ギルド
やっぱり依頼はむりでした。でも次こそは!
扉をくぐって中に入ると中は思っていた以上にキレイで整理された空間が広がっていた。扉を背にして右を見ると大きなテーブルとたくさんのイスがたくさん並んでいて、左側を見ると掲示板が立てられていてそこにはびっしりと羊皮紙が刺さっていた。あれが依頼書だろう。そして正面にはいくつものカウンターが並んでいて、そのいくつかは人が立って埋まっている。
「ようこそ冒険者ギルドへ。今日はどういったご用でしょう。」
声をかけられた。カウンターからではなく、扉のすぐ隣にも一つだけカウンターがあり、そこに座っている女性がその声のもとだった。
きっと受付嬢の類だろう、笑顔が似合っている。看板娘も兼ねているのかもしれない。ファンも多そうだ。
「今日はギルドに登録をしに来たんだ。どこにいけばできる?」
「それでしたら依頼掲示板の奥に階段がありますので、そこを2階まであがっていただければ登録が可能です。」
「わかった、ありがとう。」
いってらっしゃいませ。という声を後ろから聞きながら俺は2階へ上がっていく。まだまだ上に続く階段はあるが今は気にしないでおこう。
2階に着くとここもまたカウンターが並んでいた。だが下よりもその数は少ない。初心者登録用だからだろう。
その中の一番近いカウンターが空いていたのでそこに行く。担当のお姉さんが俺が近づくとあいさつをしてきた。
「いらっしゃいませ。冒険者登録ですね。」
「そうだ。よろしく頼む。」
「ではこちらの紙に必要事項を記入してください。代筆や代読の必要があればいたしますので必要ならば言ってください。」
「いや、両方ともいらんよ。自分で書けるし読める。」
登録用紙に目を通すと名前や階級、魔法が使えるかどうか、得物はなにかといった質問があった。中には犯罪歴なんてものもあったから、やはり脛に傷のあるやつも来るらしい。
「名前は偽名とかでもかまわないか?」
「はい。ですがその場合だとギルドカードにその名前が書かれてしまうので公式的な名前が偽名となってしまいますよ。」
「かまわねえや。じゃ、書くな。」
こうして俺はどんどん必要事項を埋めていく。名前…シキ、階級は平民だな。市民権とか持ってないけど。魔法は使えるにしておいて得物は剣。犯罪歴は無しっと。
「書けたぞ。」
「はい、では確認しますね。…あら。」
「ん?何か?」
「あ、いえ。剣を7本も持っていらっしゃったのでてっきり魔法は使えないものかと思っていたので…。」
「やっぱ珍しいのか?」
「そうですね。魔法は修めるのに相応の時間がかかりますし、修めたら修めたで魔法ばっかり使うのが普通です。ですから剣も使えるというのはちょっと聞きませんね。」
そりゃそうか。どっちを使うにしろどっちか一つを極めた方がいいに決まってるし両方使うというやつは珍しいだろう。前衛職と後衛職では戦法が全然違うし。そういう意味ではルークは結構器用なやつって部類だったのかもな。
「失礼しました。登録には問題ありませんので奥で情報を打ち込んできます。少々お待ちください。」
そういって奥に引っ込むお姉さん。入口のおっさんといい、なんで登録するのにいちいち奥に引っ込むんだろうな。待つ身としては結構退屈なのに。人の目があるからうかつに魔法も使えないのに。
しばらくしてお姉さんが戻ってきた。手には写真サイズの大きさのカードを持っている。
「お待たせしました。ではこのカードに血をたらして下さい。」
差し出されたカードとナイフを手に取る。ナイフで手を切り、カードに血をたらす。するとカードが光り、シキと書かれた文字が浮かんできた。
「お疲れ様です。これで冒険者ギルドへの登録が完了いたしました。ギルドの説明を聞きますか?」
「ああ、よろしく。」
「ではご説明させていただきます。まずは冒険者ギルドの主な内容から説明させていただきます。」
お姉さんがギルドについていろいろと話してくれた。まとめるとこうだ。
・ギルドではさまざまな人からの依頼を受けることができる。(冒険者ギルドに登録していれば依頼もできる。)ただし受けることができる依頼は同ランクと一つ上のランクの依頼だけ。
・ランクアップには同ランクの依頼を10回、一つ上のランクだと5回依頼を達成すると上のランクにあがることができる(ただし依頼内容によってはもう少しかかる場合もある。採集依頼のみを受け続けてランクアップを狙うなど。だが決してそれでランクアップできないわけではない。)
・討伐依頼は事前に指定された討伐部位を取ってきて1階のカウンターに提出すれば依頼は達成。採集も現物をカウンターに出せば完了で、護衛依頼は依頼人から達成証明書にサインしてもらえればOK。その他の種類の依頼もおおむね似たような手順で達成とみなされる。
・依頼を失敗したり途中でやめる場合は違約金が発生する。違約金の額はもともとの依頼達成報酬の半分。また、何度も失敗するとランクが下がり、ひどい時には登録抹消もありえる。簡単な依頼を失敗するほどその手のペナルティーの対象になりやすい。
