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撃墜女王と操り人形の王子  作者: 霧島まるは
操り人形の王子
11/14

ネズミの御者は真夜中に惑う

 一日、4食。


 毎回10人前は食べる。


 だが、髪が伸びたり成長したり、というのは、最初以来見ていなかった。


 食べてしばらくすると、うとうとし始める。そうなると、サンドの旦那が、彼女を抱いて寝室へと連れて行く。


 夫婦っつうより──子守?


 それが、アルバの印象だ。


「備蓄、大丈夫か?」


 二人が寝室に消えて、アルバは妻に聞いてみた。食料の減り方が、ハンパないはずだ。そっち方面の手配は、専門家の妻に任せているので、彼は知らなかった。


「大丈夫よ……軍の人が、たーくさん積んでくれたから」


 妻は、にこにこと大きく手を広げてみせる。たーくさんをアピールしたかったのだろうが、出所が問題だ。


「軍ねぇ」


 百歩譲って、あの男が軍関係者だとしても、チビ嫁であるプァンスが軍人とは思えなかった。


 別の意味では、異様な存在なのだが。


「何も心配いらないわ……あなたは、上手に彼らを運んで降ろしてあげて」


 微笑みながら、チナは猛烈な食事の跡を片付け始める。


「そこまで優遇されるんなら、なんで軍の船で送ってもらわねぇんだろうな」


 あの星の掃除に行く、なんて──深読みすれば物騒な内容なのに、民間の操縦士を使うっていうのが解せない。


 軍なら、余裕で彼女の食事もまかなえるだろうに。


「ふふふっ、私達はカボチャの馬車なのよ…ちゃんと舞踏会に送ってあげないと」


 チナは鼻歌を歌いながら、厨房へと消えていった。


 チビがプァンス(王子)で、旦那がサンドリヨン(シンデレラ)ねぇ。


 妻の説明に、逆じゃないかと突っ込んでみたことがあったが、キョトンとした顔が返されただけ。


 ちくしょう、可愛い。


 知的な表情が、あどけなくなる瞬間だ。チナのやらかす頓狂なことも、結局アルバのハートを打ち抜くだけだった。


 それ以前に。


 これまで、彼女がこの船でやらかしたことが、裏目に出たことはまったくない。どんな悪党を相手にしても、上手に食べ物で手なずけるのだ。


 プァンスも、すっかりチナの料理にメロメロなのは、見ていて分かる。アルバには近づいてこないが、チナにはべったりだった。


 ついさっきの、食事の時だって。


「雷のお菓子が食べたい」


 と、名指しでデザートの注文をしていた。


 雷のお菓子ってなんだと思ってみていたら、チナがにこやかに、山盛りのエクレアを抱えてきた。


 なんで、雷でそれが出てくんだよ、そんで当たってるのかよ!


 変人同士の独特の世界に入れず、アルバは唸ったのだ。


 ただ。


「あなたに、きっと力を与えてくれるわ」


 妻が、よく分からないことを言ったら。


 エクレアに伸ばしかけた手を、プァンスが一瞬止めた。


 あの食欲魔人が、食べるのを止めるなんてと、アルバが驚いた瞬間だった。


 ただ。


「えへへ」


 何故だろう。


 アルバには、その時のプァンスが少し泣きそうに見えた。



 ※



 操縦士は一人。


 しかし、アルバだって睡眠を取らなければならない。到着まで、あと10日は間違いなくかかるし、ここはまだセーフティエリアだ。


 遠隔コンパネを手元に置いておけば、一応睡眠を取ることは可能である。


「いまのうちに休んどくか」


 標準時では、もう真夜中だ。チナも既に、夢の中だろう。


 寝室に向かおうと、アルバは操縦室から居住エリアへと向かった。最小の薄暗い照明の中、奥の寝室へと歩いていた時。


 彼は──聞いてはならないものを、聞いた。とてもとても小さいが、声が漏れてくるのだ。


 アルバが、自分の耳のよさを、恨む瞬間でもあった。それは、女の、いわゆる、そういう声に、聞こえたのだ。


 うぉい!


 彼らのドアに向かって、叫びたい気持ちを、アルバは必死で抑えた。ピアノをフォルテッシモで殴り弾いたとしても、音は外には漏れない。それほどの、防音力のある壁のはずだ。


 なのに、なぜ漏れる!


 詳しく考えたくなかった。中で、あの嬢ちゃんが、猛獣のように雄たけびをあげている──それが答えだからだ。


 もしかして、虐待とかの方じゃないだろうな。


 さすがに信じがたく、アルバは彼らのドアの前で立ち尽くす。


 すぅっと、後方のドアが開いた。びくっと振り返ると、寝室から起き出してきたチナと目が合う。


 メガネのない目を、少し眠そうにこすっている。


「あっ、いや、これは…」


 決して、盗み聴きとか覗きとかではなく。


 アルバが、妻に言い訳をしようとしたら。


 その身体を、妻がぎゅーっと抱きしめてきた。


 寝起きのチナは、何故かバニラの匂いがする。それが、ふわっと鼻先をくすぐった。


「大丈夫よ、あなた……心配いらないわ……寝ましょう」


 そして、寝室に引っ張り込まれた。


 うーん。


 妻は、あの二人のことを理解してしまったようだ。だが、それを言葉に変換する能力は備わっていなくて、聞いてもかみ合わない答えが返ってくるだけ。


 だが。


 チナが心配ないというのなら。


 大丈夫なのだろう。


 多分。


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