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撃墜女王と操り人形の王子  作者: 霧島まるは
操り人形の王子
13/14

王子様とシンデレラのキス

 アルバは、すっかり二人を警戒してしまったが、チナは上機嫌だった。


 なぁんだ、と。


 プァンスとサンドと、彼らは顔見知りだったのだ。だから、こんなにいろいろ、手に取るように分かるのかと。


「ねえ、チナ」


 厨房にいる彼女のところに、プァンスが顔を出した。珍しいことだ。食事を終えたら、いつも眠る彼女が起きている。


「なぁに? おやつ?」


 チナは、次の食事の下ごしらえの手を止めた。


「おやつも欲しい~……でも、その前に聞いていい?」


 見えるのは、プァンスだけ。でも、すぐ物陰にサンドがいるのも分かる。


 あの香りがするのだ。


「なぁに?」


 おやつかぁ、何を用意しようかなあ。チナの頭は、半分だけおやつのメニューを考えていた。


「アルバ、私がパペットってこと、気づいたでしょ?」


 おやつ、おやつ、うーん。


 って、ん~?


 チナは、思考の半分を元の脳みそにくっつけた。


「パペット? ああ。そういえば、そんなことを言ってたかしら」


 答えた後、また半分をおやつに戻す。


「果物のタルトとかどう?」


 ぽんと。


 やっといい案が浮かんで、チナは手をたたいた。振り返ると、少し機嫌を損ねたようなプァンスの顔。


「タルトは好きじゃないのね……じゃあねぇ」


 脳内をふわりと飛び回る、パズルピース。どこにはまればいいか、探しているかのようなその破片。


「違うって……タルトでいいの! そっちじゃなくて」


 チナのパズルピースを叩き落とすように、プァンスが割って入る。


「タルトね……じゃあ乗せる果物は…桃ね? そうでしょ?」


 瞬間。


 プァンスが、横を見た。彼女の夫がいる方だ。


 「どうしよう」──それは、心配そうな横顔だった。



 ※



 プァンスの肩を抱くように、陰からサンドが現れた。


 少し、怖い目をしている。大きな彼が、チナを恐れている気がした。


「何にも怖がることなんてないのに……だって、私達、前にも会ってるでしょう?」


 るるるん。


 タルトを作るための、パウダーコードを押す。


 ボウルを準備して、パウダーを入れる。


 砂糖に小麦粉にバター。


 順番にパウダーを用意しながら、チナは二人の方を振り返った。


「だ、だめだよ、チナ……」


 プァンスが、不安そうな声を出す。いつも、ご飯ご飯と元気のいい声の彼女が、震えている声を出すなんて。


 何故、そんなにチナを恐れるのだろう。彼女は、本当に調理くらいしか取り得のない女なのに。


「だめだよ……サンド……絶対だめだからね」


 その震えを、プァンスは自分の夫にも向けた。


 ああ。


 恐れているのは、チナの記憶なのか。彼らに会ったことがある、という記憶。


「心配しないで、プァンス、サンド」


 チナは、タルトを作りながら、にこっと微笑んだ。


「私達は、カボチャの馬車よ…魔法がとけたら、ただのカボチャとネズミに戻るだけ…ちゃんと分かっているわ」


 ピースがまたひとつ、チナの頭の中ではめこまれる。


「あ……あ……ああ……」


 プァンスは、後ろ手にサンドの服をぎゅうっと掴んでいる。いまにも、泣き出しそうだ。


 涙より先に。


 プァンスの髪が、しゅるしゅると伸び始める。


 身体も、しなやかに伸び始める。


「……!」


 異変に気づいたサンドが、そんな彼女を強く抱き寄せ──口付けた。


 深く深く。


 人目があるからとか、恥ずかしいとか、そういう感覚はまったくない。そうしなけれならないのだと、チナに伝わってくる口づけ。


 プァンスは言った。


 サンドも、彼女の食べ物だと。


 成長が──止まった。



 ※



 ハァハァ、と。


 プァンスが、涙を流しながら全身で呼吸を繰り返す。


 チナは、慌ててタオルを取り出した。駆け寄って、差し出す。


 サンドは──拒まずに受け取った。


 それで顔を拭いてやるのではなく、プァンスの手に握らせる。赤ん坊のように、彼女はそれをぎゅうっと両手で握り締めた。


 みな。


 心配しすぎなのだ。


 アルバは、二人をパペットだと慌てているし、この二人はチナを怖がるし。


 けれども。


 チナの頭の中のパズルが、この二人にとって邪魔だと言うのなら。


「プァンスが困るなら、綺麗に忘れるわ……きっと私なら出来るから」


 パズルなど、またバラバラに混ぜてしまえばいいのだ。


 はっと。


 タオルを握り締めるプァンスが、顔を上げてこっちを見た。


「やだ! やっぱやだ……チ…ナ…忘れないで……私を忘れないで!」


 泣きながら、半端に成長してしまったプァンスが、チナに訴える。


「何度でも、プァンスって名前を私につけて! 王子様って呼んで!」


 パズルが、パチパチとはめこまれていく。


 忘れていた記憶──いや、忘れさせられていた記憶が、もう一度チナの中に組み上がっていくのだ。


 前回もこうして、彼らを危ない星まで運んだ記憶。


 彼女らは、人に素性を知られてはならない。だから、前回の仕事が終わった後に、サンドは彼らに記憶処置を施したのである。


 パペットを運んだことなど、何も覚えていないように。


 民間の船を、最低限のクルーで使うのは、極力プァンスを人目にさらさないため。軍にも、彼女の詳細を知られたくないのだ。


 そして、自由に船内を歩き回らせ、おいしいものを食べさせるため。


 でも。


 そんな、難しい理屈なんか、チナにはどうでもよかった。


「私の料理を、忘れないでいてくれてありがとう」


 チナは、彼の腕の中のプァンスを、覗き込むように微笑んだ。


 だからまた、アルバに仕事を頼みにきてくれたのだ。


 雷のお菓子と桃が大好きな、可愛い王子様。


「うわ…うわーん、うわーん!」


 もう成長こそしなかったが、あんまり大きな声でプァンスが泣き始めるものだから。


「何事だ! って、またなんか育ってねぇか? つか、うるせぇえええ!」


 操縦室から飛び出したアルバが、いろいろ忙しそうだった。



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