・基本的に同時に受けられる依頼は一つだが、常時討伐対象となる魔物を討伐し証明部位をギルドに持っていくとちゃんと報酬をもらえる。それ以外にも狩った魔物の素材なんかも買い取ってくれるらしい。
・ギルドカードは紛失すると再発行には金貨1枚かかる。再発行せずもう一度登録しなおすとランクも一番下からやり直しになる。だからカードを紛失するような奴は相当馬鹿な奴としてなめられることもしばしばあるらしい。
・依頼は個人で受けてもパーティーで受けてもいいが報酬はメンバーで山分けとなり受けられる依頼はパーティーリーダーのランクと同程度までとなる。
と大体こんな感じだ。他にもいろいろあったけど、当面覚えていればいいのはこれくらいだそうだ。ここまでは前の世界で読んでたギルドとほとんど同じだが、この世界には少し変わった依頼もあるらしい。それが
「傭兵依頼?」
「はい。この依頼は主に各国から依頼されるもので、文字通り依頼を出した国の兵士の一員として戦争に参加していただきます。」
「冒険者なんて身元の分からないやつにそんなことして大丈夫なのか?情報漏えいとかは?」
「ですから受けられるのはCランクからとなっています。そこまでランクが上がれば周りからの目もありますからあからさまに裏切ったりとかはしませんし、ギルドでもそのようなことがないような仕組みを用意してあります。」
そこら辺はしっかり考えられてるんだな。魔法もある世界だし、前の世界よりもそこら辺はしっかりしてそうだ。
「でも受けるメリットってあるのか?Cランクくらいになれば受けれる依頼にも困らないだろ。戦争って下手な討伐依頼より死亡率高いんじゃないか?」
「ですがその分報酬は多いですし、味方した国が勝っても負けても報酬はギルドから支払われるので生きてさえいれば多くの報酬を受け取れます。それに活躍すればその国に召し抱えられたり、その国の王から領地内でいろいろ優遇してもらえたりすることもあるので、腕に自信のある人とかは結構受けたりもするんですよ。」
やっぱり結構考えられているようだ。でも小国とかの依頼って受ける奴いるのか?あっ、だからこそ勝っても負けても報酬が支払われるようになってるのか。そうしておけば生きてさえいれば一定の金額は約束されるからな。
「なるほど、よくわかったよ。じゃあひとまずはCランク目指して頑張ってみるかな。」
「そうしてください。期待していますよ。だいたい説明は終わりましたが、まだ何か聞きたいことはありますか?」
お姉さんのスリーサイズ!といいたいところだが我慢だ、我慢。
「うーん、ギルドとは関係ないかもだけどここら辺でおススメの宿屋ってどこ?今日からしばらくそこを拠点にするからさ。」
「でしたらここを出て右側の通りを少し行ったら『戦士の止まり木』という宿があります。決して高級ではないですが依頼に必要なものを売っている店やギルドが近くて料金も安いですから新人冒険者から一流の冒険者まで利用されているところですよ。」
なるほど毎回聞かれるたびにそこに集めるわけですね、わかります。新人が問題を起こすなんて今も昔もよくある話だからな。できるだけ一か所に集めたいわけだ。
「ありがとう、そこに行ってみるよ。」
「これからもどうぞお気をつけて。ありがとうございました。」
お姉さんに見送られてギルドを出る。依頼を見てみようかと思ったけど今日のところはさっさと宿に泊まって休みたい。今日だけでいろいろありすぎだ。
言われたとおりに宿に歩いて行って中に入る。入ると中はちょっとした大きさのホールのような広い場所があり、奥にカウンターがあり、その後ろには食堂と思われる大きなテーブルとイスが置かれた空間がある。
「らっしゃい。宿に泊まるかね?」
「ああ、とりあえず料金はどのくらいかかる?」
「一日銅貨3枚だ。朝と夜に飯は着くが本来の時間を過ぎると飯代として銅貨2枚かかるぞ。」
一日銅貨3枚か。ルークがだいたいの宿が銅貨5枚って言ってたから安い方だな。時間外に飯を頼むと料金が別にかかるのか…。これから依頼を受けたりすると寝過ごしたり間に合わなかったりするだろうから気を付けないと。もしかしてそのケースが多いから一日銅貨3枚とかにもできるのかもな。
「わかった。とりあえず一週間分頼む。」
「そうか。なら21枚だな。」
「銀貨でいいか?」
まいど、と言っておっさんが釣りの銅貨79枚を出してくる。かなりかさばるな。ガルクが渡してきた袋がやけに大きいなと思ったらこういうことか。確かに銀貨で買い物なんかしたら銅貨がかさばってしょうがない。今度袋を改造する必要があるな。
「部屋は二階の一番奥の部屋だ。ほら、鍵。」
「サンキュー。」
二階に上がって部屋に入る。内装はベッドに小さな丸テーブルとイスだけで、なんとなく学校の寮の部屋という感じがする。荷物(剣と財布しかないが)をベッドの脇に置き鎧を脱ぎ、ベッドに身を投げ出す。あまり柔らかい感じはしなかったが今の俺には十分だ。
「疲れた…夕食まで一眠りしよう。」
その言葉の後俺はすぐに眠りに落ちた。