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撃墜女王と操り人形の王子  作者: 霧島まるは
操り人形の王子
10/14

王子様と魔法使いのシェフ

 船を自動航行に切り替え、アルバはようやく操縦席を離れることが出来た。


 非常時用の船の遠隔操作コンパネを片手に、居住デッキへ移る。


 妻が一人で、あの二人の応対をしているのが、ちょっと──ではなく、かなり気になっていたからだ。


 そして、彼は見た。


 この世の全てを、食らい尽くすんではないかという勢いの少女を。次々に運ぶチナの料理は、またたく間に片付けられていく。


「あら、あなた……あなたも食事にする?」


 微笑む妻には悪いが、アルバはうっぷと口を押さえていた。普段、人より食べる自覚のある彼から、食欲を奪うなんて、とんだモンスターだ。


「おいしい、すっごくおいしい」


 だが。


 顔のあちこちに食べこぼしをくっつけたまま、依頼主の妻は大満足の笑みを浮かべた。


 ん?


 その髪が。


 出港前に見た時より、少し伸びている気がした。


 ベリベリベリショートだった髪が、普通のショートに見えるのだ。


 まあ、それは勘違いにしても、この二人が夫婦という事実が解せない。


 男はどう見ても成人しているが、対する彼女は、多く見積もっても中等科が終わったかどうかくらいだ。


 こんな見た目で、年齢を止める人間などいない。ということは、彼女は今なお、成長中なのかもしれなかった。


 しかし、きっぱり夫婦と言われたしなあ。


 アルバの頭は単純で、複雑な話にはついていけない。


 危険な仕事をやり終え、G.B.で騒いで、酒を飲んで、チナを抱えて眠る──そのサイクルが、アルバの基本であり、脳の活動パターンでもあったのだ。


 考え込んでいる内に。


 お、おい。


 また、髪が伸びていた。


 今度ははっきりと分かった。


 完全に露出していた彼女の耳に、髪がかぶさっていたからだ。


 身体も、一回り大きくなった気がする。


「うふふ、いっぱい食べて大きくなってね」


 おおらかな妻が、また次の料理を持ってきた。


 おいおい。


 冗談じゃなく、本当にその言葉通りになりそうだった。



 ※



 食事がようやく終わる頃には、すでに髪はおかっぱほど。姿は、高等科の生徒くらいになっていた。


 それでも、ようやく女性と分かるくらいだ。


「ごちそーさまっ、んー、チナの料理サイコー」


 皿の上には、かけらも残らないほど綺麗に食べつくし、シェフに賛辞を贈る少女。


 さすがにもう、アルバは驚かなくなって、少し離れたソファから、それを見ていた。


 トランクで妻を運ぶ変人がいるかと思ったら、食べた端から成長する小娘と来たものだ。


「蓄積機関の調子が、よくないようだな…」


 そんな大満足の彼女に、夫である男が小さくささやく。残念だが、アルバの耳と目は滅法いいから、きっちり聞こえていた。


「え? あ? 漏れてる? ほんとだ」


 少女は、自分の頭に触って、アチャーっという顔をした。


「温存しなきゃいけないのに……いいよ、チナの料理ならいくらでも食べられるから」


 えへへ。


 片づけを始めたシェフに、彼女は満面の笑みを浮かべる。そんなチナが、片付けの手を止めて、少女を見返す。


「ところで…何と呼んだらいいのかしら?」


 親愛のこもった目に、少女は一度男の方を見た。少し、戸惑っているように感じる。


「前にもらった名前でいいかな……結構気に入ってるんだ」


 へへ、っと少女は笑いながら、奇妙な言葉を口にした。


「んー……じゃあ、私が思いついた名前はどうかしら?」


 しかし、それに立ち向かうチナも、たいしたズレっぷりだった。自分が、相手に名前をつけようというのか。


「サンドリヨンにはダンスの相手が必要だから…あなたはきっと、王子様プァンスね」


 理解できない言葉の羅列に、アルバは空笑いをするしかない。時々、銀河の彼方みたいな表現をするのだ、チナは。


 まあ、シンデレラとサンドリヨンが発音こそ違え、同じものだということは、古代文学メルヘン好きの妻に叩き込まれていたので、何となく理解は出来る。


 だがそれは、あくまで彼がチナの夫だからだ。


 初対面の変人たちに、通じるはずが──


「あ、うん! それでいい! あたしはプァンス、こっちはサンドって呼んで」


 なのに、少女は本当に嬉しそうに顔を輝かすではないか。


 通じてんのか? それでいいのか?


 変人同士の割り込めない空気に、アルバはずるっと椅子からずり落ちそうになった。


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