが、ここ最近はその比率が増えている傾向にある。
平和ボケしているのか、と聞かれたら思いっきり平和ボケしているのかもしれない。
「少し、ギルドにお世話になって勘を取り戻す必要があるかな」
「そん時は私も連れていきなさいよ。一人にすると無茶ばっかりするんだから、あんたは」
思い当たる節がありすぎる為、これも返す言葉がなかった。
笑ってどうにか誤魔化そうと笑みを繕う。
「それで、何を見せていないですって?」
「……えっと、何が?」
「あんたがさっき言ったんじゃない。『まさか、誰かに見せていないだろうな』って」
「あ、あぁ。その話し? いや、大したことないんだよ、本当だよ。ちょっとエリーに大切な物を取られて、探しているだけなんだよ」
「エリーですって」
「あれ? なんでそこで不機嫌になるんですか、みくさん」
さすがに今の会話でみくが不機嫌になる事はなかったはず、と自分の言葉を反芻して確認する。
しかし、当の本人は目を細め、僅かに両頬が膨らんでいた。
「ここ最近、仕事仕事で忙しいって言っていなかったっけ」
「え? 確かに言っていたけど」
「じゃあなんでエリーと会う時間があって私と会う時間がなかったのよ」
「ええ? ちょ、ちょっとみくさんや。あなた、とんでもない勘違いをしているのでは?」
「確かに彼女はあなたの相棒かもしれないけど、私だってれっきとしたあなたの妻よ」
「いや、だからあのですね。おーい、みくさん。みくさんや。俺の話し聞いてくれます?」
「やっぱり、胸が小さいのがいけないのかなぁ。……はぁ」
「おーい。帰ってこーい」
その後、みくを説得するのに数十分かかるのであった。




